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02【剣を持たされ、魔法が爆ぜて、ウサ耳少女が跳ねる】…◯

【前書き】

こんにちは、NeoNです!

第二話では、ついに異世界での戦闘シーンがはじまりました。

はい、主人公アキノの「俺すげえ!」は……お察しください(笑)


でも、その分セドーの魔法や、ヒロインの初登場がピリッと引き締めてくれました。

なんだかんだで、巻き込まれていくアキノの運命やいかに!


 ──重たい紫の空…だった。


 見上げたその空には、オパールのように複雑な色彩の、鈍い光を放つ雲が漂っていた。

 まるで感情を持った生き物みたいに、ゆっくりと蠢きながら空一面に広がっていて……

 俺の知ってる空じゃなかった。


 黒曜石のように静かに透き通って光る黒い地面は、丘の向こうまで硬質な光沢を放って続いている。

 地球の、どの風景にも当てはまらない。


「……うわ、マジか。これ、夢じゃない…のか…」


 そう呟いた俺の隣には、変わらずセドーがいた。

 蒼い髪に金の瞳。


 まるで造形物のように異世界の空気と馴染んでいて…どこか整いすぎた顔立ちも、どう見ても普通の人間じゃない。

 なんでさっきまで気がついてなかったのかと、俺は納得と同時に混乱する。

 俺の目を見てから淡々とした様子でセドーは、す…っと空を見上げた。


「ここが、俺の生まれた世界。ネファレム。

 君が“現実じゃない”と感じているなら、むしろ正常だろうな。

 お前の世界…チキューだったか。彼処(あそこ)も俺には異常に見えていた」


 風に吹かれて細かい黒い塵が、チリチリと細かい音を立てて跳ねながら舞っている。


 さっきまで座ってたファストフードの椅子の沈みすぎる椅子の感触が、

 まだ尻に残ってるような気がするのに、もうあの店の気配はどこにもない。


 ひどく心細い気持ちになってきた。


 俺の手には、スイッチの装置。

 何もしてないのにまだ、手のひらがビリついている。


「……戻れるのか?これ」


「戻ろうと思えばな。ただそのスイッチを押すだけだ。ただ…」


 セドーは肩をすくめて笑った。

 さっきよりも少しだけ若く見えた気がする。

 その余裕が、不気味な緊張に変わっていく。


「……いや…それより、そろそろ行こう。この場所に長くいると、“アレ”が匂いを嗅ぎつける」


「“アレ”って、何だよ……え?」


 その時、遠くから、何かが跳ねるような、重い音が聞こえてきた。


 ドン…ドン…ッ…ドドンッ。


 低い、地鳴りのような音。

 そして次の瞬間、風がまた吹いて――


「……助けてえええええええぇぇぇ…!!」


 近くの丘の向こうから、叫び声。

 そして見えた。赤いマントの少女が、転げるように逃げてくる姿。


 その背後には、岩のような皮膚を持つ、四足の巨大なバケモノが迫っていた。


 地響きを鳴らして走るその姿は、

 形容するなら、真っ赤なゴツゴツしたサイみたいなやつ。

 ただし禍々しさが半端ない。 マルタのようなマルタのような鈍いツノも、牙の形も、目の光も、

 あきらかに危険度マックスだった。



「ちょ……え、待て。あれ、ヤバくね!?まさか…」


 少女はこっちに向かってくる。

 当然、それを追うバケモノも、まっすぐこっちに。


 鼓膜を揺らすような地鳴り。重い足音。

 それが、現在進行系で“俺”に向かってきてるっていう現実。


 ──で、なぜか俺の脳裏に浮かんだのは、交差点の光景だった。


 さっき、何も考えないまま知らないヤツを助けてしまった、あの瞬間。

 今なら、少しくらい考える時間があるはずなのに。

 理性も、恐怖も、命の重みも、ちゃんとあるはずなのに──


 ……なんで俺の手、握りこぶしになってるんだよ。


 俺は昔から、どんな場面でも“見過ごせなかった”。

 それは正義感でもなんでもなくて、ただ後で後悔するのが嫌だっただけだ。

 困ってる奴を見て無視すれば、何日もその情景が頭から離れなくなる。

 気になることが出てくるとモヤモヤしてなんとかしたくなってしまう、だから、動いてしまう。

 それだけの話。


 現実だったらそれでまあまあなんとかなったり、ダメでも失敗したか、まあいいやで済むレベルなのだが……


 今も──この異世界で、得体の知れないバケモノに追われる誰かを前にして、 また、同じように拳を握ってる自分がいる。


「こういうときくらいサボっていいんだよ俺の正義感らしき何かよ!

