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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第三章 王女の側近

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103.注目の的

 二人で教室に戻ると、教室のざわめきが引く。みんな、こっちを見て、驚いている様子だ。


 あんなことがあったのに、王女のリディア様と一緒にいるのが理解出来ないみたいだ。一体何を考えているんだ、そんな視線が注がれる。


 だけど、そんな事は気にしない。私は自分の意思でリディア様の傍にいると決めたんだから。


 すると、予鈴の音が鳴った。


「では、自分の席に戻ります。休憩時間になったら、お傍に参りますね」

「えぇ、楽しみ」


 そう一言断って、私は自分の席に戻った。席が離れているのは何かと不便だ。どうにかして、リディア様の隣になれればいいのだけれど……。


 真剣にそのことを考えていた時――。


「あ、あの……」


 隣の席に座っていた男の子が遠慮がちに話しかけてきた。周りを気にするような素振りを見せて、こっそりと話しかけてくる。


「君、大丈夫なの?」

「大丈夫とは?」

「だって、ほら……。隣のクラスにいる、シグルド王子たちに目を付けられるよ」


 やっぱり、そのことが気がかりだったんだ。


「だって王子が、あんなふうに……。教室で、はっきりと見えたし……。あれを見たら、関わらない方がいいって思う人の方が多いよ」


 王子が王女を公然の場で貶め、嘲るような言葉を投げつけていた光景は、ここにいるほとんど全員の記憶に焼き付いているのだろう。だからこそ、クラスの空気は妙に冷えていて、誰もが無意識に距離を測り、視線を逸らし、関わらないという選択をしている。


 ――でも。


「だからって、私は距離を取りません」


 自分でも驚くくらい、声ははっきりと教室に落ちた。


「リディア様が何をしたっていうんですか。いじめられていたからって、孤立させられなきゃいけない理由にはなりません。私は、リディア様と仲良くしたい。それだけです」


 それは打算でも、同情でもない。ただ純粋な意思だった。


 男の子は目を丸くして私を見つめ、少し慌てたように言葉を重ねる。


「で、でもさ……。君まで目を付けられたらどうするの? 一緒になって、いじめられるかもしれないんだよ?」


 その心配は正しい。怖くないと言えば嘘になる。それでも、私は視線を逸らさなかった。


「その時は、真向から対抗します」


 一息で、迷いなく言い切る。


「リディア様がこれ以上いじめられないようにするし、自分もいじめられないようにします。なめられて、黙って引いたら終わりですから。ここで引いたら、きっと一生、下を向いて生きることになります」


 強気すぎる、と言われるかもしれない。でも、これは私の思いだ。


 男の子は言葉を失ったように口を開け、しばらくしてから、信じられないものを見るような目で私を見た。


「……すごいな。そんなふうに、はっきり言えるんだ」

「言わなきゃ、何も変わりませんから」


 その一文を口にした瞬間、教室のざわめきの中で、ほんの少しだけ、何かが揺れ動いた気がした。


 近くにいるクラスメイトが私に注目をする。そこには様々な感情が乗った視線が向けられた。


 驚き、困惑、戸惑い、心配、そして――ほんのわずかな憧れ。


 向けられる視線は一様ではなく、それぞれが違う感情を抱えたまま、私を映していた。王子に逆らう愚か者を見る目もあれば、危ういものを見るような目もある。それでも、私は背筋を伸ばし、顔を上げたまま、そのどれからも逃げなかった。


 ひそひそとした囁きが、波紋のように教室を伝っていく。


「本気なのか……?」

「王子相手だぞ……?」

「でも、さっきの言い方……」


 その空気を断ち切るように、私はもう一度、はっきりと声を出した。


「私は、自分の意思でリディア様と仲良くします」


 一瞬、私の周りが静まり返る。


「誰に何を言われようと関係ありません。王子だろうと、何だろうと――私にとっては敵じゃありません」


 それは挑発でも虚勢でもなく、揺るぎない事実として口にした言葉だった。


「正しいと思うことを、正しいと言えない場所になってしまったら、それこそ終わりです。だから私は、下を向きませんし、離れもしません」


 息をする音すら聞こえそうな沈黙の中で、誰かがごくりと喉を鳴らした。


 やがて、ざわめきは再び戻ってきたが、その質は先ほどとは少しだけ違っていた。怯えだけではない、迷いと、考える気配が混じっている。


 私はそれを感じ取りながら、そっと先頭に座るリディア様に視線を向ける。


 これで全部が変わるわけじゃない。今日のこの一言で、世界が優しくなるほど甘くはない。


 それでも、少なくとも、私はもう決めたのだ。


 誰かの立場や肩書きに怯えて、大切な人との距離を選ぶような生き方はしないと。


 そして、次の休憩時間にリディア様のもとへ向かう自分の姿を思い浮かべながら、私は静かに、でも確かに前を向いていた。

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