表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第一章 スラムの孤児

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/71

18.煙突掃除の子供たち

「じゃあ、ルアに紹介したい子たちがいるんだ」


 そう言って、トレビさんは私を家の中へと招いてくれた。木の床がきしむ廊下を進んでいくと、奥のほうからにぎやかな声が聞こえてきた。


 その声のする方へついていくと、壁のない吹き抜けの部屋に辿り着いた。暖かな陽射しが大きな窓から差し込み、部屋の中央には大きなテーブルとたくさんの椅子が並んでいる。その周りに、年の近そうな子供たちが十二人ほど、笑い合いながら食事を取っていた。


「お前たち、もう食ったかい?」


 トレビさんが声をかけると、子供たちは一斉にこちらを向いた。そして、口の中の食べ物を慌ててかきこみ始めた。


「食べたー!」

「じゃあ、片づけな!」

「はーい!」

「俺がいちばーん!」

「あっ、ずるーい!」


 子供たちは食器を手に立ち上がり、順番に台所の方へと運んでいく。それだけではなく、自分の皿やカップを、年長の子に教わりながら器用に洗い始めた。


 その様子を見て、私は思わず感心してしまう。


「この子たちが、煙突掃除をする子たちだよ」


 トレビさんが隣で静かに教えてくれた。


「全部、トレビさんの……お子さんですか?」


 そう尋ねると、トレビは笑って首を横に振った。


「いやいや。みんな孤児さ。私が拾ってきて、一緒に暮らして、仕事を教えてるんだ」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。こうして拾われる子もいたことに感心をする。


「すごい……。みんな、元気で、楽しそうで……」

「もちろん大変なこともあるけどね。でも、しっかり働けば、ちゃんと食って、ちゃんと寝れる。そういう当たり前をこの子たちに教えているのさ」


 トレビさんの目には、穏やかながらも力強い光が宿っていた。すると、食器を洗い終えた子供たちがこちらに近づいてきた。


「おーい、トレビー。このお姉ちゃん、だれー?」


 そう声をかけてきたのは、顔にそばかすのある小柄な男の子だった。


「この子はルア。今日から掃除人の仕事を手伝ってくれるんだ」

「へえ! 新入りか!」

「ちっちゃーい!」

「スラムの子?」


 子供たちが一斉にわっと私の周りに集まってくる。中には手を引いてくる子もいて、気づけば囲まれていた。


「ちょ、ちょっと、近い……!」


 戸惑う私に、トレビさんが笑いながら声をかけた。


「ははは、すまんね。うちの連中は人懐っこくてな。けど、悪い子たちじゃない。すぐ仲良くなれるよ」


 私は小さく頷いた。こんなに元気な子たちに囲まれて、少しだけ肩の力が抜けた気がした。


 スラムの子供たちとは違う、穏やかな子供たち。


 あのスラムの、空気の重たい路地裏。誰もが食べ物をを盗まれないように、常に周囲を警戒していた。目が合えば喧嘩に発展することもあったし、年上の子に目をつけられれば、それだけで毎日が地獄だった。


 けれど、この子たちは違う。そんな、争いとは無縁のところで生きているお陰か、全然すれていない。


 その時、私の服の袖を引っ張ってくる子がいる。


「ねえねえ、ルアっていくつ? ぼく、九歳!」

「私は十歳ですよ」

「わっ、年上だ!」


 不意に出た返事に、周囲の子たちが「おおー」とどよめく。


「すごーい、お姉さんじゃん!」

「ほんとに? 小さく見えるのに!」

「でも、煙突掃除は新人だな!」


 あっけに取られた。こんなふうに、まっすぐに言葉をかけられたのはいつ以来だろう。誰かが笑っている輪の中に、自分が自然と入っていくなんて……。


「ほらほら、お前たち。仕事の時間だよ! さっさと準備をしな!」


 トレビさんが手を叩いて声を上げると、それまで騒がしく笑っていた子供たちが「えー、もう?」と名残惜しそうにしながらも、きびきびと立ち上がった。


 そして、廊下を挟んだ向かい側――壁のない作業部屋のような場所へと移動していく。


 その部屋には、金属の留め具がついた縄や、煤で黒ずんだブラシ、布が並んでいた。子供たちはまるで儀式のように、自分の装備を選び、慣れた手つきで体に縄を巻きつけていく。


 ほんの数分もしないうちに手にはそれぞれの道具を持ち、布を首に巻いて廊下に整列していた。


 呆気にとられて見ていると、トレビさんが私の方を振り向いた。


「ルアにも、ちゃんと装備をつけさせないとね。――おい、オルガ! ルアの準備を頼む!」

「はーい。ルア、こっち来て!」


 私に最初に声をかけてくれた、そばかす顔の男の子オルガが駆け寄ってきて、自然に私の手を取った。


 そのまま部屋の中へ連れていかれ、私はぎこちなく立ちながら、オルガが手早く縄を体に巻きつけていくのを見つめた。


「いいか、これは落っこちないようにするための命綱だ。まず、腰と胸のあたりにしっかり縛って、余った縄はこうして体に巻きつけておく。そして最後に、金具でガッチリ固定する。分かった?」

「は、はい。なんとなく……」

「なんとなくじゃ駄目。これ、命に関わるからな」


 その真剣な言葉に、私は思わず息をのんだ。オルガは子供なのに、まるで大人のような表情をしていた。


「……分かりました。ちゃんと覚えます」

「うん、それでいい」


 彼はふっと笑って、私の首に布を巻き、最後にブラシを一本手渡してくれた。


「これが今日の相棒。煤で真っ黒になるけど、がんばれよ」

「ありがとうございます」


 道具を受け取る手に、少しだけ力が入った。どこか懐かしいような、けれど新しい感触。これは、私が生きていくための、新しい仕事。


「じゃ、整列ね!」


 オルガにうながされて、私は列の最後尾に並んだ。みんなの背中が、まっすぐ前を向いている。なんだか、自分まで引き締まる気がした。


「よし、全員準備できたな」


 トレビさんが列を見回し、大きく頷く。


「じゃあ、今日の担当地区に行くよ。気を抜くんじゃないよ!」

「「「はーい!!」」」


 元気な返事が一斉に響いた。その中に、少し遅れて――でもしっかりと、私の声も混ざっていた。

お読みいただきありがとうございます!

面白い!続きが気になる!応援したい!と少しでも思われましたら

ブックマークと評価★★★★★をぜひよろしくお願いします!

読者さまのその反応が作者の糧になって、執筆&更新意欲に繋がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここまで読んで思いました、水浴び描写が欲しいです! 続き楽しみ〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