 普段そんなやる気満々じゃないだろ!

 むしろ中途半端でいたいだろ!!」


 必死で自分にツッコんでみたけど、

 心臓はもう、とっくに踏み出す音を鳴らしてた。


「……おいアキノ、やるんだろ?」


 隣のセドーが、ニヤリと口の端を上げて不敵な笑みを作って見せる。

 その顔は──まるで、こっちの覚悟を見透かしたみたいで。


 200メートルくらい向こうではまだ少女の叫び声が反響している。

 あのバケモノの足音が一歩ずつ近づくたびに、全身が強張った。


 今、ここで動かなければ、名前も知らない誰かが死ぬ。 ──それが、目の前の現実だった。


「やるって何をだよっ!?さすがにあんなバケモノ……!」


 ガランッ!と音を立てて何かがへたり込んでいる俺の足元に投げ出された。

 それは赤黒く光沢を放つ…剣。

 ベッタベタなファンタジーな剣だった。どこから出したこんなもの……


「……は!? 俺に戦えって!? いやいやいやいや、マジで無理だって!

 剣道の素振りすらしたことねえぞ!?

  そもそも俺、運動部じゃなかったし文化部だし美術部だし!!!」


 ためしに握ってみるとあまりにもリアルな質感、重量…

 気合いを入れてないと、ただ構えているというだけ、も難しい。

 そしてなにより、”ためしに”、じゃない。なんで勝手に握ってんだ俺の手。

 俺がヘタレた構えでパニックになってる隣で、セドーは静かに右手を掲げた。


 そして、透き通るような芯の通った声で言う。


「俺にはこれがある。お前は、自分の命を守ることだけを考えろ。

 無理に戦うな、ただ生き延びろ……“イグニファス”」


 ──ボウッ!


 彼の手のひらから、光が溢れた。

 ──青白い焔。

 それはコォォオォォ…と静かな音を立ててまるで液体のようにゆらめきながら、

 セドーの手元に集まっていく。

 空気が震えた。

 まるで魔力の熱が空間そのものを膨張させたみたいに、景色が歪んだ。


 俺の皮膚の奥まで、ジリジリと焼けるような“存在の違い”が突き刺さる。


「……嘘だろ……ま、魔法……って、マジで存在すんの……?」



 グガォォオオォオオ…ッ!


 バケモノが咆哮を上げる。岩を砕くようなうなり声。 少女の悲鳴が、近づいてくる。

 セドーは炎を球状にまとめ、まるでサッカーボールを蹴るような仕草でそれを蹴り飛ばした。


「──爆ぜろ、“イグ=ラセントラ”」


 ───ッ…ドバァアアン!


 焔は鋭く弧を描いてにバケモノの足元へ飛び、地面ごと爆ぜた。 バケモノの脚が砕け、動きが鈍る。

 女の子ごとかよ!?と思ったが、ダイレクトの瞬間、少女は飛んでくる火球を察して横に飛び退いて逃げたようだった。


「ばっかじゃないのぉおお!?」 という非難めいた悲鳴は聞かなかったことにしたい。



「今だ。行け、アキノ。援護はする。──斬って倒せとは言わん。

 だが、その一撃に“命を乗せろ”。振り抜け、ためらうな。迷いは死の友達だ」


 セドーの声が、まるで“指揮官”のそれだった。 俺の手には剣。相変わらず重い。

 でも、逃げるよりはマシな気がした。



「くっそ……チュートリアルってレベルじゃねえぞ、これ……!

 もっとスライムとかまりもみたいなモンスターからにしてくれよ!」


 俺は剣を構えて、少女とバケモノのいる方向へ、やけくそ気味に思いきり走った。


「うおおおおおおおおおおおっ!!?」


 目前にバケモノが迫る。先程の爆発を受けて、流石に怯んでいるのか、たじろいでいる。

 今ならもしかしたら──


 叫びながら、俺は全力で剣を振り下ろした。 バケモノの顔面に、渾身の──まさに会心の一撃。


 ガキィィィィィン!!!!


