第四話 ⑦
「インフィ……カーネリアン!」
そこに現れたのは紛れもない。
ガーネットよりも少し背の高い少女だった。
服装は露出度はそこまで高くないが、カーニバルを彷彿とさせる物だ。
元から美形のノアはともかく熊系の男がこんな姿になるのは流石に戸惑うものがある。
「あれが……アーロン……様? カーネリアン……!?」
リンネは声を震わせている。
まああの熊みたいな男がああなったら確かにそんな反応になるよな……と思ったのは俺だけだったらしい。
リンネのその顔は俺が思ってた以上に何だか真剣な物だった。
一方アーロン改めカーネリアンは、自らの服飾や手足や胸元を見て戸惑っていた。
「って、これが……俺ぇ!? えっ、声が高くなってる!? いや手足ほっそ!?」
王子の時は変身2回目というのもあってか大した驚きは見られなかったが、やはりこの変身は初見だと色々な意味で驚くよな。
「アーロン、いえ、カーネリアン! 戸惑っている暇はありません!」
「いやノアはこれ戸惑わないのかよ!」
「民を守るために与えられた姿だと思えば、私は即座に受け入れられました!」
「マジかよ!」
「あと今は私のことはガーネットと呼んでください、カーネリアン」
はしゃいでいるなあ、と思った直後、影が辺りを覆う。
上空を見るとズルバッカーがそこにいた。
「遊んでいる場合かァっ!」
しまった、こちらに突進してくる!
しかしカーネリアンの反応が早かった。
大股を開いて立ちながら両手を突き出すと、指に装着された指輪から強い光が発せられてオレンジ色のホログラムのような円盤が形成される。
「ズルーーーッッッ!」
カーネリアンの身の丈よりも大きな円盤に激突したズルバッカーはその勢いのまま跳ね返っていった。
どうやら相手を物理的に跳ね返すシールドのようだ。
「なっ……バリアー使うなんて聞いてねえぞ!」
そう言うアナンダに対して反射的に「お前も使ってただろ!」と反論してしまった。
そう言えば、アナンダが出していたものと似ているような……。
「なるほど、こうやって戦うのだな」
ニヤリと八重歯を見せたカーネリアンはズルバッカーを見据えた。
「では、反撃といかせてもらおう!」
カーネリアンはそのままズルバッカーに向かって勢いよく走り出した。
地面を蹴り上げ、飛び立ってズルバッカーの正面に迫って拳を向けた。
「食らえぇっ!」
「避けろ!」
アナンダの指示と同時にズルバッカーはその体を翻して飛んできた拳をかわす。
が、そこでカーネリアンが笑うのを見逃さなかった。
「うおらあああっ!」
カーネリアンは滞空したままシールドを出し、それをフリスビーのように投げつける。
「ズルバッカーッッ!!!」
シールドは見事にズルバッカーの脇腹(?)に命中。
ズルバッカーはもがくがシールドを中心に体が絡まってそのまま落下。
ズドオオン! という派手な轟音と共に地面に叩きつけられてしまった。
「今です! カーネリアン! 浄化を!」
「浄化? どうすればいいんだガーネット!」
「その指輪をかざして! 自分の脳裏に浮かんだイメージをそのまま再現してください!」
「おう!」
カーネリアンは右手を上げながら大きく飛び跳ねる。
そして光のシールドを広げた両手に生成し、大きく振り上げた。
「インフィナイトッ! カーネリアンッ! ブレイブスマァァァーーーッシュ!!!」
そしてそのままズルバッカーの頭上に残像が見える勢いで急降下し、盾を叩きつけた。
そこからカーネリアンの姿を消すほどの光の粒子が溢れ、
「プリプリズ〜〜〜ム!」
という咆哮と共にズルバッカーの姿が光となって消えていった……
***
ズルバッカーを撃退後、俺とリンネ、ノア王子、アーロン、そしてデマントさんは訓練小屋に戻ってアーロンに事情を説明していた。
ただリンネが異世界から来たということは隠し、『精霊の予言を受け、異世界から来た妖精である俺と協力してインフィナイツを探している』ということにされていた。
そう平然と説明する王子に面食らったが、余計なことを言うなと言わんばかりの目で見られた。
……王子なりにこう説明するのも考えがあるのだろう。
「……と言うわけです」
アーロンは今後のズルバッカーの行動予測について説明するリンネに何も言わずにうんうんと頷いていた。
「要は、ヒスイ殿やリンネ嬢と協力して俺とノアでそいつらを撃退すればよい、と」
そう言ってアーロンは次期将軍の証である指輪を見ていた。
指輪は白くツヤツヤとした素材で金細工が施されているが、俺の記憶が正しければ指輪は燻んだ銅色をしていた。
これ、インフィナイツでよくある「玩具化」だよなあ……
王子の腕輪も似た質感だが、多分元は全然違う形だったのだろう。
結構まずいものを玩具化してませんかね。
そんなことを考えていたら、王子が口を重たげに開いた。
「アーロン。これは未知の脅威です。今回は君の身に被害が及んだから協力してもらう形になりましたが、これからはどうかもう関わらないでください」
「いや王子、アーロンがいれば百人力……」
「彼は次期将軍とは言え今はまだ正式な騎士階級すら持っていないし、一介の貴族子息に過ぎない。この国を守る義務は無いのですよ。……私とは違って」
アーロンの戦闘能力は確かなので手放したくないという気持ちが思わず口に出てしまったが、王子の言うことももっともだ。
一度変身した人物が二度と関わらないなんてことインフィナイツではあり得ないとはいえ、それはあくまで"アニメ作品"のお話。
最も大切なのはアーロンの意思だ。
「確かに俺にはまだそう言った義務は無いかもしれない。だがな……」
アーロンは首からぶら下げた指輪を胸の前で握りしめた。
「俺は生まれながら騎士となるべく教育を受けている。たとえ王族に命令されても、危機を知りながら目を逸らすことは絶対に認められん!」
聞いているだけで暑さが伝わるほどの熱弁だ。
王子はあまりにもまっすぐなアーロンから目を逸らし、「そう言うと思った」と小さく呟く。
「それに言ったろう! お前が狙われるのは許せん! あと、リンネ嬢の言う通りならばまた学園に襲撃が発生するのだろう? 友達なんて俺しかいないのだから校内で頼れる人を……」
「アーロン。君の口は本当に災いの元ですからね」
王子は口元の笑みを崩さないがその目は笑っていなかった。
あ、王子って友達いないんだと思ったが、俺の口まで"災いの元"扱いされたくはないので黙っておいた。
「そ、それにしてもデマント殿の働きには助けられたよ」
「恐縮でございます」
アーロンは話を逸らし、デマントさんの方に振る。
王子の側近であるデマントさんは俺たちと出会った日に起きた夜の襲撃前には既に話を知っていて、王子が一時的に消えた際もそれがバレないように手回ししていたらしい。
今回も急に現れたズルバッカーの存在が周囲の人間に漏れていないかの確認と、情報の揉み消しを行なっていたそうだ。
リンネ曰く、原作ではこの人は王家というより王子に仕えている人で、王子が自由に行動するために色々と手回ししてくれているそうだ。
逆にいうと敵に回したら怖い人ということだろうな……。
「アーロン様もノア殿下と共に戦ってくださるのは大変心強うございます。どうか、リンネ様、ヒスイ様諸共殿下をお守りいただけるよう、お願い申し上げます」
デマントさんは恭しく頭を下げた。
「ああ! 任せてくれ!」と笑うアーロンだが、王子はため息をついてから一言言った。
「本当は、リンネ嬢も巻き込まずに済んだら良いのだけれど……」




