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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第一章 スラムの孤児

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11.倍の仕事と倍の報酬

「あの、今日もよろしくお願いします!」

「おう。んじゃ、ゴミ箱の所に行くぞ」


 朝一でガルドの家を訪ねると、ガルドは眠そうな顔をして出てきた。台車と通行証を受け取ると、台車を押してガルドの後をついていく。


「飯は食ったか?」

「はい。働く前に食べてきました」

「おし、それじゃあ沢山働けるなぁ。じゃあ、今日は二か所のゴミ捨てを頼むわ」


 今日は二か所? だったら、二か所のゴミを捨てれば、千セルト貰えるって事? えっ、そんなに貰ってもいいの!?


「い、いいんですか!? だって、二か所のゴミを捨てたら、千セルトになりますよ」

「全然大丈夫だ。なんだ、金の心配をしてくれるのか? だったら、気にするな。俺もそれなりに金を貰っているからな。それにその金はお前が正当に働いた報酬だからな」


 ぽん、と軽く背中を叩かれる。優しい力加減。思わず胸が熱くなる。……ちゃんと見てくれてる人が、いるんだ。


「ありがとうございます……。が、頑張ります!」


 その言葉にガルドはフッと笑って、ゴミ箱のある路地を進んでいく。そして、三つ目の角で立ち止まり、ゴミ箱を見た。


「……ここ、だな。結構溜まってるな。まずはこいつを片付けてくれ。昨日みたいに、きっちりやってくれりゃいい」

「はい、任せてください。絶対、一つ残さずに捨てます!」

「よし。そしたら、終わったら俺の家に来い。もう一か所の場所を教えるからよ」

「分かりました! 早く終わらせて戻ります!」

「んじゃ、任せたぞ」


 手をひらりと振って、ガルドは歩き去っていった。残された私は、ふっと息を吐いて、目の前のゴミ箱を見上げる。


 木製の蓋は閉まりきっておらず、中からは色んなゴミが覗いている。ひどい匂いが鼻を刺し、思わず顔をしかめた。


 でも、ここで止まっていられない。


 私は、働けるってことが嬉しいんだ。誰かに必要とされて、役に立てるってことが。


 通行証を取り出して首にかけると掲げ、ゴミ箱のストッパーを外す。すると、雪崩のようにゴミが溢れだしてくる。この量、昨日よりも多い。


 腐ったものをすくうたびに、湿った音がして、臭いが広がっていく。いつものゴミ漁りよりも強烈な匂いが鼻につく。だけど、怖気づいていたら仕事は終わらない。


「よし、やるぞ……!」


 まだ朝の早い時間。冷たい風が吹き抜ける路地。誰もいない静かな時間の中、私は一人黙々と働き始めた。


 ◇


 強烈な匂いが立ち込める中、私はひたすら手を動かしていた。


 ゴミを台車に積んで、町の外れまで運ぶ。運んだら空にして、また戻る。ただそれの繰り返し。言葉にすれば単純だけど、実際は重労働で、全身の筋肉がじわじわと悲鳴を上げてくる。


 だけど気づけば、あれほど山積みだったゴミ箱の中身が、すっかり空になっていた。


 一つ目のゴミ捨てを終えてガルドに報告すると、彼はすぐに次の場所へ案内してくれた。


「さっきよりこっちのほうが溜まってるな。大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。やれます!」


 次のゴミ箱も、やはりゴミがあふれんばかりに積まれていた。生ゴミの腐った匂い、湿った紙、壊れた木材、汚れた布。その全てが混ざり合った強烈な臭気に、胃がひっくり返りそうになる。


 それでも、私はスコップを握り直し、ひとつずつ丁寧に積み込んでいった。誰かが見ていなくても、私は手を抜かない。そう決めたから。


 ゴミを台車に運び、通行証を見せて門を通って町の外へ。戻ってくる時には、通りを歩く人々の視線が痛いほど突き刺さる。


 でも、下を向かない。胸を張るんだ。


 だって私は、誰かの役に立っている。汚れ仕事でも、ちゃんと働いているんだから。


 そしてついに、二か所目のゴミ箱も空っぽになった。汗で前髪が張りつき、手も足もパンパンだけど、心の中はすっきりとしていた。


「おおっ、やったな! 二か所とも完璧に捨てたか!」


 ゴミ箱を確認したガルドが、満面の笑みを浮かべてこちらを見た。


「俺なんか、一か所でヘトヘトだったのに……すげぇよ、お前。よくやったな!」


 その言葉が、胸の奥にじんわりと染みてくる。ちゃんと見てくれていた。それが、ただただ嬉しかった。


「じゃあ、報酬の千セルトだ。細かくて悪いが……ほらよ」


 ガルドは腰の布袋を開けると、小銅貨を一枚ずつ、丁寧に数えて手渡してくれた。十枚。重みのある小さな金属の感触が、手のひらにしっかりと伝わってくる。


「えっと……本当に、貰っていいんですか?」

「当たり前だろ。お前がちゃんと働いた分の報酬だ。胸を張って受け取れ」

「……ありがとうございます!」


 手の中にある、汗と努力の結晶。これが自分の手で稼いだお金。嬉しくて、誇らしくて、自然と頬が緩んでいた。


 ガルドと別れたあと、昨日と同じ店でパンと肉の串焼きを買った。昨日のような警戒の言葉はなく、店主は当たり前のように品を渡してくれる。


 たったそれだけのことが、嬉しかった。少しだけ、この町に受け入れられた気がした。


 人気のない路地に入り、買ったパンと串焼きを食べる。香ばしい匂い、温かさ、じんわり広がる味。すべてが心と体に染み渡る。


 こんな幸せ、何度味わっても飽きない。昨日みたいな涙は溢れてこないけれど、代わりに充足感が私の胸に広がった。


 存分に食べて満足した後、私はスラムに戻っていった。でも、ここですぐに寝てしまうと、食べ物を見つけた人として明日後を付けられてしまう。


 だから、井戸の所へ行って水を飲むふりをする。こうすることで、私はお腹を減らしていて、水を飲んで紛らわせているように装える。


 他の子供に混じり、順番を待つ。それから、自分の順番が来たら、水を勢いよく飲む、フリをした。これで、工作は達成された。あとは、お腹が減ったように装って自分の家で寝ればいい。


 ふと気づくと、いつも見かけるはずのドランの姿がない。今日は遅くまでゴミを探しているのか、それとも……何かあったのか?


 胸にざらりとした不安が広がって、私はスラムの中を急いで歩いた。そして、ドランの家が見えてきたその時――地面に横たわる小さな体が目に入った。


「……ドラン?」


 胸がざわめき、私は駆け寄った。まだ寝るには早すぎる時間。なのに、彼は動かずにそこにいた。

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