「……は?」


 乾いた金属音と同時に、俺の腕がしびれた。

 剣が……弾かれた?


 まるで鉄壁にバットを打ちつけたような、絶望的な衝撃が跳ね返ってきた。


 効いてない。全然。ちっとも。



「えっ……これってズバッてやって、“俺すげえええ!”ってなるやつじゃないのか!?

 ゲーム的に言えば“最初のイベント戦闘で奇跡が起きるターン”じゃないの!?!?」


 パニックになった次の瞬間、バケモノが勢いよく首を振るって丸太みたいなぶっといツノで俺を弾き飛ばした。

 ものすごい質量。お相撲さんが体当たりしてきたのかと思った。しかも鉄製のお相撲さん。

  そんな存在にはお近づきにもなりたくないが。

 いや、こいつにだって俺はお近づきになりたくなかった───


「おぐえっ!!?」


 ドンッと突き飛ばされ、俺は完全に吹っ飛んだ。

 硬質な鉱石の地面をバウンドしながら三回くらい転がって、なんか口の中に鉄の味がした。


「~~~~ッがふぁ…っ……!死ぬっ、ふつうに…死ぬ……!」


 激痛に悶えてゴロゴロしてるうちに、バケモノの巨体が近づいてくる音が聞こえた。

 ドス、ドス、ドス──影が伸びる。


 あ、ダメだこれ。──死んだ。

 この異世界、着いて五分で死ぬやつだ。実際五分くらいしか経ってないんじゃないか。

 人助けしようとした結果がコレか…でもまあ、なんか俺らしいと言えばらしいか。

 走馬灯なんて気が効いたものが頭によぎる気配もなく、俺はただどこか冷静に、自分の終わりを察した。


 その瞬間だった。


 ──シュウウウウウウッ!


 地面から、白い蒸気のような気配が吹き上がる。 何かが俺の目の前で“突き出された”。


 それは光の柱に見えた。

 地面を割って勢いよく突き出した眩しい刃が、バケモノの腹を真上に向かって貫いた。


 ガアアァアアアアアア!!!!


 バケモノの咆哮。ガクガクと震える脚。

 その巨体が、そのまま崩れ落ちる。

 ポトッと、何かが音を立てて落ちた。たぶん、バケモノが食いしばって折れた牙の一部。

 呆気にとられる俺。そして──声がした。


「……ちょっと、何してんのよあんた… バザァグの甲羅なんて普通の剣で切れるわけないでしょ?

 少なくとも、最低でも第二階層以上の魔力エンチャントは要るのよ。

 それすらなしで突っ込むなんて……まさか“ただの剣”でどうにかなるって思ったわけ?

 ちゃんと柔らかいハラ狙いなさいっての。……って、聞こえてる?大丈夫?」


 呆けた俺が顔を上げると、そこには── 赤いマントを翻しながら、魔法の杖を構えた生意気そうな女の子が立っていた。


 銀髪で、耳が少し尖っていて、 表情はキリッとしてるのに、服はズタボロで、荒れた息を整えようとしている。

 そして…頭頂部からうさぎの耳がぴょんぴょんと生えていた。

 4つ耳ケモか…叩かれるぞ…俺はどこかズレた心配をしていた。


「……でも、ありがとね時間稼いでくれて。

 アタシの氷の魔法、発動まで集中する必要あって…逃げながらだと到底無理だったのよ。

 正直めちゃくちゃ助かった。命の恩人ね」


 言われてみれば空気が冷えている。バケモノのハラを貫いたのはよく見れば鋭い氷の刃だった。

 言ってしまえばでっかいツララだが、ただしその大きさは5メートル程にも及ぶ。

 軽く息を切らせて頬を紅潮させる少女……胸の奥でキュンと、ときめきが鳴く声がしたが、俺はまだ認めない。

 この一つときめきで許せるほど、おれはこんな危険な世界で冒険しようっとというような気分にはなれなかった。


「……っていうかさあセドー!!援護はどうしたよ!? 俺、超ピンチだったんだけど!?」

 俺がときめきのキュンをごまかすようにセドーの方に振り返って怒鳴った、その瞬間だった。


「──爆ぜろイグ=ラセントラ……爆ぜろイグ=ラセントラ」


 ──ドガァァァアアアアンッ!!!ドボバァアアンッ!!


