【第7話】課外任務、仙霊の森へ——迫る影と、響く鼓動
「仙苑学院 上級学習者に告ぐ。本日正午より、霊域『仙霊の森』への実地課外任務を開始する」
掲示板に貼られた訓練通知に、学院中がざわめいていた。
「課外任務って、いきなり……」
璃蒼は貼り紙を見つめながら、胃の奥がきゅっとなるのを感じた。まだ仙術の演習にも慣れていないというのに、いきなり森へって何事。
「璃蒼、来るか?」
背後から聞こえた低音ボイスに、振り向くと朱蓮が肩を組む勢いで近づいてきていた。
「もちろん来るよな? お前、朱焔麒と音阿を従えてるんだ。期待されてるぜ」
(え、いま軽くプレッシャー押し付けられたよね!?)
璃蒼の内心の叫びは虚しく、容赦なく事態は進行していた。
◇ ◇ ◇
仙霊の森は、仙界でも特に霊気の濃い地帯だ。
この地に湧く「霊核」を守るため、かつて数多の神仙が戦ったという。今は霊獣たちの聖域として厳重に結界で守られている——はず、だった。
「……結界、弱まってる?」
青梗の声が緊張を孕む。
「誰かが手を加えた痕がある」
嵐真が低く呟くと、霄が口元を歪めて笑う。
「おもしろくなってきたじゃない?」
(やめて! “おもしろい”じゃない! これフラグだから!ホラー映画だったら真っ先にいなくなるやつじゃない!)
心の中でつっこみながらも、璃蒼の中に何かがざわめいた。音阿が静かに羽根を震わせ、警戒を示す。
「……奥に、なにかいる」
そのとき、森の奥から低く唸るような音が響いた。
現れたのは、巨大な獣——否、霊獣が堕ちた姿。
黒く濁った霊気をまとい、理性を失った“穢霊”。
「……あれは……」
「まずい、後衛に回れ、璃蒼!」
「でも、音阿が……っ!」
音阿が璃蒼の前に立ちはだかり、低く唸る。
「下がってろ!!」
炎の奔流が霊獣を焼き払う。朱蓮が一気に間合いを詰め、朱焔麒を解放した。
「……焔麒、少し暴れていいぞ」
燃え立つ赤き獣が唸り、地を裂く。
「いけ、音阿!」
璃蒼の術式が展開し、共鳴する音が空を震わせた。
音阿の音波が朱焔麒の猛攻とシンクロし、穢霊を包む。
——浄化の旋律が響いた。
◇ ◇ ◇
戦闘が終わり、璃蒼は膝に手をついて深呼吸をした。
(すーちゃん、見てた? ばぁば、今日ちょっと頑張ったよ)
朱蓮が肩を貸そうと手を伸ばしてくる。
「……無茶するなよ。お前、顔には出さないけど、怖かったろ?」
璃蒼は驚いて朱蓮を見る。
「……そんな顔、してたか?」
「してたよ。俺にはわかる」
(うわあああああ!? なんか……なんか今、めっちゃときめいた……!)
朱蓮はくしゃっと笑った。
「でも……悪くなかったな、共闘。お前と、音阿と」
(だめ、しぬ……こういうこと言うキャラ……好きすぎる……)
璃蒼は小さくうなずきながら、心の中で転げ回った。
◇ ◇ ◇
「今回の件、偶然ではないかもしれん」
任務報告を終えた玄曜が、険しい顔でそう呟いた。
「穢霊の出現、そして森の結界の破損……何者かの意図がある」
謎が深まる中、璃蒼は静かに音阿を抱きしめた。
(それでも、私は守りたい。すーちゃんとの絆を、私の第二の人生を)
空に浮かぶ月が、森を照らしていた。