一 - 孤黙/蓮浄 凛(れんじょう りん)
「蓮浄さん、聞いてる?」
馴染みとなった声が私を夢の世界から現実に引きずり戻す。
「うん。ごめん」
「別に謝んなくても良いけど。でさ─」
私の机に寄り掛かって話すこの子は 水無月 薫。特に仲が良いわけではないが、入学時に同じクラスになった時から何故か私と一緒に居るお下げが印象的な少女だ。
いつもはボーッとしているが、少しでも心を開くと騒がしくなるタイプだ。しかし、物静かな性格の私にとっては良い気分転換的な話し相手にもなるため、私自身彼女と居ても特に満更でもない。
私は蓮浄 凛。
薫とは別の中学校だったが、先月の入学時にこの鐘來女子高校で彼女と出会った。
両親は私が幼い頃に交通事故で既に他界。中学二年の頃まで育ててくれていた唯一の肉親だった祖母は、ある日突然行方不明になった後、中学校卒業式当日に近所の代神威ダムで水死体となって発見された。
遺体には目立った外傷などは無く自殺として片付けられたが、遺書も何も無いため本当のところは何も解っていない。
高校入学前から実質独り暮らしだが、時折部屋を“影”のようなものが横切るようになっていた。初めは目の錯覚か疲れによるものだと思い気になどしていなかったのだが、日に日にその“影”は存在感を増し、私も“ただの影”ではなく“人”らしき気配を感じるようになってきている。
それがもしかしたら祖母ではないか。と、心のどこかでは思っている。