【第12話】霊術戦、藍銀が閃く
学院の演武場に、張り詰めた空気が流れていた。
親善試合。
名目上は“学院同士の交流”という建前だが――
実質、実力見極めのガチンコマッチ。
しかも対戦相手は……あの崑華学院の首席。
冥珠――。
(あああああああ!!!この構図ヤバすぎでは!?バトルアニメ2クール目に入った途端に現れるライバル系ダーク美青年!!顔良し・実力良し・煽り性能高すぎて沼以外の何者でもない!!)
演武場の中央で対峙する二人。
冥珠は礼儀正しく一礼するが、相変わらずその口元には仄かな皮肉の笑みが浮かんでいる。
冥珠「本日はよろしくお願いいたします、璃蒼さん。手加減は……不要ですよね?」
(うわ~~~来た~~~~~~!!!うわ言い方!!!“さん”付けで挑発するやつ!!絶対おたく殺すウイルスを持ってる喋り方!!)
璃蒼も、応じて礼を返す。
「こちらこそ……お気遣いなく。全力でどうぞ」
その言葉と同時に、二人の間の結界が点灯。
気が満ち、霊気が唸る。
試合開始――。
冥珠の動きは、水のように滑らかだった。
氷の刃を生み出す霊術《氷輪断》が、放たれた瞬間には既に霧散している。
(はっっっや!? てかフォーム綺麗すぎでは!? スローで見たい……!てかこれスローで見たら100回リピできるやつ!!!)
応じて璃蒼は、藍銀の霊気をまとった刃《霊銀花》を振るう。
ガキン――!
刃と刃が交錯する瞬間、観客席から小さなどよめきが上がった。
朱蓮「……ちっ、あいつめちゃくちゃ本気じゃねぇか」
嵐真「“試しに来ている”つもりは、ないということだ」
霄「……あの冥珠の眼、獲物を見る目だよ。たぶん――璃蒼を“壊しに来てる”」
朱蓮「てめぇ……俺のもんになにしようとしてんだコラ」
(なんか応援席から殺意の気配すごいんだけど気にしてる余裕がないッ!!)
次の瞬間、冥珠が術を放つ。
「――《氷禍界》」
周囲の空気が凍てつき、まるで世界ごと封じ込められたような静寂が襲う。
(……来る……これは見た、ジャンプ系の中盤以降に出てくる“お前もう動けないよ系”結界術~~~!!)
だが璃蒼は踏み込む。
自らの中に宿る霊気、《蒼雷》が鼓動する。
「――青梗、借りるよ」
呼応するように、青梗が薬師の袖を揺らしながら、静かに後方で支援の術式を展開した。
薬霊術《破氷丹》。
瞬間、璃蒼の身体が凍てつく空間を打ち破る。
冥珠の眉がピクリと動いた。
「……なるほど。貴女、やはり“ただの凡才”ではない」
「……今“ただの凡才”と…?それは挑発か?」
「ええ、ですが――思った以上に愉しいですよ、璃蒼さん」
次の瞬間、冥珠の瞳が艶やかに細められた。
まるで“遊び”を楽しんでいるかのように――
(やめて!!!その顔で微笑まないで!!!心臓がもたない!!!供給過多でおたくが死ぬ!!!)
だが、ここで一陣の風が吹いた。
音阿が、白狐の姿で結界の外から跳ねるように現れる。
「ばぁばーっ!がんばれーっ!!」
(すーちゃんっっっ!!!!!)
観客席がざわめく。
一部の生徒は癒しの波動に涙ぐんでいた。
冥珠はそれを見て、うっすらと笑った。
「……やはり、貴女は“情”で動く。とても、壊し甲斐がありますね」
その言葉に――璃蒼の中の何かが弾けた。
「……壊させるものか!」
一瞬、周囲の霊気が炸裂した。
まるで“神域”に触れたかのような清冽な光。
冥珠の氷術が、すべて凍る前に溶けていく。
朱蓮「……やるじゃねぇか、璃蒼」
霄「……あの子、やっぱり器があるよ」
試合終了の鐘が、ようやく鳴る。
結界が解除され、霊気の余韻が場を包む。
冥珠は肩についた霜を払って、ふっと笑う。
「良い試合でした。あなたが“鍵”である理由、少し理解できた気がします」
「……また煽っているな」
「まさか。これは……ただの、感想です」
そして、去り際にこう呟いた。
「また、近いうちに――“戦場”で会いましょう」
(えっ!?本筋にもちゃんと絡んでくるやつじゃん!?ヤバいってこの人、完全に推せる……!!)
璃蒼は膝に手をつきながら、心の中で天を仰いだ。
(オタクってほんと……命がいくつあっても足りないんだな……)