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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第一章 スラムの孤児

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41.忙しくなってきた(2)

「おーい、水をくれー」

「はい、ただいま!」


 料理を運び終えるや否や、すぐに声がかかる。トレーを持って呼ばれた席へ行き、空になったコップを回収した。急いで水を――と思った矢先、扉が開く。


「いらっしゃいませ! 空いているお席にどうぞ!」


 新しく入ってきたお客さんに笑顔で声を掛ける。ちらりと視線をやると、ハリーはお会計中。なら、あのお客さんの水も私が用意しよう。


 足早にホールを抜け、厨房へ。さっきのコップに水を注ぎ、新しい来客用にもコップを満たす。間違えないように順番を頭に刻みながら、ホールへ戻った。


 まずは水を頼んだお客さんの席へ。


「お待たせしました、お水です」

「おー、ありがとう。小さいのにしっかりしてるな! おじさん、感心したぞ」

「そ、そうですか? ありがとうございます!」

「ルアがいると、なんだか和むな。暇になったら話し相手になってくれよ」

「はい、もちろんです!」


 不意に褒められると、やっぱり照れる。でもそれ以上に、ここで自分が受け入れられた気がして嬉しい。笑顔で返すと、お客さんもさらに笑顔を深めてくれた。


 ――笑顔は笑顔を呼ぶ。


 この短い時間で、それをはっきりと感じた。自分も、周りも幸せにできるなら、この笑顔はきっと私の武器になる。絶やさないようにしっかりしなくちゃ。


 そんなことを思いながら、今度は新規のお客さんの席へ向かう。


「お待たせしました、お水です」

「あら、可愛い子。いつからいるの?」

「今日からなんです。ルアって言います。よろしくお願いします!」

「へぇ、そうなんだ。ここにはよく来るのよ。これからよろしくね」

「ありがとうございます。ご注文はお決まりですか?」

「えーっと……」


 今日初めて会う人ばかりだから、こうして自己紹介を求められることも多い。みんな興味津々で、自然と話しかけてくれる。


 忙しい中でも、一組ずつ丁寧に自己紹介をする。すると、返ってくるのは決まってにこやかな笑顔――その度に、胸が少し温かくなるのだった。


 注文を取り終えると、すぐに厨房へ向かう。中ではノットが忙しそうに鍋を振っていた。


「よし、出来上がったぞ。盛り付けるから、持っていってくれ」

「はい!」


 ノットは手際よく料理を皿に盛り付け、それをトレーの上に並べてくれる。私はそれを受け取り、再びホールへ。えっと……この料理は、あの席だ。


「お待たせしました! ご注文のお料理です」


 笑顔で席に近づき、料理を一つずつ丁寧に並べていく。すると、お客さんの一人が目を丸くした。


「えっ、誰が何を頼んだか覚えてるの?」

「はい、覚えました!」

「へぇ、たいしたもんだな! 気が利くじゃないか」

「なんだか嬉しいわね」

「ルアちゃん、かしこいなぁ」


 褒め言葉が一度に押し寄せ、頬が熱くなる。伸びてきた手がそっと頭を撫で、くすぐったさと嬉しさが同時に胸に広がった。


「どう? 私のルア、凄いでしょ!」


 ――突然、横からハリーの声。思わずきょとんとすると、お客さんたちは苦笑いを浮かべる。


「ハリーのルアじゃないだろ!」

「じゃあ……うちのルアは凄いでしょ!」

「うーん、言い方がちょっと変わっただけじゃない?」


 笑い声がテーブルに広がり、私もつられて笑ってしまった。その時、別の席の人達が立った。


「あら、もういいの?」

「おう、お会計頼むわ」

「相変わらず、この店は賑やかだなぁ」

「ふふっ、ルアが仲間になったから、これからはもっと賑やかになるわよ」

「そりゃいいな! 今度は落ち着いた時に来て、ルアとゆっくり話してみてぇな!」


 やっぱり、このお店に来る人はみんないい人だ。


 ハリーとお客さんのやりとりは親しげで、私のことまで気にかけてくれる。その優しさに、胸が少し温かくなる。


 私も、あの輪の中に自然と入っていけるだろうか。……ううん、入っていきたい。


 だったら、もっと頑張らないと。仕事を丁寧に、しかも早く終わらせて、空いた時間でお客さんと話すんだ。そうすれば、もっと仲良くなれるはず。


 お客さんにとって、顔見知りがいる店はきっと足を運びやすい。ハリーがこうしてお客さんと仲良くしているのも、きっとそのためなんだろう。


 私も、この店の“理由”のひとつになりたい――そう強く思った。


 ◇


「ルア、食器洗い頼む!」

「はい!」


 ホールで忙しく動き回っていると、厨房からノットの声が飛んできた。私は「任せてください!」と返事をして、ホールをハリーに任せ、すぐさま厨房へ向かう。


 厨房の奥、洗い場にはお客さんが使い終えた皿やカップが山のように積み上げられていた。ホールの仕事ばかりに気を取られていたけれど、こっちもきちんと片付けなければ。


 私は腕まくりをし、たわしを手に取る。灰をたわしに振りかけると、キュッキュッと音を立てながら食器を磨き始めた。


 皿の縁、フォークの隙間、カップの底。汚れを見逃さないように、丁寧に、でも素早く。


 油汚れが強い皿は灰を少し多めにし、軽くこすってから水で流すと、あっという間に白さが戻る。


 次々と食器を洗ってはすすぎ、布で水気を拭き取っていく。手は冷たいけれど、洗い終えた皿が整然と並んでいく様子は、なんだか達成感があった。


 ピカピカになった食器は、まるで自分まで磨かれたみたいで、気持ちがいい。


 集中していると、時間があっという間に過ぎていく。気付けば、最初に積み上がっていた食器の山は半分以下になっていた。


「おっ、いいペースだな、ルア! この調子で全部洗ってくれ」

「はい、任せてください!」


 短い言葉でも、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 褒められて、そして頼られる。こんな感覚、ずっと味わいたかった。前の世界ではただ「やれ」と言われるだけで、感謝も評価もなかったのに。


 ノットの言葉は、不思議と力になる。まるで背中を押されたみたいに、腕が軽くなった。


「もっときれいに、もっと早く」そんな気持ちが自然と湧いてくる。


 私は手の動きを少し速め、けれど丁寧さは崩さず、食器を次々と磨いていく。


 水がはじけ、灰と汚れが流れ落ち、白い皿が光を反射する。そのたびに、自分まで輝いていくような気がした。


 ――よし、やってやろう。全部、ピカピカにしてみせる。


 そう心に決めて、私はさらに勢いよくたわしを動かした。

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