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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第一章 スラムの孤児

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35/72

35.歓迎

「なんだって? 新しい仕事が決まった?」


 仕事を終えて、煤を水で洗い落とした後、私はトレビに報告した。すると、急に真剣な顔になり、私の肩を掴んできた。


「それ、本当に大丈夫な仕事かい? 騙されてるんじゃないだろうね?」

「はい。煙突掃除で伺った飲食店の店主に声をかけてもらいました」

「仕事内容はちゃんと聞いたのかい? 重労働だったり、過酷な条件だったりしないだろうね?」

「調理の補助と掃除、それから配膳だそうです」

「……なるほど」


 トレビは腕を組み、少し難しい顔をして考え込む。そして、しばらくの沈黙のあと――。


「それなら、大丈夫そうだ。店主は、良さそうな人だったのかい?」

「はい。とても親切でした。私の働きぶりを見て、声をかけてくれたんです」

「ふむ、ルアの働きぶりを見て……それなら信用できるかもしれないね」


 どうやら、トレビはずっと私のことを気にかけてくれていたらしい。色々と問いかけたあと、ようやく納得したように、ふっと柔らかく笑った。


「世の中には、条件の悪い仕事を子どもに押し付けるような奴もいるからね。でも、今の話を聞く限り、今回は大丈夫そうだ」

「はい。店主さんも、私のことを心配してくれました」

「ルアのことを心配してくれた、か。それなら、きっと信じていいだろう」


 トレビはようやく納得がいったように頷いた。トレビが大丈夫だっていうのなら、きっと大丈夫だろう。


 すると、トレビが声を張り上げて子どもたちに呼びかけた。


「おい、みんな! ルアに新しい仕事が決まったみだいだよ。みんなで祝ってやりな!」


 その声を合図に、子どもたちは「えっ?」と驚いたあと、すぐに笑顔になってワッと私のまわりに集まってきた。


「新しい仕事って本当? すごいじゃん、ルア!」

「おめでとう!」

「ちょっと寂しくなるけど……新しい場所でも、頑張ってね!」


 みんなが口々に言葉をかけてくれる。明るく、まっすぐなその声が胸に響いて、思わず胸の奥が熱くなった。


 そんな中、一歩前に出てきたのはオルガだった。


「ルア、よかったな。新しい職場でも、しっかりやれよ」

「オルガ……。今まで、本当にありがとうございました」

「気にすんな。こっちこそ、お前にはずいぶん助けられたからな」


 そう言って、オルガは少し照れくさそうに、でもどこか誇らしげに笑った。ぶっきらぼうだけど優しいその笑顔に、胸がぎゅっとなる。


 仲良くしてくれた子と別れるのは、やっぱり辛い。でも――きっと、オルガも同じ気持ちだ。


 だから私は、少しでも笑顔で別れられるように、顔を上げて言葉を伝えた。


「ここでの仕事は、一生忘れません。本当に……ありがとうございました」


 私の言葉に、まわりの子どもたちが一斉に笑顔で声をかけてくれる。


「がんばってね、ルア!」

「また顔出してよ!」

「絶対、いい仕事場になるって!」


 温かい声に包まれて、私は何度も何度もうなずいた。


 寂しさはある。ここで過ごした日々は、簡単に消えるものじゃない。だけどそれでも、私は前を向いて歩いていく。


 これまでの仕事があったから、今の私がある。あの店で、もっと学んで、もっと成長して……いつか胸を張って、成長した自分の姿を見せにきたい。


 そう思いながら、私は軽く手を振って家を出て行く。その手に、みんなが笑顔で応えてくれた。


 ◇


 翌日の昼過ぎ、私は指定された時間にお店を訪れた。店主から「昼食が終わった頃に来てほしい」と言われていたのだ。


 扉を開けて中に入る。


「すみません……」

「あら? お客さんかしら? でも、もう昼食の提供は終わってるはず――」


 カウンターの奥から声をかけてきたのは、明るい印象の女性だった。だが、私の姿を見た瞬間、その女性は言葉を止めた。


 数秒間、お互いに見つめ合う。沈黙が流れたあと、突然、彼女がパッと声を上げた。


「わかった! もしかして、ここで働くって子じゃない? ね、そうでしょ?」

「えっ、あ……はい、そうです」

「やっぱり! 気づくのが遅れちゃってごめんね。私はハリー。このお店で働いてるの。よろしくね!」


 彼女はにこやかに手を差し出してきた。私も思わず笑みを浮かべて、その手を握る。


「ノットさーん、新人さんが来ましたよー!」


 ハリーが厨房の奥に向かって声をかけると、数秒後に見覚えのある姿が現れた。店主のノットさんだ。


「おー、来たか! ルア、ようこそ《獅子の大皿亭》へ。これからよろしく頼むぞ」

「はい、よろしくお願いします!」

「じゃあ昨日言った通り、まずはハリーと一緒に服と靴を買ってきてくれ」

「ふふっ、こんな可愛い子の服選びができるなんて、ちょっと得した気分。さ、行きましょっか!」

「は、はい!」


 ハリーに手を引かれるようにして、私はお店を後にした。


 少し緊張していたけれど、普通に歓迎されてホッとして胸の奥があたたかい。ここでの新しい生活が、きっと始まる。

お読みいただきありがとうございます!

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