【第15話】朱蓮、焔に呑まれる
夜の学院中庭。
風は熱を帯び、空気が張り詰めていた。
朱蓮の足元から、赤黒い炎が噴き上がる。
その瞳は完全に紅へと染まり、口元には鋭い笑み。
「……あぁ、ようやく……全て焼き尽くせる」
(低音……色気混じりの狂気……諏訪部さんボイスの本気モードだ……!声だけで鼓膜に焔の熱を感じる……やばい……!)
その霊圧に押され、周囲の学院生たちは後ずさる。
しかし、その場にひょこっと飛び出す音阿の小さな影。
「ばぁば!! まもるの!!!」
「音阿!危ないから――」
音阿のふわふわ尻尾が逆立ち、体から柔らかな白光が迸る。
その声は幼さ全開なのに、不思議と胸の奥に響く。
(あぁ……この子の「ばぁば」って呼び方、優しさと決意が同居してて泣ける……!)
「だめっ! ばぁばに……わるいおとこ、ちかづけない!!」
「……悪い男、ねぇ。フッ、可愛い口をきく」
(あー!この含み笑い……諏訪部さんの低く抑えた笑い声……背骨がぞくっとする……!)
* * *
その上空――月光を背にして立つ羅玄。
「……さて。舞台は整ったか」
低く、柔らかく、それでいて背後から刺すような声音。
(ひぃ……森川さんの低音で「舞台は整った」って……一言で脳内シアター完成するやつ……!)
羅玄は眼鏡に指をかけ、朱蓮の焔を見下ろす。
その瞳に、微かに愉悦が浮かぶ。
「少し、風向きを変えてやろう」
ふっと指を払うと、黒い影が地を這い、朱蓮の足元に絡みつく。
「……チッ、貴様……!」
* * *
そして木陰から、静かに様子を見ていた冥珠。
その唇が皮肉げに動く。
「……やはり、危うい。あなたは、炎に喰われる」
(低めで透き通る、あの冷静な石田彰ボイス……言葉の余韻が耳に残って、心臓の鼓動と同期する……!)
冥珠は視線を璃蒼に移し、僅かに目を細める。
「鍵を握る者として……その覚悟を、問われますよ」
(はい尊死……「問われますよ」って語尾の刺し方……オタクの呼吸、耳の型・天国一閃……!)
* * *
朱蓮の焔がさらに膨れ上がる。
音阿は小さな体で必死に立ちはだかる。
「ばぁば、だいじょうぶ! おとあ、いるから!!」
(泣く……可愛い……でもその後ろで諏訪部低音の暴走ボイスが響くのヤバい……!)
羅玄の影、冥珠の忠告、朱蓮の焔――
そして音阿の白光が交錯する夜。
今、学院は嵐の渦中にあった。