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14.露骨な曇らせ

あの時のことをラクタに尋ねても「何でもない」「大丈夫」とはぐらかされ、まともに答えてはくれなかった。

挙句の果てに「女の子の日」とか言い出すものだから、他に追及する手立てもなく、うやむやにされている。


これは、露骨な曇らせである。

いったい、ラクタに何が起こったのだろうか。また、作者は彼女に何をしたのだろうか?

そして、ラクタが必死に隠していることは何なのだろうか。

ここが物語の大きな転換点っぽいことは分かるが、あまりにも唐突である。

俺は律儀にリコ→ラクタの好感度上昇イベントをこなしていただけである。


相変わらず、作者の意図や目的ははっきりしない。

しかし、見えてきたこともあった。

それは、メイド三姉妹はそれぞれ物語において「役割がある」ということだろう。

彼女らは、単なる推しや萌えの対象ではなく、物語の根幹に関わる属性と役割を与えられている。

リコの属性は「護衛役」と「肉体性エネルギー」の話。

ラクタは「こだわり」と「魔法(精神性エネルギー)」の話。

そしてアミラは「魔力への変換が上手」だとか「ゆりの木の館の寮長をしている」という話はぼちぼちあるものの、個人の人間性や属性に焦点をあてたイベントは発生していない。

アミラの設定に何かしらの意味があるため、敢えてまだ秘密にされているのかもしれない。

彼女周りの動向は要チェックである。


さて、本日は休み明けの出勤日である。

お勤めと言っても、ご領主である橘氏の隣にいるだけ。会議も置物として話を聞くだけで、何の決定権も発言権もない。

当たり前である。俺は外からやってきた部外者であり、"特別な存在"である転移者ってだけで、立場を与えられている。

それでも、橘氏からは「頭がいい」と信用されて、ゆくゆくは大事な政策に関わることを期待されているのだから、俺もメモを取ったり、個人的な議事録を作るなどして真面目にやっているつもり。

俺が不在の一週間の出来事を橘氏や側近に尋ねたが、この国はいつも通り平和であったという。

しかし、例の難民が発生した原因が徐々に明らかになっているという報告があった。

「どうやら、我が国の南方に位置するファシオスの郊外で、正体不明の襲撃者によって、集落が無差別に襲撃されるという事件が相次いでいる様です。防衛大臣は、これが難民の発生原因だと結論づけています」

会議の最後、細見の神経質そうな側近が淡々と報告を読み上げた。

「以下、防衛大臣より、我が国の対応の提案を三点承っております」

『一つ、ファシオス防衛庁から、カシワシに亡命する難民たちに関して、一時的に預かってもらいたいとの連絡があり、我が国としてはこの要請に応じるべきである』

『二つ、ファシオス共和国は現在、全力を挙げて襲撃者への対応を行っているが、対応が後手後手になっている事実は否めない。難民対応の要請もあり、現在ファシオスは深刻な非常時であると考えられる。よって、友好国としてこちらから援軍の派遣を検討していただきたい』

「以上です。ご質問は、タチバナ様から受けつけたいと思います」

「色々と疑問に思ってたことはあるんだけど、まずなんでファシオスの民が遠いウチの国に逃げて来てるの? ファシオスの都会とか安全なところに匿ってもらえばいいじゃん」 

「その件についてですが、難民からの聞き取りによりますと、襲撃者は人口の多い集落を狙っている様です。特に、直近に亡命した難民からは、既に幾つかの地方都市も破壊されているとのことです。ですので、敢えて近くの人口密集地は避け、逆方向の我が国を目指したと聞いています」

「え、地方都市幾つかやられているんだったら、相当深刻じゃないの? もしかしたらオレの出番ある?」

シリアスな話だというのに、橘氏は人目も憚らずテンションが高い。ここしばらく、自分のチートスキルを使う機会が無いと嘆いていたからであろう。

「いえ、タチバナ様。早とちりはいけません。タチバナ様は国防の要、抑止力でございます。国外に出張っていかれては、我が国こそ外敵に対して無防備になってしまいます」

側近は毅然とした態度を崩さず、ぴしゃりと言って橘氏の発言を諌めた。

「あ、そっか……。でも早く対応しないと被害が大きくなるだろうし、見殺しには出来ないよな」

そう言われると、橘氏は大人しく引き下がった。

かつては橘氏もラノベの主人公として、動きのある人生を送ってきたかもしれない。

しかし、側近の言葉からは、橘氏が主人公である物語は既に終わり、彼も舞台装置の一つに徹するように促すようなニュアンスが感じられた。

恐らく、橘氏が領主に据えられた時から、この停滞は起こっている。

しかし、橘氏はそれを深く考えようとせず、敢えて曖昧なままにして、停滞した幸せを得ることを選んでいるように見えた。

ある意味、据え膳だらけの世界で生きるには、そんな諦めが幸せに生きるための条件なのかもしれない。

「まずさ、襲撃者に"正体不明の"ってのが付いてたけど、何かしらの情報はないの? 山賊とか、暴力団とか。まさか魔物って線は無いよね?」

例として挙げられた悪者は、まるで世界観がバラバラだな。魔物はこの前いないって言ってたじゃん。

「それが、襲撃者は一体で単独行動を行っている様なのですが、外見からは人間とも化け物とも形容し難い生物の様です」

「そうなんだ……なんだか新しいパターンだな……。ドラゴンや◯◯レウス的なモンスター系なのかな」

「いえ、しかし……その襲撃者からは、魔力の反応があったそうです」

「え、そしたら人間じゃん。いや、やっぱり魔物とか? 気になるなー」

橘氏はそう呟きながら、ちらちらと側近の顔を窺うが、おねだり虚しく顔を振られてしまう。

「じゃあ、俺が魔素戦争時のパーティメンバーを派遣するよ。アミラとフルクス、マルトス、ラーゲンたちに話を通しておいて」

あっ、完全に油断していたところに、アミラの名前が出てきた。

なんだ? つまり、アミラはかつての勇者パーティの一員だったって?

