6.ゴミの回収(2)
北側の門を潜ろうとすると、鎧を着た門番に止められる。
「なんだ、ガルドじゃねぇか」
「よぉ。仕事で来た」
「仕事ってお前……」
どうやら、この男性はガルドという名前らしい。そのガルドと門番は顔見知りのようで、二人とも気安い感じで接している。
その門番がこちらを見て、少し顔を険しくした。
「それ……スラムの子供じゃねぇか。どうしたんだ?」
「いやな、良いことを思いついたんだよ。俺の仕事を変わりにやってもらえれば、楽出来るってな」
「お前……委託された仕事をスラムの子供にやらせるのか? おいおい、大丈夫かよ。役所から何か言われるんじゃねぇか?」
「大丈夫だって。あいつらがゴミ処理の事を気にかけていると思うか?」
「まぁ……そんな汚くて臭い仕事には関わりたくないなぁ」
「だろう? 誰も見ていなかったら、誰がやったって文句は出ねぇ」
どうやら、このゴミ処理の仕事は役所からの仕事らしい。ということは、領が管轄する仕事ということ。そんな大きなところからの仕事……私なんかがやっても大丈夫なのだろうか?
「だからよ、このことは内密に……な! 今度、門番たちに一杯奢るからよ。今度から、このスラムの子供を通してやってくれねぇか?」
「だったら、今日奢れよな。じゃなかったら、明日から通さないぞ」
「分かった、分かった。後で迎えにくるから、頼むわ」
「なら、通って良し。一応、アレを確認してもいいか?」
「ほいっと」
ガルドが紐のついた小さな木の板を見せた。それを門番が確認すると、了解したように頷く。
「ちゃんとバレないようにやるんだぞ」
「分かってるって! じゃー、行くぞ」
ガルドが森に向かって歩き出すと、私もその後を追う。町から出るのは初めてだ、ちょっとドキドキする。
町の外には魔物が住んでいて、とても危険だ。そんな中、森の中にゴミを捨てに行かなくちゃいけないのは身の危険を感じる。
心なしか、ガルドの歩幅が広く、足の動きが早くなっているように感じる。やっぱり、町の外の世界は危険だから、少しでも早く仕事を終わらせようと考えているのだろう。
私もそのガルドに遅れないように精一杯台車を押してついていく。疲れたなんて言ってられない、自分の命がかかっているんだから力の出し惜しみなんて出来ない。
――そして、三十分後。
「ついたぞ、ここだ」
ガルドが立ち止まった先を見て見ると、ぽっかりと開いた穴が見えた。
「おーおー、毎度の事だがちゃんとゴミが処理されているな。怖ぇー」
「何かあるんですか?」
「このゴミは誰が処理すると思う?」
「……分からないです」
「森に棲んでいるスライムが食べるんだよ」
ゴミってスライムが食べる物なの!?
「あいつら、雑食性だからなんでも溶かして食っちまうんだよ。人間様が出すゴミには色んな物が混じってあるから、美味しいんだろうな」
「驚きました……」
「だから、ここに来たら早くゴミを捨てて立ち去った方が良い。人間がいると、そっちのほうが美味しそうだから近寄って来るんだよ」
「ち、近寄って……」
「もたもたしている内に木の上から突然落ちてきて、体にへばりついて、溶かされて食われちまうぞ」
ガルドは人をからかうようにニタニタと笑いながらそう話した。その話を聞いて、背筋が凍った。そんなことになったら、死んじゃう!
「あっはっはっ! ビビっているな! だから、早くゴミを捨てるぞ。台車の箱の下にストッパーがある。そこを開けて、ゴミを穴に入れろ」
「は、はい!」
私は急いで台車の箱の下にあるストッパーを外した。すると、箱の全面が開き、箱の中に入れていたゴミが雪崩のように穴に入っていく。最後に台車を傾けてゴミを全部穴に入れると、ストッパーをかけた。
「よし、捨てたな。じゃあ、また町に戻るぞ。ゴミ処理の一連の動きは分かったか?」
「はい、大丈夫です」
「なら、その繰り返しをして一つのゴミ箱を空にしろ。そうしたら、報酬の五百セルトは渡してやる」
ゴミ箱一つ空にすると五百セルト……。黒パンが一つ五十セルトで肉の串焼きが百五十セルト。頑張れば、まともな食べ物にありつける!
「俺は家に帰っているから、終わったら家に来てくれ」
「あの……家の場所はどこですか?」
「あー、それも教えないといけないな。通りを歩きがてら教えてやるから、ついてこい」
そう言って、歩き出すガルド。私は置いて行かれないように、台車を押してついていった。




