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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第二章 伯爵家の養女

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94.悩みの解決法

 ルークは会話が楽しいと思う一方で、その言葉が誰かを傷つけてしまうのではないかと怯えている。


 エレノアは愛される温かさを知ったことで、もっとその温もりが欲しくなり、欲張りだと思われてしまうのではないかと悩んでいる。


 ディアスは家族としての喜びを噛みしめるほど、自らの理想を押しつけてしまう未来を恐れて、一歩引いてしまっている。


 三人とも、ちゃんと心が変わったからこそ苦しんでいるのだ。


 誰も間違っていない。むしろ、大切に思えば思うほど怖くなるというのは、健全で、誠実で、優しい悩みだ。


 だけど、その優しさが今は逆に家族をぎこちなくしてしまっている。


 誰が悪いわけではない。誰もが誰かを思いやって、だからこそ遠ざかっている。

 

 三人はそれぞれ、自分の弱さを迷惑になると誤解していた。けれど本当は、弱さは迷惑ではない。家族は弱さを見せて、受け取って、返して……そうやって深くなっていく。


 エルヴァーン家の問題は、誰かを責める必要なんて一つもない。ただ、手を繋ぎ直すだけでいい。そのきっかけを作るのは、私にしか出来ない。


 何か、三人が一歩踏み出せるような、勇気が出る言葉があればいい。一体、どんなことをすればいいのか……。私は必死になって考え続けた。


 ◇


「はい、今日の授業はおしまいです」

「先生、ありがとうございました」


 今日も授業が終わった。色んな事を詰め込んで疲れたけれど、日に日に貴族の令嬢としての学びを得ている実感がして達成感がある。


 勉強も大切だけど、今は家族のことだ。何か解決策を考えないと……。


「おや? 何か困っているんじゃないですか?」

「そうなんです。今、家族のことについて悩んでいます」

「それは大変だ。ようやく仲良くなったのに、また悩みが出てきたんですね。僕で良ければ相談に乗りますよ」


 リート先生が助け舟を出してくれた。私は嬉しくなって事情を説明した。リート先生は真剣に話を聞き、悩まし気に腕を組んだ。


「それは大変ですね。大切に思うからこそ、遠慮が出てきてしまっているのですね」

「はい。どうやって、みんなの背中を押そうか考えています。何かいい案はありませんか?」

「やはり、言葉の力を使ってみるのがいいでしょう」

「でも、ただ説得するのでは思いを感じるのが難しいと思うのです」

「……確かに。ただの言葉なら難しいでしょう。それなら、良い手がありますよ」


 リート先生は、少しだけいたずらっぽく笑った。けれどその瞳は真剣で、私の迷いを見透かすようにまっすぐだった。


「ルアさん。あなたには、言葉以上に強い武器があるでしょう?」

「武器……ですか?」

「ええ。あなたの歌ですよ」


 私は、思わず瞬きをした。歌? 私の歌で……?


「先生、私の歌で、三人の悩みを解決できるんでしょうか?」

「できますよ。むしろ、歌だからこそ届くものがあるんです」


 リート先生は椅子に座り直し、そっと語りはじめた。


「言葉というのは、不思議ですね。説明すると難しくなるのに、歌になると素直に心に入ってくる。人は理屈よりも気持ちで動く生き物ですから」


 私は静かに先生の言葉を追った。


「三人は今、頭で考えすぎている状態です。失敗したらどうしよう、嫌われたらどうしよう……そうやって心に鎧を着てしまっている。でも、歌にはその鎧を柔らかく溶かす力があります」

「……鎧を、溶かす……」

「はい。歌は、その人の心の奥にある本当の気持ちをそっと揺らします。怖さより大切さの方が少しだけ大きいんだ、と気づかせてくれる。あなたの歌は特に、人の心に温度を残すでしょう?」


 胸の奥が温かくなった。先生は、私の歌のことをそんなふうに見ていてくれたんだ。


「みんなが怖がっているのは、自分の弱さを見せることです。でも、歌の中なら弱さを否定しません。むしろ、それを抱きしめてくれる。そういう力があります」

「……確かに。私も、歌うと気持ちが軽くなる時があります」

「でしょう? あなた自身がそうなら、聞く側はもっと救われるものですよ」


 先生は穏やかに微笑む。


「説得しようとすれば抵抗します。強引に背中を押せば、むしろ固まってしまう。でも歌なら、本人が自分で踏み出したくなる。それが大事なんです」

「自分で……踏み出したくなる……」

「ええ。歌は、誰かの心にそっと灯りをつける力を持っています。あなたなら、きっと優しい灯を灯せるはずですよ」


 その瞬間、胸の奥にぬくもりが広がった。自分でも気づかないほど弱っていた心が、ふっと息を吹き返すような感覚。


 歌でみんなを支える。そんな方法、考えもしなかった。


 思い浮かぶ三人の顔は、どれも優しくて、不器用で、それでも家族を大切にしようとしている表情だった。


 その人たちの背中を押せるなら。私の歌が、ちゃんと役に立つなら。


 胸の奥に灯った小さな光は、迷いを消すように輝きを増していった。


「……先生。私、やってみたいです」

「ええ、その顔なら大丈夫ですね。きっと届きますよ、あなたの歌は」


 私は深くうなずいた。


 歌で、家族の心を繋ぎ直す。その方法が、思っていたよりずっと自然で、ずっと温かいものに思えた。


 私はそっと胸に手を当て、静かに決意を固めた。

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― 新着の感想 ―
まさか、ここから路線変更でルアの歌唱人生がスタートするのか!? エーデルワイスのミュージカルのように!!
歌はリリンの文化の極みだからね! やっくでかるちゃー!
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