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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第二章 伯爵家の養女

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88.家族の会話

 朝、いつものように身支度を整えて食堂へと向かう。ファリスに扉を開けてもらい、中に入ると――そこにはすでにディアスが待っていた。


「……お義父様、おはようございます。早いですね」

「家族との時間を作るために、朝食の時間を早める。そう進言してくれただろう?」


 どうやら、ディアスは昨日の助言を実行してくれたみたいだ。まず、家族との歩み寄りには何をしたらいいのか、ディアスは聞いてきた。そこで、私は食事の時間が歩みよりやすいと伝えた。


 食事の時間は家族が絶対に顔を合わせる時間。この時間を有効に使えば、家族に歩み寄ることが出来ると思った。


 私が席に着くと、早速ディアスが何かを話そうとする。だけど、上手く言葉が出ないようだ。


「こういう時はどういう話題がいいんだ? いつもはあまり自分から話題を出さないから、難しい」

「まずは、相手の近況を聞くのがやりやすいですよ」


 私は微笑みながら、そっと助け舟を出した。ディアスは真剣な顔でこちらを見てくる。まるで『正解は何だ?』と問いかける生徒みたいだ。


「近況……。例えば、どのようなことだ?」

「難しく考えなくていいんです。『最近どう?』とか、『昨日はよく眠れた?』でも十分ですよ」


 そう言うと、ディアスは驚いたように瞬きをした。どうやら、思っていたよりずっと簡単だったらしい。


「そんなことでいいのか? もっと立派な話題を用意するべきなのかと思っていたが……」

「家族ですから。立派な話より、日常の些細なことのほうが気持ちが近づきやすいんです」


 立派な話も重要だが、近づきたいのなら些細な話題から入ったほうが無難だろう。


「それに、お義父様が話題を作る必要はありません。相手の話を引き出してあげるだけでも十分です」

「引き出す、か……?」

「はい。たとえば――『最近、仕事はどうだ?』と聞いたら、返ってきた答えに、また一言つけて返すんです」


 ディアスは腕を組んで、うんうんと頷いた。


「たとえば?」

「お義母様なら……『最近はどんな本を読んでいるんだ?』とか。ルークなら『魔法の訓練は順調か?』でも良いと思います」


 言うと、ディアスはふっと表情を緩めた。少しだけ照れくさそうな、けれど温かな笑みだった。


「……なるほどな。家族と話をする方法を、私は本当に知らなかったのだな」


 その呟きが、昔の寂しさを少しだけ滲ませていて、胸が締め付けられる。だけど、同時に昨日の出来事で、彼が確かに一歩を踏み出したこともわかった。


「だから、少しずつでいいんです。今日みたいに、朝食を一緒にとるところから始めて……それを積み重ねれば、きっと変わりますよ」


 そう伝えると、ディアスは静かに息を吐き、私を見る瞳が柔らかくなった。


「……では、ルアは最近どんな調子だ? 勉強は進んでいるか?」


 その言葉に、思わず目を丸くした。エレノアやルークじゃなくて、私に質問を?


 その私の気配に気づいたのか、ディアスは少し照れ臭そうにした。


「ルアも家族、だからな。気になるのは当然だろう?」


 てっきり、エレノアとルークとの歩みよりを考えていたから、真っ先に自分に歩み寄りを見せたディアスに驚いた。


 だけど、その姿勢に心が温かくなった。ディアスも自分のことを家族だと見てくれている。それが分かっただけでも、エルヴァーン家が自分の居場所なんだと強く実感出来る。


「最近は順調ですよ。先生に文字を教えてもらって、色んな事が知れて、とても楽しいです。それに、ルークとお義母様が私の勉強を見てくださいます。勉強しながらも、家族としての時間が得られて、とても充実しています」

「……そうか。ルアは二人とは親しくなれたのか」

「歩み寄れば、自然と親しくなります。だから、自ら動き出すのが一番いいと思いますよ」


 そう助言すると、ディアスは納得したように頷いた。その時、扉が開いた。視線を向けると、そこにはルークとエレノアが立っていた。


「……お父様?」

「……あなた?」


 すると、二人はディアスの姿を見て驚いたように目を見開いた。いつもは最後に来るはずのディアスが先に座っていたのだから、驚くのも無理はないだろう。


 二人の視線を受け、ディアスは恥ずかしそうに視線を逸らす。


「……少し、早く起きただけだ」


 少し表情を硬くしていった。だが、その言葉は良くない。


「お義父様、正直に話したほうがいいです」

「む……。……お前たちと早く、顔を合わせたくてな……。その、早く来た」


 絞り出すように気持ちを吐露させると、それにルークとエレノアは驚いた様子だった。


「……そうなの?」

「私達と?」


 まさか、自分たちに興味を向けてくるなんて思いもしなかっただろう。二人はその言葉にも驚いた様子だった。


 二人はそのまま席につき、ようやく朝食が配膳される。その間、誰も一言も話さなかった。ディアスは何を話していいか悩み、ルークとエレノアはディアスのことが気になり様子を窺っている。


 以前は痛いほど静かだったけれど、僅かに変化が起きている。お互いに興味を持ったことで、そわそわした空気になっている。


 ここは一つ、話題を作ってみよう。


「今日のパンにはバターが練り込んでありますね。風味が良くて美味しいです。でも、ジャムを塗って食べるパンも好きなんですよね」

「僕も、ジャムを塗って食べるパンは好き!」

「ジャムを塗るといえば、私はスコーンを食べるのも好きですわ」


 私が一言話題を出すと、楽しそうにルークとエレノアが話してくれる。だけど、ディアスはなんと入ったらいいか迷っているみたいだ。ここは、助け舟を出そう。


「お義父様はどのようなパンが好きですか?」

「私は……固いパンが好きだな」

「何もつけない方が好きということでしょうか?」

「そうだな。食事と一緒に取るパンが好みだから、味は素朴の方が良い」


 話を振ると、精一杯に話題に乗ろうと話をしてくれる。それだけで、場の空気が和んでいくのが分かった。


「食事と一緒に取るパンも美味しいですよね。私はスープと一緒に食べるパンが好きですね」

「僕もスープと一緒に食べるパンが美味しい!」

「えぇ、私も同じです」


 私が好みの話をすると、ルークとエレノアが楽しそうに同意してくれた。チラッとディアスを見て、話に乗るように促すと――。


「私もスープと一緒に食べるのが好きだな」


 ディアスも同意してくれた。すると、ルークとエレノアは少し驚いた様子になる。家族が一つの事でまとまった感じがして、とても尊い気持ちになった。それぞれの表情は自然と緩んでいた。


「ふふっ、みんな一緒ですね」

「……うん!」

「そうですわね」

「……あぁ」


 たった一つの共通点だけど、それだけで十分だった。今、バラバラだった家族が繋がった気がした。この微かな繋がりを、今度はもっと強くしてく。そうすれば、きっと……。

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― 新着の感想 ―
ルアのことを気にかけてくれるなんて。。。家族って感じですね!
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