【第5話】暴走する仙気、交わる絆。朱蓮、救いの炎となる。
「音阿、いくよ!」
璃蒼の声に応え、白銀の霊獣――音阿が軽やかに宙を舞った。
仙苑学院の演習場、今日は霊獣同士の連携演習。
美麗な空間を、音阿の尾がキラキラと光の軌跡を描く。
「はじめてにしちゃ上出来じゃねぇか。だが――」
演習場の向かい側、朱蓮が低く笑う。
その隣、紅蓮のように咆哮を上げるのは――朱焔麒。
「お前、強者の前で油断するには早ぇぞ?」
「えっ?」
次の瞬間、朱焔麒が音もなく跳んだ。
地を蹴るというより、空間ごと焼き切ったかのような速さ。
「お、おとあッ!!」
音阿が瞬時に霊気を展開して防御するが、朱焔麒の爪がそれを切り裂く。
朱蓮が制止の気配も見せず、ただ微笑む。
「ほら、来るぞ」
「ちょっと待て!?」
けれど――。
その時、璃蒼の中で何かが弾けた。
熱い。痛い。眩しい。
息を呑んだ朱蓮の目の前で、璃蒼の体から紅白の光が一気にあふれ出す。
「璃蒼……お前……!」
「……は……ぁっ……、なんだ、これ……!」
霊気の暴走。
霊獣との絆が未熟な段階で、強い霊的ストレスを受けると発生する現象。
璃蒼の周囲に風が渦巻き、音が歪み、空気が震えた。
音阿が悲しげに鳴いた――
「璃蒼、気をしっかり……!まだ僕の声、届くはず!」
けれど意識が遠のいてゆく。
——もう駄目かもしれない。
——また、ここでも失ってしまうのか。
しかし、そのとき。
「……ったく、見てらんねぇ」
聞き慣れた低音が、爆ぜるように響いた。
朱蓮が風を裂いて、璃蒼の前に降り立った。
その背には、灼熱の焔を纏った朱焔麒。だが、今は完全に沈静化している。
「よくやった、焔麒。……あとは俺がやる」
朱蓮は、暴走する璃蒼の中へと、そのまま素手で霊気を流し込んだ。
「霊気ってのはな――魂の深さで決まる。お前、想像以上に“深い”ぜ、璃蒼」
彼の声は、火のように熱くて、どこか優しい。
「……戻ってこい。俺様が呼んでやる」
——その声に、璃蒼のまぶたがわずかに揺れた。
「朱蓮……?」
「やっと名前呼んだな。……気づくのおせーよ」
微笑む朱蓮の額には汗がにじんでいた。
彼は自らの霊気で、璃蒼の暴走を抑え、魂を引き戻したのだ。
「ったく、心配させやがって。……無理して、泣くくらいなら叫べよ。俺が、絶対助けてやる」
その言葉は、まるで遠い記憶の中の“誰か”がくれた救いのようだった。
璃蒼の頬に、熱い涙が一筋流れる。
「……ありがとう、朱蓮」