そんで、久しぶりに魔素戦争の話が出てきたな。すっかり忘れていた。

これは後でじっくり話を訊かないといけないな。

「あと、魔力透視が出来る人を付けておいて。相手が人間なら、それで襲撃理由も分かるかもしれないし」

「ラクタ女史はいかがでしょうか?」

「あー……ラクタはね。七年前だって、本当は戦場に連れてきちゃいけない齢だったし、本人も嫌だろうから別の人を探してきて。あ、難民の件はみんな良いよね? うん、じゃあ防衛大臣に伝えておいて」

「承知致しました」

なんだかラクタの話も出てきたな。

「他、質問が無ければ以上で報告は終わりにさせていただきたいと思います。尚、この事は機密ですので、どうか部外者には漏らさぬよう……」

側近は畏まって申し上げたあと、チラリと俺の顔を一瞥し、意味有りげな視線を飛ばしてきた後、会議室を出て行った。

会議がお開きになった後、話しやすい橘氏に色々と尋ねてみる。

「なんか色々知らない情報出てきたんだけど、魔素戦争とかアミラのこと教えてよ」

「あっハイ、オレの知ってる限りだったら」

「アミラって、魔素戦争にどう関わってたの?」

「あー、彼女は魔素戦争で生まれた戦災孤児だったんスけど、彼女の強い希望でオレのパーティで一緒に戦ったんですよ。ポジションで言えばタンクで、スキルブッパした後の無防備な俺を守ってくれました」

「どうしてそのコを俺の世話役に寄越したんだ? 大体そういう戦友って、ずっと一緒にいるもんだろ?」

それこそ、女のパーティメンバーなんて、ハーレム構成員の一人になりそうじゃないか。

「えー、まあその、魔素戦争で一緒に戦ったメンバーというのが、オレと日比谷さんと同じくらいの齢でアニキ分のマルトス、ジジイのラーゲンに、男勝りのフルクスが初期メンだったんすよ。途中でアミラが入ってきたのはいいんスけど、なんか戦うのに必死で恋愛とかそういう感じにはならなくて……」

まったく、これは橘氏の性格から余計な情報が多すぎる。

「あなたがアミラを攻略しなかった話はどうでもいいのよ。魔素戦争後、どういう経緯でアミラを今の立場にしたの?」

「それは……戦争が終結した後、メンバーそれぞれに好きな事をしていいよって話になったんすよ。そしたら、アミラは召使いの仕事をしてみたいと言って、他の戦災孤児の面倒やまとめ役をしたかったみたいです。そこで、日比谷さんがやってきたんで、最も信頼できる人材として世話役を任せました」

「あっでも、もし何かあれば召集してくれって約束は、パーティメンバーみんなでしていました」

じゃあ、アミラも元は戦闘員だったのか。

あの穏やかな雰囲気からして意外である。

「アミラはいま、俺の生活の面倒を見てくれていて、ゆりの木の館の寮長をしているんだ。彼女が抜けると困る人も多いし、俺もこれから誰に相談すればよいか困る。その辺りの話もよろしく頼むよ」

「あっ、わかりました。言っておきます」

「それと、ラクタのことも教えてくれ。彼女も何かしらで魔素戦争に関わっていたんだろう?」

すると、橘氏は平和ボケした表情から一転して、苦々しい表情で過去の話をしてくれた。

「ラクタは……魔素戦争の時は十歳だったかな? 良家の娘さんだったんスけど、魔力透視が出来るということで、武官の親に戦場に連れてこられて、見たくないものを見ちゃったらしいんすよね」

「戦争に利用されたってことか」

「直接現場を見た訳じゃないって聞きますけど、命の危険があるところに行かせるのは可哀想だと思ったから……」

「そうだったのか……それなら、みんなの前ではっきり言って撤回させたのは正解だよ」

俺は褒めてやるつもりで橘氏の背中をポンと叩いた。

「俺もよくラクタと話すけど、魔素戦争の話はあまりしたくないような雰囲気があった。その辺りの人の都合を、側近たちは気にしないんだろうな」

「そうなんすよ。ただ、彼らも自分の気持ちを押し殺して仕事をやっている感じがあるんで、お互い様っちゃお互い様なんすけどね」 

橘氏はそう言って、仕方なさそうに笑った。

とりあえず気になった事は一通り訊けたか。

後から気になる事も湧いてくるだろうが、会議の後にずっと橘氏を独占しているのは周囲の目が痛い。

必要があれば、後日まとめて橘氏に尋ねたり、また角が立たない形で彼女ら本人に尋ねてみてもよいかもしれないと思った。





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