【第9話】封印の山と影仙の残響
「“封印山”の霊脈に乱れが生じている……?」
朝の講堂に呼び出された璃蒼は、学院長から下された突然の任務に目を丸くした。
仙苑学院が保有する結界区域の中でも、特に重要視される場所――“封印山”。
千年前の戦で影仙たちが封じられたとされる山であり、滅多に人が近づくことのない禁域。
「先日の穢霊の異変を受けて、霊脈検知術で山脈の奥に異常な波動が確認された。術の痕跡は……影仙のものに酷似している」
学院長・水珀の声音は淡々としていたが、その背後にある重みは感じ取れた。
「選抜された調査隊は六名。……璃蒼、朱蓮、青梗、嵐真、霄、そして——」
玄曜が扉を押し開け、ゆったりとした足取りで現れた。
「わたし?」
璃蒼は思わず目を見開いた。
(いやいやいや!? イケおじ神仙まで同行とか、緊張感ハンパないんですが!?)
「任務は調査と警戒。戦闘が発生する可能性もある。くれぐれも油断するな」
◇ ◇ ◇
「ふーん、“封印山”か……厨二病みがすごい名称だな」
険しい山道を進みながら、璃蒼は口元に手を当ててこっそり呟いた。
(しかもこの構成、パーティーに俺様系、クール系、理知的イケメン、ニヒル策士、渋声おじ様……これ、完全にオタクの夢パーティじゃん……)
横を歩く朱蓮がふっと口元を緩める。
「またおかしなこと考えてただろ?」
「……ううん? な、なんにも?」
「目がきらきらしてんだよ。何考えてた?」
超絶イケメンに間近に迫り、言葉に詰まる。
(し、仕方ないでしょ……。こっちは中身57歳のオタクおばさんなんだから……)
「そういうところが、逆に面白れぇけどな」
(はい優勝。朱蓮、さりげなく刺すの上手すぎない!?)
◇ ◇ ◇
封印山の結界入口にたどり着くと、辺りの空気は異様に重く、霊気が歪んでいた。
「これは……」
青梗が、結界の紋を指でなぞる。
「内側から術式を撥ね返してる……誰かが、封印の奥で“干渉”してる」
霄はその場に膝をついて、地面の裂け目を指差した。
「……見ろ。これは術の“突破痕”だ。外からじゃなく、中から逃げ出したんだ」
「封印された影仙の術痕……まさか、封印が破られ始めてる……?」
璃蒼の声に、嵐真が唸るように言った。
「あり得る。封印が千年保つとは限らん。ましてや、外部から誰かが干渉していたとすれば……」
玄曜がゆっくりと歩み出て、古い石碑の前に立つ。
「ここは、“羅玄”が最後に封じられた地……影仙の首領であり、“霧の賢者”と呼ばれた術者だ」
「賢者……?」
「禁術を極め、数多の命と引き換えに“死と生”の境界を超えたとされる存在。神仙にさえ到達できぬ知識と……闇を持っていた」
(……なにそのラスボス……怖い、でもちょっと燃える)
「問題は、羅玄の霊識が今もここに残っているかどうかだ」
玄曜が結界の中を睨む。
そのとき。
――ぐぅぅぅん……
低い振動音と共に、空気が歪む。風が逆流し、山肌に黒い霧が生まれた。
「……来たな」朱蓮が身構える。
「影の穢霊だ……!」
音阿と朱焔麒がそれぞれの主の背後から姿を現し、身を低くして構える。
「っ、行くよ、音阿!」
璃蒼は咄嗟に印を組み、霊符を広げて結界防衛術を展開する。
朱蓮の朱焔麒が炎をまとうと、嵐真の蒼空鷲が天から風の刃を呼び、青梗の蒼雷猊が轟雷を纏う。
「霄、そっちは任せた!」
「了解。……幽鳴狐、影を裂け」
霄の霊獣が静かに姿を現すと同時に、影の中から敵を引きずり出すようにうねりを伸ばす。
その異様な連携に、璃蒼は内心震えながらも叫んだ。
「この世界は……絶対、守り抜く……!」
影は裂け、光が差し込んだ。
だがその奥に、誰かの“視線”のような不気味な気配が、確かにあった。
(まさか、羅玄の霊識が……?)
◇ ◇ ◇
任務は一応の終了を迎えるも、霊脈の乱れと謎の符文の再出現、そして“視線”の記憶は、璃蒼の中に深く残った。
影仙の痕跡——それが次なる波乱を呼ぶ。