表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第一章 スラムの孤児

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/71

17.新しい仕事

 朝の日の光が差し込む中、私はドランと並んで歩きながら、ガルドの家へと向かっていた。


 今日から、新しい仕事――煙突掃除が始まる。


 昨日聞かされたばかりなのに、新しい仕事に向かって一歩を踏み出していることが、まだ少し信じられない。でも、胸の奥は不思議と静かだった。不安もあるけれど、それ以上に、「やってみたい」という気持ちが強かった。


 ガルドが私の働きを見て、別の仕事を任せてくれた。そのことが、嬉しかったのだ。


 煙突掃除は簡単な仕事じゃないと分かっている。暗くて狭い煙突の中に入って、煤を落とす。危険もあるし、何より大人にはできない仕事だ。だからこそ、ちゃんとやり遂げたい。役に立てるところを見せたい。そう、強く思っていた。


 そんな私の胸の内を知ってか知らずか、隣を歩くドランが声をかけてくる。


「ルア、すごいな! 新しい仕事を任せられるようになるなんて。今まで頑張ってきたかいがあったな」


 その言葉に、私は自然と笑みを浮かべてうなずいた。


「はい……頑張ってきて、本当に良かったです」


 振り返れば、スラムで空腹に震えていた日々がすぐそこにある。でも、今は違う。働くことで生活が変わってきた。そして今度は、自分にしかできない新しい仕事に挑戦しようとしている。


 不安は確かにあるが、それ以上にやる気に満ちていた。その気持ちのまま、私たちはガルドの家に到着した。


「よお、おはよう」

「「おはようございます」」

「じゃあ、ドランはゴミ捨てを頼む。今日から二か所で良いからな。そして、ルアには新しい仕事の紹介だったな。俺についてこい」


 そう言って、ガルドは通りを歩き始めた。


「じゃあな、ルア。頑張ってこいよ」

「はい、ありがとうございます。お互いに頑張りましょう」


 ドランに軽く挨拶をすると、私はガルドの後を追って行った。


 ◇


 表通りを抜けて少し歩いたところに、ひときわ大きな家が建っていた。堂々とした造りで、煙突が屋根の上からいくつも突き出ているのが見える。あれが――今日から私が関わる場所だ。


 ガルドさんは迷いなくその家の扉へと進み、軽く拳で扉を叩いた。


「おーい、トレビ! 連れてきたぞー!」


 しばらくすると、ギィと重々しい音を立てて扉が開いた。中から現れたのは、がっしりとした体格の中年の女性だった。腕も太く、いかにも職人といった風情だ。


「やけに早いじゃないか、ガルド。あんたにしちゃ上出来だね」

「仕事をさせるためには、早起きもするもんだ」

「だったら自分で掃除もしてみたらどうさ? そっちのが早いかもよ?」

「そりゃご勘弁。楽ってのを覚えたらもう戻れねぇってもんよ。ま、それはともかく――今日はこいつを紹介しに来たんだ」


 そう言って、ガルドさんは私の背をぽんと押した。前に出された私は、思わず少し緊張しながら女性の顔を見上げる。


 トレビさんと呼ばれたその女性は、腕を組んだまま、じろじろと私を観察した。


「ふむ、身体は小さいね。煙突にはちょうどいいかも。あとは……力がどれくらいあるかだね」

「ゴミ捨てを毎日やってたんだ。体力はあるし、根性もあるぞ」


 ガルドさんが自信たっぷりに言ってくれる。その言葉が、なんだかくすぐったくて嬉しかった。


「そいつは頼もしいね。じゃあ、約束通り、預からせてもらうよ」

「おう。じゃあ、紹介料をだな……」

「はいはい、今度たっぷり奢ってあげるよ」

「ちぇっ、やっぱりそうくるか。でもまぁ、任せるよ、トレビ。こいつは頑張る子だから、よろしくな」


 そう言ってガルドさんは、私の頭を軽くぽんと叩いた。私は緊張しながらも、小さくうなずいた。


 そして、ガルドさんは「頼んだぞ」とだけ言い残し、軽く手を振って立ち去っていった。途端にその場に残された私は、なんともいえない心細さに包まれた。


 改めてトレビさんを見上げると、腕を組んだまま、じっと私のことを見下ろしている。特に何も言わないのに、その視線だけで圧を感じる。大人の威厳……風格というか。自然と背筋が伸びてしまうような威圧感があった。


 胸がドキドキして、足元が少しだけぐらつく。けれど――ここで気圧されたら終わりだ。


 私はぐっと気持ちを引き締めて、小さく拳を握った。そして、精一杯の声で言葉を届ける。


「あのっ……ルアって言います!」


 思わず、声が少し裏返ってしまったけれど、構わず続けた。


「スラムで暮らしていますが、ご縁があって、今まではゴミ捨ての仕事をさせてもらっていました。それで……えっと、こちらの仕事も、全力でがんばりますので……っ、どうぞよろしくお願いします!」


 声を震わせながらも、なんとか言い切った。続けて頭を深々と下げ、精一杯の誠意を込める。


 今すぐに認めてもらえなくてもいい。だけど、ここでの第一歩を、悔いのないように踏み出したかった。


 恐る恐る顔を上げてみると、トレビさんはしばらく私を見つめたあと――ふっと口元を緩め、ニカッと豪快に笑った。


「いいね、その心構え。やる気がある子は好きだよ。それぐらいの気持ちがなきゃ、この仕事は務まらないからね」


 その声は力強く、どこか頼もしかった。


「よし、あんたをうちの掃除人として迎え入れるよ。今日からよろしくね、ルア」


 その一言が、胸にじんわりと染みていった。嬉しさがどんどんこみ上げてきて、顔が笑顔になっていく。


「……はいっ!」


 込み上げる嬉しさを抑えきれず、思わず大きな声が出てしまった。けれど、それを恥ずかしいとは思わなかった。ようやく、新しい場所に受け入れてもらえたのだ。


 胸の奥がじんわりと温かくなる。緊張で強張っていた体が、少しずつほぐれていくのを感じていた。

お読みいただきありがとうございます!

面白い!続きが気になる!応援したい!と少しでも思われましたら

ブックマークと評価★★★★★をぜひよろしくお願いします!

読者さまのその反応が作者の糧になって、執筆&更新意欲に繋がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
煙突掃除は肺がー とか言ってらんない。頑張れ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