81.愛し方
午前と午後の授業を終え、私はルークを迎えにいった。
「お姉様!」
数時間ぶりに見るルークはそれは嬉しそうに私に駆け寄ってきてくれた。頭を撫でると、とても嬉しそうな顔をして微笑んでくれる。
「では、お義母様の所に行きましょう」
「う、うん……」
だけど、エレノアの事を出すと、途端に緊張した様子になった。今まであまり交流を深めていなかったのだ、どうやって接すればいいのか分からないのだろう。
「ルーク、大丈夫です。素直な気持ちですよ」
「……うん、分かった」
勇気が出るように手をギュッと握ってあげると、ルークはキリッと表情を引き締めた。うん、これなら大丈夫だ。
私達は手を繋ぎ、廊下を進んだ。そして、エレノアの部屋に辿り着く。ファリスが扉を開けてくれると、私達は部屋の中に進んで入った。
「お義母様、お待たせしました」
「お、お待たせしました」
「ようこそ、来てくださいました。さぁ、席に座ってください」
軽く挨拶をすると、エレノアから席に座るように促される。私達は言われた通りに席に座り、程なくしてお茶を用意された。
そのお茶を一口飲み、心を落ち着かせると、早速話題を切り出す。
「お義母様、お時間を作ってくださってありがとうございます」
「大丈夫です。話したいと思っていたところです」
そう言って微笑むが、やっぱりどこか冷たい。まるで社交辞令をされているかのような感覚だ。
エレノアの凝り固まった貴族の仮面を剥がすには、相当な力が必要みたい。一気に剥がすのは無理だろうけれど、少しずつならきっと……。
「今日はルークの魔力操作を見て頂きたいです。とても上手に出来ているので、ぜひ見てください」
「えぇ、私もみたいと思っていたところです。ルーク、あなたの魔力操作を見せて貰ってもいいかしら?」
「は、はい……!」
エレノアの言葉にルークは体を固くした。緊張している様子だ。このままだと魔力操作が覚束ないのではないだろうか?
「ルークが緊張しているみたいですね。その緊張を解さないといけません」
「そうみたいですね。どうしますか?」
「もちろん、緊張を解します」
私は席から立ち上がり、ルークの傍に寄った。そして、両手をギュッと掴んで、しっかりと目を見る。
「ルーク、いつも通りにやれば大丈夫ですよ。落ち着いてください」
「う、うん……」
「では、お義母様も一緒にやってください」
「私もですか?」
「お願いします」
私一人でも大丈夫そうだが、ここは二人を近づけるチャンス。お願いをすると、エレノアは席を立ち、ルークの隣にしゃがみ込み、手をそっと握った。
「ルーク、あなたなら出来ます。自分を信じてください」
「お母様……」
エレノアの言葉にルークは驚いたように目を丸くした。そんな事を言われたことがないようなリアクションだ。
ありきたりな言葉だったけれど、それはルークの心に響いたようで――。
「僕、頑張る。だから、見てて」
キリッと表情を引き締めた。その健気な姿を見て、少しだけエレノアの表情に温もりが宿ったような気がした。
ルークが席から立ち、気合を入れる。
「今から始めます」
そう言った、ルークは自分の体の中の魔力を操作する。魔力はゆっくりと動き出し、ルークの体を巡っていく。それは以前よりも上手になっていて、ルークの成長が感じられた。
「凄いです、ルーク! 前よりも上手になっていますよ!」
「えへへ、そ、そうかな?」
「お義母様も凄いと思いますよね? ルークを褒めてください!」
「えぇっと……。ルークの魔力操作はとても上手ですよ」
「ほ、本当……?」
覚束ない誉め言葉を口にするエレノア。だけど、その言葉だけでもルークの表情は変わった。
まるで、初めて褒められたような顔をした。その嬉しそうな様子を見ていると、慈しみの心が溢れてくる。
ちらりとエレノアを見て見ると、いつもの完璧な微笑みが崩れていた。少し気にかかるような事がある、そんな顔をしていた。
きっと、私と同じだ。慈しむ気持ちが芽生えたに違いない。その気持ちをもっと膨らませる必要がある。
「ルーク。素直な気持ちですよ」
「う、うん……」
そっと、ルークの背を押すように言うと、ルークは戸惑いながらもエレノアの前に行く。
「どれくらい、良かった?」
おずおずと言った様子でエレノアに問う。すると、エレノアは困惑した顔になった。こういう時、どう声をかけていいのか分からないみたいに。
だから、私はそっと耳打ちをする。
「沢山褒めるんですよ」
そう言うと、エレノアは困惑したながも微笑みを称えた。
「ルークがこんなことが出来て、素晴らしいと思いました。ルークは努力したのですね、とても偉いです」
たどたどしい誉め言葉。だけど、そんな言葉でもルークを笑顔にする力はある。
ぱぁっ! と、表情を明るくしたルークはエレノアに抱き着いた。
「……お母様に褒められた、嬉しい」
その瞬間、エレノアは驚いたように少しだけ目を見開いた。ほんのわずかな変化だけど、きっとエレノアの心は見た目以上に衝撃を受けているはずだ。
自分の子供が嬉しいと笑い、抱き着く。ごく普通のありふれた交流だけれど、この二人に取っては初めてに等しい交流。
ルークは母親の温もりを感じ、エレノアは子供の温もりを感じる。お互いを意識するには十分すぎる交流だった。
抱き着いて離れないルークを見て、エレノアは困惑している。こういう時、どうすればいいのか分からないと言っているようだ。
だから、私はそっと耳打ちをする。
「抱きしめてあげれば、ルークが喜びますよ」
そう言うと、困惑した顔をこちらに向けた。早くそうして欲しいと思っていた私は強く頷いて、行動を急かした。
すると、エレノアはそっとルークの体を抱き寄せた。本当に抱き寄せるだけで、声とかはかけていない。だけど、今はそれで十分だ。
今、二人は家族としての温もりを感じている。初めて……いや、きっとルークが生まれた時は抱き上げていた事だろう。だから、それ以来振りになる。
慣れない交流に二人は私が声をかけるまで抱きしめ合っていた。
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