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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第二章 伯爵家の養女

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90.交換日記の効果

 交換日記は、私から始まった。


 初めてのページに、私はその日の出来事を素直に綴った。簡単に、読みやすく、負担にならないように書く。この家の空気が少しでも柔らかくなるように。ただ、それだけを願って。


 書き終えた私は、そっとペンを置き、最初のページを閉じた。


「最初はルークにお願いしますね」


 そう言ってファリスに日記を手渡すと、すぐにルークの所へと持っていってくれた。これで、良い感じに綴ってくれれば……。


 そう願いを込めて、私の慌ただしい日常は始まった。


 そして、その日の夜。日記は、思っていたよりもずっと早く私のもとに戻ってきた。


「早い!」


 驚きで、胸がどきどきする。慌てて椅子に腰を下ろし、ページをめくった。


 まずはルークのページからだ。


『今日の訓練は調子が良かった。魔力の大きさを同じに揃える練習、前より成功率が上がった。先生にも褒められたし、自分でも手応えがある。でも、まだ魔力の流れが安定しない時がある。焦ると乱れやすい。だから、明日はもっと呼吸を意識しようと思う。夜に少し読み返した教本も分かりやすかった。読んでよかった』


 淡々としているのに、どこか嬉しそうで、誇らしげで。返信ではなく、今日の自分のことだけ。でも、それが逆にルークの素直な心の内を感じさせた。


 次にエレノアのページを見る。


『今日は家族と少しだけ話せた。会話でこんなに胸があったかくなるのは、初めてでとても居心地がいい。もっと、家族の事を知りたいと思った。だけど、それぞれにはそれぞれの大切な時間があって、どこまで踏み込んでいいのか分からなくなる。また夕食の時間、みんなが揃う時間が楽しみ。家の中が、前より少しだけ静かじゃなくなっただけなのに、とても心地いい』


 エレノアの文字は、どこか慎重で、でも丁寧で。一言も誰への返事を書かずに今日の自分のことだけ綴っているのにその行間から、少しずつ前を向こうとしている気持ちが伝わってきた。


 最後にディアスのページを読む。


『今日は朝から仕事が多く、あわただしかった。だが、夕食の時間に家族と同じ席につけたことは嬉しかった。私が早く席につくと、少しだけ皆が驚いていた気がする。今まで自分がどれほど距離を置いていたか……今日あらためて実感した。改善できるところは、改善したい。執事から「表情が柔らかくなった」と言われた。そんなつもりはないが、悪い気はしなかった。今度から表情も気を付けることにする』


 ディアスの字は力強く、そして不器用なほど真面目だった。


 誰も返信なんてしていない。誰かに向けて気の利いたことを書いているわけでもない。ただ、自分に起きた今日を静かに書いた。それだけ。


 なのに、ページを閉じた瞬間。胸の奥がじんわり温まった。


 まだぎこちなくて、まだ上手じゃなくて。でも、確かに前に進んでいる。そう思えるだけで、私は嬉しくてたまらなかった。


 きっと、これから言葉を交わしていけば、もっと関係が良くなる。自分の気持ちを知り、それを伝え。相手の思いをくみ取り、気持ちを知る。それを繰り返していけば、温かい家族になれる気がした。


 ここで、一押しをしよう。私は早速、交換日記を書いた。そこには、今日あった出来事を書くのだけれど、それだけじゃない。三人の日記を読んだ感想を添えたのだ。


 こうすることで、対話が生まれ、交流が深まる。私の真似を三人にしてもらえれば、きっと以前よりも深い対話が出来ると思う。


 そうして、書き上げた日記。これが、新しい一歩になるように気持ちを込めたものになった。明日、渡すのが楽しみだ。


 ◇


 翌朝、朝食の時間にルークに交換日記を手渡した。ルークは嬉しそうに受け取り、急いで食堂を出て行った。そして、いつもの忙しい時間が始まる。


 午前、午後と授業を受け。残った時間で今日はルークと二人でお喋りをした。ルークとの会話は大分スムーズに出来ていて、お互いに信頼が大きくなっているのを感じた。


 それから夕食を取り、身を清め、身支度をして自室へと戻る。すると、またもや交換日記が返ってきた。


 早い戻りにまた驚いてしまったけれど、それは嬉しい事。私は喜んで交換日記のページを捲った。


 ページをめくると、まず目に飛び込んできたのは、見慣れない書き方だった。


 そこには、相手の日記に対しての感想が添えてあった。


 まずはルークのページから。


『……なんか、嬉しかった。自分の訓練のことなんて、誰も興味ないと思っていたけど、お姉様はちゃんと読んでくれたんだなって思った。それで……読んでくれる人がいると、もっと頑張ろうって思う。あと、お母様の話も、お父様の話も、なんか……すごいなって思った。みんな、それぞれ頑張ってるんだな。』


 文字はいつものルークより少し雑で、迷いながら書いた跡が残っていた。でも、それがとても素直で、まっすぐで。私は読んでいるだけで頬が緩んでしまう。


 次にエレノアのページ。


『誰かが、自分の気持ちや日常を読んで、何かを感じてくれるって……こんなにあたたかいんだって初めて知った。ルークが真剣に取り組んでいるのが伝わってきた。あなたの気持ちも……少し、分かる気がした。みんなが書いた文章を読むと、胸の奥がぎゅっとして、嬉しくて、ちょっとくすぐったい気持ちになる。この時間が続けばいいのに、と思った。』


 彼女の文章は相変わらず丁寧で、それでいて繊細だった。読みながら、まるで静かに寄り添われているような気持ちになる。


 最後にディアスだ。


『ルアの日記は非常に読みやすい。丁寧でありながら簡潔で、読む側への配慮が感じられる。ルークの訓練の話は、今度は私も見て見たいと思った。本人が前向きであることは何よりだ。エレノアの記述からは、最近の変化がよく伝わってくる。家族が互いの日常を知り、少しずつ歩み寄ろうとしているのが分かり、その……よいものだと思った。日記という形は悪くない。続けたい。』


 不器用なほど真面目で、それでいて心の底からの優しさを感じてしまった。


 ページを読み終える頃には、私は胸を押さえていた。あぁ、なんて温かいんだろう。たどたどしいのに、こんなにも心が触れ合っている。


 誰も「うまく書こう」なんてしていない。ただ、気持ちを、できる範囲で言葉にしているだけ。でも、それだけで十分だった。


 ページを閉じ、そっと抱きしめる。


 家族の距離が、確かに近づいている。それはほんの一歩かもしれないけれど、私にとっては宝物みたいな一歩だった。

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