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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第二章 伯爵家の養女

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91.ディアスの歩みより(1)

 交換日記を始めてから、少しずつ言葉が行き交うようになった。最初はたどたどしく、必要最低限のやり取りしかできなかったのに、いつの間にか相手を気遣う一文が増えていた。


 ほんのわずかな変化。けれど、それは私たちにとっては大きな前進だった。他人のようにぎこちなかった関係が、ゆっくりと家族へと形を変え始めている。そんな確かな兆しがあった。


 そして最近では、私を介さなくても家族同士の交流が生まれ始めていた。ルークが積極的にエレノアの部屋へ足を運び、今日あったことを楽しそうに話しているのをよく見かける。


 子供の行動力というのは、本当に侮れない。ルークの無邪気な一歩が、エレノアの頑なだった心をそっとほぐすきっかけになり、二人は目に見えて距離を縮めていった。


 その変化を、私は誰よりもうれしく思っていた。だけど、その変化に気づいたのは私だけではなかった。


 ある夕食前。私は、ディアスの執務室に呼び出された。


「お義父様、何か御用でしょうか?」

「少しな。ルアと話をしたいと思ったんだ」

「それは嬉しいですね」


 私達はソファーに座り、向き合って話をした。


「最近、家の中が明るくなってきたように思う。私が思い描いた家族に近づいてきたような感じだ」

「私もそう思います。少しずつ、家族になり始めていると思います。これも、みんなが言葉を交わして交流を図ったからです」

「……そうだな。ルアがきっかけ作りをしてくれて、本当に助かった。だが、最近のルークの行動もルアがきっかけ作りをしたからか?」

「お義父様も気づきました? ルークが積極的にお義母様と話を始めましたね」


 ディアスはルークの変化に気づいたようだ。以前であれば、そんな変化など気づかなかったはずなのに。これも、言葉を交わし交流を深めたから気になった事なのだろう。


「ルークはずっと思っていたんでしょうね、寂しいと。だけど、交流を深めていく内にその寂しさが和らいで、交流の重要性に気づいたみたいです。だから、積極的に行動したのでしょう」

「そうなのか……。ルアのお陰でルークが気づいたのだろう。私も交流の温かさをルアに教えてもらった。そして、その重要性にも気づいた」


 ルークが行動しているのを見て、ディアスも自分にもそういう積極性が必要だと感じたみたいだ。


 これは、いい影響が出ている。自ら交流を望むようになってきて、関係が深まるきっかけが生まれやすくなっていた。


「……だから私も、個人的にエレノアとルークと交流を持とうと思う」

「それは、とても良い決意です」

「……だが、どうやって場を持てばいいのか。それが全然分からないのだ」

「大丈夫です。私が協力しましょう」


 この決意を無駄にしないためにも、私が橋渡し役になろう。


「私は始めのきっかけを作ります。その後、二人で話す時間を設けましょう」

「だが……いきなり二人になって話が出来るのか」

「始めはそれほど会話が続かないと思います。なので、少ない時間から初めてみましょう」

「そうか、始めは少ない時間でもいいのか」


 私の提案にディアスはホッとした表情をした。仕事の事は頭が回るのに、家族の事になると頭が回らなくなっている。だけど、必死だからこそ単純な気づきが出来なかったのだろう。


 まだ、歩み始めは覚束ない。支えて上げて、少しずつ手を離せばいい。そうすれば、きっと上手くいく。


「早速、明日に時間を取りましょう」

「い、いきなりか?」

「大丈夫です。始めは三十分の時間にします」

「それくらいの時間なら……」


 始めから無理はさせない。失敗をしないように、確実に距離を縮める。それは短い時間でも可能だ。


 このチャンスを絶対に成功させてみせる。


 ◇


 そして、翌日。私はエレノアとルークに声を掛けた。ディアスと三十分だけ会話をする時間を作って欲しいと。


「……三十分、ですか? ええ、もちろん構いませんわ。ただ……何かあったのかしら?」


 少し身構えながらも、エレノアはそう言った。ディアスから誘いを受けるなんて、今までなかったから困惑しているらしい。


「大丈夫です、お義母様。ただ、お義父様ときちんと話してみたいだけなんです」


 私が穏やかに答えると、エレノアの肩の力が少し抜けた。すると「私も……」と一言呟いた。お互いに歩みよりの心を持っていれば、きっと大丈夫だろう。


 一方、ルークはというと。


「お父様と三十分? ちょっと怖いけど、僕も話したい」


 ルークは興味深そうに目を瞬かせて、すぐに頷いた。


「うん。変なことにはならないから、安心してください。ただ、二人で言葉を交わしたいだけですから」

「……そうなんだ。僕と一緒」


 そう言って、ルークはもじもじとした。今まで話してこなかったから、そんな事を言われて恥ずかしく思ったらしい。


 だけど、二人とも何を話したらいいのかという困惑の色が見えた。だから、私は「最初は私も一緒にいますから」と伝えると──。


「……ルアが一緒なら、安心できますわ」


 エレノアは胸に手を当て、ほっと息をつく。


「なら大丈夫。最初にいてくれれば、安心できる」


 ルークも安心したように笑った。その表情を見て、私も柔らかく微笑んだ。


「ありがとうございます。緊張しないで、普段通りでいいと思いますよ」


 約束は取り付けた。後は、実際に場に出て話し合うだけだ。これで、もっと家族の距離が縮まってくれればいい。そう願わずにはいられない。

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