表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

第四話 ③

 王立学園の生徒寮にたどり着いた。

到着してから入学までの二日間、リンネは激動だった。

まずは入学式の説明会。

次に寮生活の説明会。

それからリンネは他の平民出の令嬢と共にマナー講習会。

講習会をチラ見して気がつく。

ここに来る前の王子に対するリンネ(と、俺)の態度は見事な不敬としか思えなかった。

そういった貴族のマナーは一日一夕では覚えられるものではないし、講師も徐々に覚えていけば良いとはいっていたが、覚える量が膨大で大変そうだ。

空手をやっていたリンネは上下関係の礼節は分かっても、御令嬢に相応しいマナーはわからないだろうから。


 同室のジュノーはリンネの言う通り感じのいい子だった。

深緑色のウェーブの髪をいわゆるサイドテールにまとめている。

この世界では結構珍しい髪型だ。


「うちはジュノー・スマクラド! 5年前に父が爵位を賜ったばかりの成り上がりだけど、よろしくね!」

 重たげな髪色のイメージとは裏腹に快活そうな少女で、元平民ということでかなり話しやすそうな雰囲気だ。

……まあ、陰キャの俺だったらあまりお近づきになりたくないけど。


「うん、よろしくね、ジュノー! あたし、リンネ・クロム!」


 陽キャのリンネはジュノーと握手し、その手をブンブンとシェイクした。

リンネ、結構ジュノー推しなんだっけか。

リンネとジュノーは色々と楽しそうにおしゃべりをしていた。

バスケットから俺を出して、「ママからもらったお守りなの」と説明している。

ジュノーにはバレたら説明するということで考えている。

その後、俺は特にリンネと話せるタイミングがトイレくらいしかなく、二日間が過ぎていった──


***


 あっという間に登校初日となった。

日本ではまず見ないようなサイズの巨大な豪華な校門の前にリンネは立つ。

片手に通学用の教科書等が入ったカバン。

肩からは俺が入ったバスケット。


「リンネ、もう少しエレガントに立ちなよ」

「あっそうだね」

 無意識で足を肩幅に開いて構えのポーズをとっていたのだろう。

リンネは慌てて片足を軸足の半歩後ろに下げてお嬢様立ちをした。


「よし……いくよ!」

 リンネは門をくぐっていく。

校門から玄関前は直進した先に豪華な噴水広場があり、その奥に正面玄関が見える。

道の左右には花壇が設置されていた。

絵に描いた"お金持ち学校の校門広場"だ。

眩しいまである。


 噴水広場では、シルバーブロンドの美しい髪をシニヨンに纏めた女性が「ごきげんよう」と挨拶をしていた。

ごきげんよう、なんてマジで言うんだ。


 挨拶をされた生徒たちは「ごきげんよう、生徒会長」と返している。

どうやら彼女が生徒会長──悪役令嬢、ミシェルのようだった。


「……ごきげんよう、ミシェル様」

 リンネはスカート裾を掴み、ミシェルに頭を下げる。


「ごきげんよう、リンネ聖女候補」

 ミシェルの水色の瞳は冷たい。

まるで刺すような視線だ。

心なしか他の生徒にかけるよりも声が低い気がした。


「うぅ……この人怖いよお」

 ゲームで俯瞰するのと、実際に一人称で体験するのでは全く印象は異なるのだろう。

冷たい態度を取られることを知っているはずなのに、リンネは礼の体制──カーテシーというらしい──を続けたまま小声でそんなことを呟いていた。

もちろん、ミシェルは冷たい。


「いつまでやっているのですか。他の生徒の邪魔です。早くお行きなさい」

 氷のようを通り越してドライアイスだ。

殺傷性がある。

俺までなんか傷ついた。

初手でテンションを下げられ、リンネはトボトボと校舎に向かった。


 それから入学式、新入生向けのオリエンテーション等を経る。

新入生代表はリンネと同じクラスの宰相子息、ヴェルリヤ・サハスラーラだった。

少し小柄で、伸びた黒髪を低い位置で結えていて、縁なしの眼鏡をかけているのが特徴的だ。

新入生代表挨拶を淡々と読みこなすが、あまりにも淡々としている。

失礼ながら根暗そうな印象を受けるが、彼は攻略対象とのことだ。

何らかの魅力があるのだろう。


 在校生代表挨拶は2年生のノア王子だった。


「さて、王立パイロープ学園は今年で設立300周年を迎えようとしております。その学園名は設立者であり我が祖先となるパイロープから取られており、その理念は……」

 その内容は……まあいかにも、王族って感じだった。

うわあ、王子だ。王子が王子みたい。でもこの人女性に変身するんですよ。

 ……そんなふうに思ってなんとか目を開けていたが、限界が訪れた。

正直こういう校長のスピーチ的なの、すごく苦手なんだよな。

眠っちゃいけないと思いつつも俺はあくびをかます。

疲労による眠気は無いみたいだが、退屈による眠気はあるようだ。

馬車移動時も退屈で眠って過ごしていたっけ。

まどろんでついつい目を閉じてしまう。

そのまま俺はすっかり眠りに落ちてしまった──


***


 ガチャリと金具が開かれる音がする。

それと同時に日が差し込んできて、俺の体はその明るさを拒むように跳ねた。


「うん? ぬいぐるみ?」


 ──聞いたことのない声。


「うおっ!? 誰だ!?」

 ガバリと半身を起こすと、太い眉が特徴的なタレ目の男性と目が合う。

赤茶色の髪の毛は短くまとめられている。

肩幅はかなり広く、山のようだ。

現実世界での柔道部の先輩を思い出す。


 男性は目を見開き、俺を見つめてきた。


 誰だ?

 しまった、動いているところを見られた!

 やばい、本当に寝てしまったか

 それよりもリンネは!?


 いっぺんに沢山の思考が巡り、俺はその場でパンクしてフリーズした。


 ガチャリ。


 蓋を閉められ、俺はバスケット内に閉じ込められる。

あ、なんとかなるか?


 ガチャッ


「ギャース!」

「うわあああ!!!」


再度蓋を開けられて俺は男と一緒に叫んでしまった。

男は橙の目を白黒させてガバッと俺を胸元に抱いて隠す。

胸元広っ! 腕力強っ!

どうやら男は周囲を確認したらしい。

ワンテンポ置いてからブルブルと震える両手で俺の胴を掴み、マジマジと見つめてきた。


 目を合わせたくなくて、視線を下に落とす。

赤い獅子の家紋がついた指輪のような飾りを胸元からぶら下げているのが見える。


「喋った……よな?」

「……」

 まだ誤魔化せる、まだ誤魔化せる。

そう必死に言い聞かせて俺は微動だにせず固まる。


「喋ったよな!?」

 男はガクガクと俺を揺さぶり始めた。

パニックになっているからか、なぜか「殺される!」という文字が浮かび上がってきた。


「ギャース! やめろー!」

 そこで揺さぶりがようやく止まった。

男の瞳は揺れているようだった。


「えへ、えへへ……」

 人間状態だったらこんなムキムキマッチョの男に揺さぶられていたら失禁したと思う。

混乱と恐怖の中、愛想笑いを浮かべるだけで精一杯だった。


「もしや、君……精霊さんか?」

「……はい?」

 男の目は、宝石のようにキラキラと輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