表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

【第6話】揺れる心、繋がる絆と……オタクの叫び

かすんだ視界に映ったのは、色気爆発の顔面偏差値120%男。

切れ長の瞳、流れるような朱の髪、ややはだけた仙服。

“はい、出ました、性癖ぶっ刺さり……!!”


(ちょっ……近い近い! え、なにこの距離、え、えっ!? 私、乙女ゲームのスチル入ってる!?)


中身は57歳、元腐女子主婦・高城由美。推しの声は梅原裕一郎。今は麗しき仙界の美形男子・璃蒼として第二の人生(というか来世?)を歩んでいる。


「……うん、大丈夫。音阿は?」


胸元に飛び込んできたのは、小さな霊獣・音阿。

震えてはいるけれど、目に宿る光は確かだった。


(……ああ、すーちゃんにそっくり。怖かったのに、泣かずに耐えて。もう、ばぁば泣いちゃう……)


音阿の頭をそっと撫でる手には、今の璃蒼としての温もりと、前世の祖母としての優しさが重なる。


「朱焔麒が暴走するなんて、初めて見たな」


青梗が、端正な顔でぼそりと呟く。

一方、嵐真が低くうなるように続けた。


「霊気の相性が悪すぎる。火と音は……正反対だからな」


「朱蓮がいなかったら、洒落にならなかったよね」


霄が、珍しく真顔で言うと、場が一瞬しんとなった。


(え、えっ、私そんなにヤバかったの!? ていうか……皆さま、並ぶとまぶしすぎて直視できません……っ)


璃蒼はこっそり後退りしたくなる衝動をこらえた。


「朱蓮、本当にありがとう。助けてくれて……」


「礼なんかいらねぇ。勝手に前に出るな、バカ」


素っ気ない言葉とは裏腹に、彼の耳はほんのり赤い。


(不器用か……ツンか……これはツンだな!? やだ、距離感ツンデレ尊い!!)


心の中で悶絶しているのを悟られないように、璃蒼はぎこちなく笑うしかなかった。


◇ ◇ ◇


その数日後、学院内では普段通りの授業が再開された。


璃蒼の部屋は、静謐で落ち着いた石造りの空間。

光を取り込む障子風の扉、香る霊草。

前世に大好きだったベーカリー巡りで嗅いだ香ばしい焼きたてパンの香りとは違うけれど、ここにも「好き」がある。


棚の上で音阿が、ふわふわの尻尾抱えて眠っていた。


「……すーちゃん、ばぁば、今日も頑張ったよ」


囁くような言葉が、部屋の中にすっと溶ける。


◇ ◇ ◇


夜、学院裏手の光霧林では月下演習が行われた。


「音阿、よろしくね」


「ピィ!」


澄んだ音が夜空に響き、音阿の軌跡が光を散らす。


「これは……すごい……」


講師が驚き混じりに呟いた。

霊獣と術者の共鳴現象。強い信頼と繋がりの証。


(え、ちょ、なにこのキラキラ空間。私、今魔法少女モード? キラキラ演出、乙女ゲームで見た感じ!)


音阿の霊気が一段と強くなる。風が優しく舞い、璃蒼の術式が完成する。その姿を、朱蓮が陰から見守っていた。


彼の視線に込められた想いは、まだ言葉にはならない。

だが確かに、そこに「変化」は始まっている。


“人生を、もう一度やり直すなら——”


璃蒼の中の由美が、そっと呟いた。


(……見た目はイケメン、中身はアラ還。でも……それでも、こんな人生、悪くないかもね)


星が瞬く夜空に、月の光が優しく降りそそいでいた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