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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第一章 スラムの孤児

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20.煙突掃除(1)

「じゃあ、今日から俺がルアの先輩だからな! ちゃんと先輩って呼んでくれよな!」

「……オルガ先輩?」

「うししっ、そうそう!」


 得意げに胸を張るオルガは、どこか照れくさそうにはにかんでいた。


「まずは仕事を始める前に、ちゃんと挨拶だ。これが基本だからな」


 そう言いながら、オルガは一軒の家の扉の前に立ち、軽くノックをした。数十秒ほどして、扉がギィと開き、中から家主が顔を出す。


「おはようございます! 本日、煙突掃除に来ました!」

「はいはい、聞いてるよ。早く済ませてちょうだいね」

「よろしくお願いします!」


 丁寧に頭を下げると、家主は無言で頷いて家の中へ戻っていった。


「煙突掃除はね、地区ごとに日を決めて、まとめて行うんだ。だから、家主さんたちも掃除の日をちゃんと知ってるってわけ」

「へぇ……てっきり、もっと適当に回ってるのかと思ってました」

「ばか言え、煙突掃除は大事な仕事だぞ!」


 オルガが肩を張って胸を叩く。この仕事に誇りを持っているみたいだ。


「放っとくと、煙突の内側にこびりついた煤が火を噴いて、最悪の場合は火事になるんだ。だから、町ぐるみでやってるんだよ」

「ってことは、役所からの依頼なんですね?」

「そうそう、役所がまとめてる。たしか義務って言ってたな。町の安全のためだし、手を抜いちゃいけないって、トレビからもよく言われてる」


 煙突掃除は、とても大切な仕事らしい。もし手を抜いて、煤が溜まったまま火でもつけば、火事になる危険がある。


「じゃあ、屋根に登るぞ」


 オルガは手際よく持ってきた梯子を家の壁に立て掛けると、軽やかな足取りで登っていった。


「気をつけてな。ここで足を滑らせて落ちる子も、たまにいるからな」


 その言葉に少し身がすくむけれど、私は覚悟を決めて一段ずつ登っていく。ギシギシと鳴る木の音に緊張しながら、できるだけ下を見ないように。慎重に、ゆっくりと。


 そして、屋根の上に顔を出した瞬間――私は思わず息をのんだ。


「ほら、ルア。見てごらん。町が、全部見えるだろ?」


 オルガの声に背中を押されるように振り返る。そして、その光景に、私は目を見開いた。


「……わぁ……」


 赤茶けた屋根が波のように連なり、まるで町全体が一枚の絵になって広がっていた。遠くには町を囲む外壁が見え、その向こうには緑の森と、淡く霞んだ空の地平が続いている。


 いつもは狭く感じていた空が、こんなにも広かったなんて。ただ屋根の上に登っただけなのに、世界の見え方がまるで違う。


 吹き抜ける風が心地よくて、胸の奥に溜まっていた何かが、ふっと軽くなる気がした。


 ここは、働く場所だけど。同時に、こんな素敵な景色を見られる場所でもあるんだ。


「へへっ、いい景色だろ?」

「はい、とても……」

「じゃあ、やる気が出たよな! さー、仕事だ仕事だ!」


 そう言うと、オルガは煙突のそばへと歩み寄った。その縁には、しっかりとした鉄のフックが取り付けられている。


 彼は持ってきた縄の先端を、そのフックに手際よく結びつけた。そして、首にかけていた布で口を覆うように縛る。


「いいか、ここに自分の命綱を固く結びつけるんだ。これは、仕事の命綱。少しでも緩かったら、意味がないからな」

「きつく、結びます」

「よし、じゃあ今から実際に中に入ってみせる。しっかり見ておけよ」


 そう言って、オルガは煙突の縁に乗り、ひょいと身体を滑り込ませた。私は身を乗り出して、その様子を上から覗き込む。


「この縄には金具がついてるだろ? ここに縄を通すと、ストッパーが働く。手を離しても落ちないってわけだ」


 言葉の通り、オルガは手を放して体を宙に預けた。縄がしっかりと彼の体重を支えている。


「で、この状態で煙突の内側をブラシでこすっていく。煤ってのは意外と頑固だからな、しっかり力を入れないと落ちない」


 ブラシを握ったオルガが、ゴシゴシと内壁をこすっていくと、こびりついた黒い煤が徐々に削られ、煙突の内側が元の色を取り戻していく。


「ある程度きれいになったら、次は下に進む。で、ここが大事なんだけど……」


 オルガは足と背中を煙突の内壁に密着させて、身体を安定させながら説明を続ける。


「ストッパーの金具を一度外して、縄の長さを調整する。それからまた金具を止め直す。調整中に滑ったら大怪我だからな、必ず身体を固定してからやれ」


 金具の位置を変えたオルガは、さらに数段階分、縄を使ってゆっくりと下へと降りていった。


「そして、まだ掃除していない部分の煤を落とす。これを繰り返して、最後まできれいにするんだ」


 ブラシが動くたびに、パラパラと煤が舞い落ちる。


「よし、これで一通りのやり方は分かったか?」

「はい、大丈夫です。やってみます」

「じゃあ実践だ。隣の煙突、空いてるだろ? そっちを頼む」


 オルガが笑みを浮かべながら顎で示した隣の煙突を見つめて、私は小さく息を吸い込んだ。初めての煙突掃除。足がすくむけど、やるしかない。

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