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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第二章 伯爵家の養女

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82.次の触れ合いへ

 第一歩目は成功した。ルークは甘えることで、エレノア様の心に小さな灯をともした。そしてエレノア様も、その灯を消さないように、ぎこちなくも手を伸ばそうとしている。


 ……うん、思ったよりも順調。


 最初はどうなることかと思ったけれど、ちゃんと「母と子」になれる可能性が見えた。たった一度の抱擁でも、人の心は変わる。無理に説得するより、こうして感情を通わせる方が、ずっと強い。


 あのあと、ルークは本当に嬉しそうだった。ぎゅっと抱きついて、離れようとしない。


 エレノア様も最初は戸惑っていたけれど、しばらくして――そっと、背中を撫でた。それだけで、ルークの顔には見たこともない笑顔が咲いていた。


 ……きっとあの瞬間、長い間欲しかったものを、ようやく手に入れたのだと思う。親に褒められること。親に触れられること。そんな当たり前の愛情が、ルークには今までなかった。


 でも、今日、ようやく「母親に抱きしめられる」という記憶ができた。きっとこれが、二人にとっての再出発になる。


 ルークは甘えることで愛を知り、エレノアは応えることで母を思い出す。そんなふうに、少しずつでも歩み寄ってくれたら、それでいい。


 さて、次はどんなことをしようか? 夜、一人になって考える。


 ルークとエレノア、あの二人の距離は確かに縮まった。けれど、まだきっかけを得ただけ。たった一度の抱擁で、長年の溝が埋まるわけじゃない。


 問題は「次」だ。


 次の段階で、エレノアが自分から歩み寄るような流れを作らなければ。私がずっと間に立っているだけでは、二人の絆は私を介した仮初めで終わってしまう。


 ……うーん、どうしよう。


 考えられる案はいくつかある。一番自然なのは「一緒に過ごす時間」を増やすこと。例えば勉強を見てもらうとか、手伝いを頼むとか。


 でも、それだけではまだ弱い。エレノア様は理知的で完璧な人だから、形式的な教育には慣れていても、感情のやり取りには不器用だ。


 だから、もっと心の触れ合う場面を増やさないといけない。思いを交わすには、言葉が一番いい。それは語り合うこと。


 でも、ただ日常の話をするだけでは駄目だ。「今日はどうだった?」なんて会話では、表面だけを撫でることになってしまう。もっと深く、もっと心の奥を覗けるような対話が必要だ。


 けれど、それを急に始めるのは難しい。ルークもエレノアも、今までそういうことをしてこなかった。急に「話しましょう」と言われても、どうしていいか分からなくなるはずだ。


 だから、何か共通の題材が必要になる。二人が一緒に感じ、考え、話せるような……そんなもの。


 ……一つの物語を共有するのはどうだろう。


 絵本でも、寓話でもいい。母と子が一緒に一つの物語を読む。同じ言葉を目で追い、同じ世界を想像する。そうすれば、自然と心が近づいていく。


 ルークは本が好きだし、エレノアも文学には造詣が深い。形式としては「学び」でも、心の本質では「共感の共有」になる。感情の橋を架けるには、きっとそれが最適だ。


 そして、物語には語る自由がある。この登場人物はどう思ったのか、もし自分だったらどうするか。そんなやり取りの中に、エレノアの優しさや、ルークの想いが顔を出すはず。


 ……うん、これなら上手くいくかもしれない。


 二人が同じ物語を追いながら微笑む。そんな光景を想像したら、胸が少し温かくなった。


 あの二人の間に、まだ言葉の橋は細い。けれど、物語を共有すれば、その橋はきっと太くなる。そして、心の距離も少しずつ近づいていく。


「よし、そうと決まったら……」


 早速行動あるのみ。席から立ち上がり、部屋を出て行こうとすると、部屋の隅で待機していたファリスが前に現れる。


「ルア様? もうお休みの時間ですが……」

「ちょっと、図書室に行きたいのです。少しだけなら、大丈夫ですよね」

「夜更かしは体に悪いですよ」

「これもルークとお義母様のためなんです。ファリスお願いします!」


 手を合わせて、渾身のお願いをする。ファリスはちょっと考え込むように眉間に皺を寄せると、ため息を吐いた。


「少しだけですよ」

「ありがとう、ファリス!」


 良かった、許しが来た! これで、図書室に行って、物語を厳選出来る。私はファリスを従えて、図書室へと向かった。

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