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【第11話】 ―影の呼び声―

蒼天を裂くような静寂が、仙苑学院の西の端、忘れられた霊園に降りていた。

風もない。鳥の鳴き声もない。空気すら、息を潜めているかのようだ。


「……この気配……」


演習を終えた帰り道、璃蒼はふと足を止めた。

音阿がその肩で小さく唸る。


「……ちょっと、ただならぬ厨二感。」


言葉とは裏腹に、璃蒼の背筋は粟立っていた。

かつて“異界モノのアニメ”で味わった緊迫感。それが今、現実として己の肌に突き刺さる。


草を踏み分け進んだ先、廃祠の前に一人の男が立っていた。

長身、白銀の装束。背に黒い羽衣のような霊布をまとい、長い髪を風もないのに靡かせている。


「……見つけたよ。器に選ばれし者——璃蒼」


低く、滑らかで、まるで耳元で囁くような美声が響いた。

その声に、璃蒼の全身が瞬時に硬直する。


(……な、なにこの森川智之ボイス……ずるい……っ!)


目の前の男——羅玄らげんは、璃蒼を一瞥し、口元だけで笑った。 白皙の肌と切れ長の瞳。

理知的な面差しのその微笑には慈愛と皮肉、そして哀しみすら混ざっていた。


「ようこそ、“影の器”。君はまだ、自分の本質を知らない」


「影……? なにそれ厨二……いや、なにか知っているようだが、お前は何者だ?」


問いかける璃蒼に、羅玄は微かに首を傾ける。


「名乗るほどの者ではないよ。けれど、君がこの世界を覆す鍵だと知っている者だ」


そのとき、空が悲鳴を上げた。

羅玄の背後、黒い霧が渦を巻き、異形の穢霊が姿を現す。だが、それは羅玄の力に縛られたまま動かない。


「これが、君の見ていくべき世界の“片鱗”だ」


そう言い残し、羅玄の姿は霧とともにかき消えた。


残された璃蒼は、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「……すーちゃん。ばあば、またヤバいやつにフラグ立てた気がするよ……」


空の高みに小さな雲が流れ始めていた。学院に戻れば朱蓮たちが待っている。

何かが始まった。そう、璃蒼の中のオタク魂が確信していた——。

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