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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第一章 スラムの孤児

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13.重労働

「すまん! 今日は三か所、回ってくれ!」


 朝、ガルドの家を訪ねると、開口一番、そんな言葉をぶつけられた。


「三か所……ですか?」

「そうだ。今までサボってたツケが回ってきてな。役所から、『早くゴミを片付けろ』ってキツく言われちまったんだ」


 どうやら、ガルドは以前からこの仕事を適当にこなしていたらしい。そのせいで、町のあちこちに満杯のゴミ箱が溢れ、とうとう領民から苦情が入ったそうだ。


 思い返してみれば、これまで回ってきた場所のゴミ箱はどれもいっぱいで、時にはあふれかえっていた。あれだけ放置されていれば、匂いもきついし、周囲にも迷惑がかかるのは当然だろう。


「今日だけじゃない。しばらくは三か所頼む。とにかく、早くゴミを片付けないとまずいんだ」


 ガルドの声には焦りがにじんでいた。とはいえ、自分でどうにかしようという気はないらしい。


 突然の仕事量に一瞬戸惑ったけど、やるしかない。ゴミを運んだ分だけ報酬が増えるなら、悪い話ではない。……問題は、体力がもつかどうか。


「どうだ、三か所、いけそうか?」

「……はい、できる限りやってみます」

「助かる! ただし、夕方には門が閉まるからな。それまでに全部終わらせてくれよ!」


 タイムリミット付きの仕事か。簡単じゃないけど、任された以上、しっかりやり遂げよう。


 ガルドから通行証と台車を受け取ると、早足で路地に向かっていった。


 ◇


 最初のゴミ箱に到着した。


 近づくと、蓋は半分開いたままで、中からあふれんばかりのゴミが見える。一目で、何度も往復しなければならない量だと分かった。


 ……これを三か所分。のんびりしていたら、とても間に合わない。一日中、ずっと動き続ける覚悟が必要になる。


 いや、今まで通りじゃダメだ。ゴミを手早く台車に詰めて、できるだけ速く捨て場まで運ぶ。そして急いで戻り、次の場所へ。すべてを効率よくこなさないと。


 まちがいなく、働きづめの一日になるだろう。でも、やってやる。最近はちゃんと食べているから、前よりは体力もある。まだひょろっとしてるし、筋肉も足りないけど……それでも、動ける。


 ここで踏ん張らなきゃ、またゴミ漁りに逆戻りだ。せっかく掴んだ食べられる仕事なのに、失いたくなんてない。


 ガルドの仕事が取り上げられたら、この道は消える。だったら、私が支えなきゃ。この仕事を、自分の手で守り通すんだ。


 たとえ体がへとへとになっても、夕方までにやりきればいい。それができれば、私はここで働き続けられる。今の生活を守るためにも、やるしかない。


「よし、やるぞ!」


 深く息を吸い込んで、気合を込める。立ち止まってる暇はない。私は、台車を引きながらゴミ箱へと踏み出した。


 ◇


 ゴミ箱のストッパーを外すと、すぐにゴミが路地へと溢れだした。むっとした腐臭が空気を満たし、思わず顔を背けたくなる。けれど、そんなこと言っていられない。鼻を押さえながら、手早くゴミを台車に詰めていく。


 いつもよりずっと速い手つきで動き、箱がいっぱいになるとすぐに駆け足でゴミ捨て場へ向かった。少し走っただけで息が上がる。でも、止まってはいけない。


 ゴミ捨て場に着いたころには、全身が汗でびっしょりになっていた。それでも急いでゴミを捨てると、すぐに来た道を引き返す。もちろん、また駆け足で。


 腐臭の中で重たいゴミを掴み、詰めて、走る。ただそれを繰り返すだけ。立ち止まる暇もない。それでも、やらなければ。ここで仕事を失うわけにはいかないんだから。


 必死に体を動かし続けて、なんとか一か所目のゴミ箱を空にした。あと、二か所――。


 休む間もなく、次のゴミ箱に向かう。だが、二か所目に差しかかった時、体の動きが明らかに鈍くなっていた。疲れがどっと押し寄せてきて、腕も足も重い。走るスピードも落ちていく。


 こんな調子じゃ、今日中に三か所なんて無理かもしれない――そんな不安が頭をよぎる。


 それでも諦めず、足を止めず、なんとか作業を続けていたけれど……限界は突然やってきた。


 スコップを握る手が震え、ゴミを持ち上げられない。


「……そんな……っ」


 焦りが胸を締めつける。このままじゃ、終わらない。終えられない。どうにか、しなきゃ……!


 その時だった。誰かが、私の手からスコップをそっと取った。


 驚いて振り返ると、そこにはドランが立っていた。


「ドラン……? どうして……?」

「お前がゴミ捨てをしてるの、たまたま見かけてさ。大変そうだったから、手伝おうと思って来た。……ほら、この前、食事を分けてくれただろ? そのお礼だよ」


 そう言って、ドランは私の代わりにスコップを握り、ためらうことなくゴミを台車に入れ始めた。


「俺が詰めるから、ルアは少し休め。ゴミ捨て場までは行けなくても、ここでなら手伝えるからさ」

「……ありがとう、ドラン」

「気にすんなよ。困ってる時は、お互い様ってやつだ」


 そう言って笑ったドランの顔が、なんだかいつもよりずっと頼もしく見えた。


 つらくて、苦しくて、ひとりで背負いきれなかった今日の仕事。でも――誰かが手を差し伸べてくれたことが、心の底から嬉しかった。

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