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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第二章 伯爵家の養女

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86.義父ディアス(1)

 義弟ルークと義母エレノアとの距離は縮まった。二人が心を開いたお陰で、エルヴァーン家は見違えるほど明るくなった。


 二人が言葉を交わして笑うだけで、空気が違う。痛いほど静かだったエルヴァーン家に綺麗な音が生まれたようだ。


 だけど、まだエルヴァーン家は普通の家族になっていない。まだ、義父のディアスが残っているのだ。


 食事の時、私達が楽しそうに会話を交わしている時でも、ディアスは必要以上に話題には入ってこない。ある程度の会話を交わすが、本当に必要最低限だ。


 きっと、ディアスの心の中にも壁が存在している。その壁を取り払わないと、エルヴァーン家は普通の家族にはなれない。


 そのためには、まず対話が必要だ。だから、その時間を取るために、食事後にすぐに行動に移す。


「お義父様」


 私がディアスに話しかけると、空気が少しだけ張りつめた。ディアスは薄い微笑みを浮かべ、こちらを見る。


「何かな?」

「少し、お話をしたいのですが……この後お時間宜しいでしょうか?」

「話しか……。分かった、時間を取ろう。用意が出来たら、使いをやろう」

「ありがとうございます」


 思ったよりもスムーズに時間が取れた。これなら、対話をすることが可能だろう。私は一礼をすると、食堂を出て行った。


 ◇


「とうとう伯爵様と話し合う時が来たのですね。明るいエルヴァーン家のため、ルア様、頑張ってください」


 部屋で待っていると、ファリスが応援してくれた。


「はい。出来る限りの事をしたいと思っています。上手く話せられればいいんですけれど……」

「ルア様なら出来ます。ルーク様もエレノア様も心を溶かしたんですから、きっと伯爵様の心も……」


 そうなれば、きっと明るいエルヴァーン家になると思う。だけど、そう簡単にいくだろうか? 相手は伯爵、一筋縄ではいかない可能性がある。


 とにかく、何を思っているのかが謎。その気持ちを聞き出すことが出来ればいいのだけれど、相手はこの厳しい貴族社会を生き抜いてきた人物。私の言葉で引き出せるか……。


 いいや、弱気になったらダメだ。ここを変えないと、エルヴァーン家は本当の家族になれない。だから、ここは全力を出す。


 自分の心を奮い立たせている時、扉をノックする音が聞こえた。ファリスが扉に近づき開くと、そこには使いの人がいた。


「ルア様、伯爵様がお呼びのようです」

「分かりました、行きましょう」


 とうとう、約束の時間が来た。私は気合を入れて、部屋から出て行った。


 ◇


「お義父様、お時間を取ってくださりありがとうございます」

「構わない。それで、話というのは何かな?」


 執務室に行くと、ディアスは執務机にある椅子に座りながら話しかけてきた。私はその前に立ちながら話しているので、この時点で距離がある。


 それは心の距離に見えた。部屋には話し合うのに最適な向かい合わせで座れるソファーがあるのに、そこに移動もせずにこのまま会話をしろ、ということだ。


 現実に突きつけられる心の距離。だけど、それを見せつけられても、めげない。


「このエルヴァーン家についてです」

「ほう……。それは、最近様子が変わったルークとエレノアに関係することかな?」

「はい。……私は、少し前までのエルヴァーン家の空気が、とても冷たく感じていました」


 そう切り出すと、ディアス伯爵はわずかに眉を動かした。けれど、言葉を挟まずに黙って続きを待っている。


「食卓では言葉が少なくて、皆、どこかよそよそしい。まるで同じ家にいながら、別々の場所で生きているみたいでした」


 自分の言葉を確かめるように、ゆっくりと息を吸う。思い出すのは、言葉のない食卓、響く食器の音。視線を交わすこともなく、ただ時間が過ぎていく、あの寂しい空気。


「でも、今なら分かります。……それは誰もが、心に壁を作っていたからなんです」


 ディアスの目がわずかに細められる。けれど、否定するような色はない。


「ルーク様も、エレノア様も、そしてお義父様も。皆、それぞれに理由があって、心を閉ざしてしまっていた。だから、本当の意味で家族にはなれなかったんだと思います」


 胸の奥に熱がこもる。あの時の沈黙と孤独を思い出すと、どうしても言葉に力が入った。


「私は、このままでは……いつかエルヴァーン家が壊れてしまうと思いました。心が離れていけば、絆は消えてしまう。だから、少しでも繋ぎたかったんです」

「繋ぎ、か……」


 ディアスが低く呟いた。その声音には、感情の揺れがほんの僅かに混じっているように聞こえた。


「はい。だから私は、ルーク様と話すようにしました。最初は心を閉ざしていましたが、ルークは本当はとても優しい子でした。少しずつ心を開いてくれて、笑うようになって……」


 ルークが初めて笑った日のことを思い出す。その笑顔は、まるで陽の光が差し込んだみたいだった。


「そして、エレノア様も。愛することを知りませんでした。少しずつ愛し方を知り、あの方も変わりました。今では、二人とも互いを思いやれるようになっています」


 少しずつ間違いを知り、愛し方を知っていたエレノアはとても生き生きとしていた。


「お二人が心を通わせたことで、エルヴァーン家は少しずつ明るくなりました。笑い声が聞こえるようになって、あの静かな屋敷が……ようやく家らしくなってきたんです」


 一息ついて、まっすぐにディアスを見る。


「でも、それでもまだ……足りません。お義父様が、その輪の中にいらっしゃらないからです」


 静寂が降りる。ディアスは何も言わず、ただ視線を机の上に落としていた。それでも、私には分かる。心のどこかで、確かに感じている。


 だからこそ、私はさらに一歩、踏み出す覚悟を決めた。


「私は、エルヴァーン家を家族にしたいんです。誰か一人が欠けてしまったら、それは家族じゃない。だから、私はお義父様とも、ちゃんと話がしたいと思いました」


 真っすぐ気持ちを伝え、ディアスの顔を見た。すると、ディアスは悲し気に俯く。


「私は……家族の輪には入れない」

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― 新着の感想 ―
な、なぜだ!! なぜ、家族の輪に入れないなんて悲しいことを言うんだ! ホワイ!?
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