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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第二章 伯爵家の養女

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84.家族の形(2)

 静かに涙を流すエレノア。それを見ていたルークは目を見開いて驚いていた。


「お母様、どうしたの? どこか痛いの?」


 心配そうに声をかけると、エレノアはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ、違います。この本を読むと色々考えて、今まで感じたことのない想いが溢れて……」

「……お姉様、どういうことなの?」


 エレノアの言葉の意味が分からなくてルークは困惑していた。ルークには分からない言葉でしか、エレノアは今の気持ちを表現する方法が見つからない。


「お義母様は感動していると思いますよ」

「感動?」


 首をかしげるルークに、私はは微笑みながらゆっくりと言葉を紡ぐ。


「この本の中に、家族が互いを想い合って支え合い、それが幸せの奇跡を呼ぶ話でしたよね。ずっと相手を想って、一緒に暮す。そんな優しい物語でした」


 少しだけ目を細め、ページの余韻を思い出すように言葉を続ける。


「感動っていうのはね、誰かの気持ちや行いに心が動かされて、胸の奥が熱くなることを言うんです。お義母様はきっと、そのお話の中にあった家族の愛に触れて、心がいっぱいになったんですよ」

「……じゃあ、お母様は痛くて泣いているんじゃないの?」

「はい。痛みはないので心配しないでください」


 不安そうなルークだったけど、痛みがない事を知るとホッとした様子だった。


「いえ……痛みがあります」


 その時、エレノアがポツリと言った。


「えっ、そうなの!? どこが痛いの!?」


 ルークはその言葉に慌てたようにエレノアに寄り添った。すると、エレノアはルークの体に手を伸ばし抱き寄せ、私の体にも手を伸ばし抱き寄せた。


「私の信じていた家族の形……それが間違いだと知って胸が痛みました。本当の家族はこうも温かいものなのですね」


 本の中で本当の家族の形を知り、今まで自分が生きてきた日々は間違いだったと気づいたようだ。


 エレノアはゆっくりと息を吸い、まるで心の奥底から言葉を掘り出すように、ぽつりぽつりと語り始めた。


「私ね……昔の家族のことを思い出していました」


 その声は震えていたけれど、どこか静かな決意がにじんでいた。


「私は貴族の家で育ちました。けれど……そこには温もりというものがなかったんです。祖母はいつも厳しく、父は顔を合わせることもほとんどなくて。食卓には家族が揃っていても、心は誰も隣にいないような気がしていました」


 エレノアは遠い目をして、目の前にない記憶を見つめるように言葉を続けた。


「当時の私は、それが当たり前だと思っていたんです。誰も笑わず、誰も抱きしめず、ただ義務のように家族を名乗る。……それしか知らなかったから」


 ルークが小さく息を呑み、私の手をぎゅっと握った。エレノアは微笑み、そっとルークの頬に手を添える。


「でもね、本当はずっと寂しかった。心のどこかで、誰かに抱きしめてほしかった。あたたかい言葉をかけてほしかった。だけど、それを口にするのは弱さだと教えられて……私はずっと我慢してきたの」


 その声には、何年も押し殺してきた哀しみが滲んでいた。


「だから、結婚して家族を持ったときも……私は無意識のうちに、あの家の形を真似してしまったの。距離を取り、貴族の家族を形どって思いを言葉にしない。それが正しいと思っていた。でも違ったのね」


 エレノアは腕の中のルークを抱きしめ、もう片方の手で私の指先をそっと握りしめる。


「この本を読んで、ようやく気づいたのです。本当の家族って、こんなにも心が寄り添うものなんだって。相手を思いやって、笑い合って、支え合う。それが当たり前なんだって。……私は、それを知らずに生きてきたの」


 言葉の合間に、ぽろりと涙が頬を伝う。


「どうして、私はあのとき気づけなかったのかしら。どうして、あの冷たい家を普通だと思い込んでしまったのか。今になって、それが情けなくて……」


 その言葉は、懺悔のようでもあり、祈りのようでもあった。


「でも、今は違います。ルアのお陰で本当の家族の形を知った。優しさがあって、笑顔があって……手を伸ばせば、ちゃんと誰かが抱きしめ返してくれる。そんな温かさを、やっと感じられたのです」


 エレノアは私達を抱き寄せながら、涙の中で微笑んだ。


「ありがとう、ルア。今までごめんなさい、ルーク。私……やっと人としての心を取り戻せた気がします」


 そう言って、私達をキツく抱きしめた。その温もりはとても心地よくて、ずっと包まれたいくらいだ。


「これが家族の温もりなんですね。私には家族がいなかったので、この温もりがとても尊いもののように思います」

「尊いって何?」

「尊いというのはね――」


 私は少し考えながら、二人の温もりを感じるように腕の中で息を整えた。


「心の底から大切だと思えるものに出会ったときに使う言葉なんです。たとえば、失いたくないとか、守りたいとか、そういう気持ちが自然に湧き上がってくるもの」


 ルークは瞬きをしながら私を見上げ、そっとエレノアの手を握った。


「お母様といると、あたたかくて幸せで……それが尊いってこと?」

「そう。大切で、かけがえがなくて、心が震えるほど愛おしいもの。それが尊いという言葉の意味なんです」


 私がそう告げると、エレノアは涙で濡れた頬に柔らかな笑みを浮かべた。


「これから知っていきましょう、みんなで」


 私達はまだ家族の温もりを知らない。でも、それを知ろうとする心を手に入れた。だから、これからはゆっくりと歩み寄れれば、きっと家族の形になる。


 また一つ、家族に近づいた気がした。

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尊い(´Д⊂ヽ
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