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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第二章 伯爵家の養女

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72.限られた自由時間

「お疲れ様でした。本日の授業はここまでです」


 先生はにこやかにそう告げた。その瞬間、糸が切れたように体が重くなり、どっと疲れが押し寄せる。


 時計を見ると、時刻は午後四時。朝の九時から始めて、昼食の一時間を除けば、六時間ぶっ通しの勉強だった。


 スラムではもっと長く働いていたけれど、使う頭の場所が違うせいか、慣れない疲労が体の芯に残る。


「しばらくはこの調子で授業を続けていきます。他の子たちよりも、学ばなければいけないことが多いですからね。頑張っていきましょう」


 先生の言葉はもっともだ。私はスラムの孤児から、いきなり貴族の養女になった。足りないものは山ほどある。


 身に付けなければならない知識も、礼儀作法も数えきれない。詰め込みでもしなければ、とても周囲に追いつけないだろう。


「来年、十二歳になる年に王都学園下級院が始まります。そのときまでに、必要な知識を一通り身につけなくてはいけません」

「来年ですか……それは、大変ですね」

「えぇ。ルア様の立場を考えると、決して楽とは言えません。でも、諦めてはいけません。一緒に頑張って、入園に備えましょう」


 王都学園下級院。その入園まで、あと一年ほどしかない。それまでに貴族の子女としての知識をすべて身につけなければならないというのだ。


 本当にできるのだろうか、という不安が胸の奥に浮かぶ。けれど、もう迷ってはいられない。この道を選んだのなら、全力で進むしかない。


「……私、頑張ります」

「えぇ、その意気です。ルア様は物覚えが早く、理解力も高い。授業の進みも順調です。この調子なら、一年で十分間に合いますよ」


 先生がそう言ってくれるなら、きっとできる。いいや、やってみせる。


「この一日六時間の授業を週六日続けます。残りの一日はお休みです。内容はかなり厳しくなりますが、続けられそうですか?」

「やれます。それ以外にも、時間があれば自主学習をします」

「頼もしいですね。では、ルア様の進み具合に合わせて内容を更新していきましょう。これからが本番ですよ」


 先生の言葉に知らず知らずの内に力が入る。ここから、休まず勉強をしていけば、きっと……。


 そう思った瞬間、ハッとあることに気づいた。一日中勉強をしていたら、家族との時間が取れないということに。


 勉強も大事だけど、家族の時間はもっと大事だ。私に与えられた家族の時間は朝食と夕食。一日二時間の自由時間、週に一度のフリータイムだけ。


 ……思ったよりも家族との時間が取れない。こんな時間で家族と仲良くなれるのか?


 ◇


「ルア様、難しい顔をされていますね。どうかなさいましたか?」


 先生と別れたあと、自室に戻った私は机に向かって考え込んでいた。ふと声をかけてきたのは、いつも身の回りの世話をしてくれるファリスだった。


「授業の内容が難しかったんですか?」

「いいえ、それとは少し違います。……時間があまりにも足りないのです」

「時間、ですか?」

「ええ。このままでは勉強ばかりで、家族と過ごす時間がほとんど取れません」


 口に出してみると、その問題の重さが改めて胸にのしかかる。時間を増やすことができればいいけれど、そんな都合の良い話はない。限られた時間をどう使うか、それが大事だ。


「それはいけませんね。ルア様には、いずれエルヴァーン家を明るくしていただかなければなりませんから」


 ファリスは真剣な面持ちでうなずいた。


「私たちにできることがあれば、何でもお申し付けください」


 その熱のこもった言葉に、私は少し胸が熱くなる。


 ファリスも、他の使用人たちも、エルヴァーン家が変わることを心から願っている。そして、その希望を私に託してくれているのだ。


「……ありがとうございます。私には時間が限られています。だから、その時間をできるだけ有効に使えるよう、協力してほしいのです」

「もちろんです。具体的には、どんなことをいたしましょう?」

「一番交流を深められそうなのは、一日二時間の自由時間と、週に一度の休みの日。その時間に、家族の皆がどこにいて、話しかけてもいい状況なのか……それを事前に知っておきたいんです」

「なるほど、ご家族の行動予定ですね。それならお安い御用です。他の使用人たちにも話を通して、情報を共有できるようにいたします」


 ファリスが協力してくれるなら、きっと家族との距離を縮めるチャンスは増える。あとは、その時間をどう使うか、それが問題だ。


「それと……できれば家族のことをもっと知りたいんです。好きなもの、嫌いなもの、一日の過ごし方や休日の習慣。もし悩みごとがあるなら、それも知っておきたい」

「承知しました。そのあたりは、一番身近に仕えている使用人たちが詳しいでしょう。今度、彼らから話を聞いてまいります」


「ありがとう、ファリス。助かります」

「お任せください。ルア様のためなら、皆、きっと喜んで力を貸してくれますよ」


 ファリスたちが協力してくれるのであれば、限られた時間の中で家族と交流が持てそうだ。後は、家族の情報を手に入れて、心を開いてくれるように絆を深めるだけ。


 みんなとの絆を深めて、エルヴァーン家を明るくしてみせる!

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