 背後で連続で地面が爆ぜる轟音。

  爆発の風圧で、黒い欠片がバラバラと散り、俺の髪が、ばっさぁああっと煽られる。


「うおわああっっ!?」


 思わずその場にしゃがみ込んだ俺の上空を、 さっきよりもひとまわり小柄なバケモノが燃えながら吹き飛んでいってバウンドして落ちた。

 そのバケモノの丸焼きの向こうに、手を軽く掲げたまま立つセドーがいた。

  掌からまだうっすらと青白い焔の残滓が上がって、陽炎が揺らいでいる。


「……魔獣(バザァグ)は群れるものだ。 アレが一匹だけ、なんて思うなよ?

 言った通り、俺はお前の背中を守っていた。──立派な援護だろ?」


 セドーが、片眉をあげて、ひとつ肩をすくめて薄く笑った。


「これで文句はないな」


「………………ちょっとだけ、カッコいいと思った自分が悔しい。

 でも、言っとくけど魔法撃つたびに呪文言わなきゃいけないのダサいぞ!」


 俺がそう声を張り上げると、隣で赤マントの少女があはははっと明るく笑った。


「……あ、そうだ。一応名乗っとく。あたしは──リゼット・マーニュ」

 赤いマントを翻しながら、少女が軽く杖を振って見せた。


「この辺じゃまあ、そこそこ知られてる氷術師よ。よろしく、へっぽこ剣士くん?」


「…遠田 秋埜(トオタ アキノ)……寝起きのゾンビとでも呼んでくれ……よろしく。こいつはセドー…」


  俺はいたずらに笑うリゼットに反論する気力も湧かなかった。

 さっきバケモノに吹っ飛ばされた時、なんか色々大事なものが一緒にぶっ飛んでった気がする。



 いや、待てよ。

 俺はもう……帰っていいのでは?

 こんな物騒すぎる世界に、居続ける理由なんて一ミリもない。


 俺には冷凍庫に眠るチャーハンがある。冷蔵庫には卵もある。

 レンチンして半熟卵を乗せるだけの親子チャーハンを食うという尊い予定がある。

 命の危険がある異世界より、

 ぬるま湯の現代日本こそが俺の帰るべき場所なのだ。


 俺はポケットに手を突っ込んだ。

 そしてスイッチを、押し──


「……ない」


 ポケットの中に、あるはずのアレが、ない。

 俺はスイッチをすぐさま押そうとした。…しかし、ない。ポケットにない。


 さっき剣を振る前にポケットにしまった、あの謎装置が、ない。

 バケモノに突き飛ばされた時にどこかに飛んでいってしまったらしい。

 俺は全身から血の気が引くのを感じた。


「せ…せっ…セドー…さん…?」


「ほら。コレだろ…」


 そう言って、セドーがぽんっとソレを投げてよこした。

 手の中に落ちた確かな重さ、それは紛れもない“スイッチ”。

 あの小さな、でも世界をねじ曲げる装置。


「これは……お前にとって命と同じくらい大事なものになる。

  今後は決して、身から離すな。冗談抜きで、だ」


「いやいや、すぐにでも帰りたいんだけど!?しかし待て!引っかかることがある!

 さっきお前“スイッチ押せばすぐ帰れるけど、ただ……”って言いかけたよな!? その“ただ”が一番ヤバいやつなんじゃないの!?

 おい、そこちゃんと説明してくれよ!」


「……あー、それは──」


「ねえねえ」

 突然、軽い声が割り込んできた。リゼットだ。


「立ち話もなんだし、この近くにアタシの秘密基地あるから来ない?

 助けてくれたお礼に、お茶くらい淹れるよ。

 ついでに“その話の続き”も、そこで聞けるんじゃない?」


 赤マントを揺らして振り向いた彼女のうしろ姿。

 その腰元で、うさぎの尻尾がふりふりと小さく跳ねた。


 小さくて可愛らしいその動きが、逆に俺の心の“揺れ”を浮き彫りにする。

 あれだけ帰りたいと言っていたはずなのに──なんでこんなにも、胸の奥がザワついてるんだよ。

 なんか知らんけど──俺の“帰宅願望”が、ちょっとだけ揺らいだ……


  なんて、ごまかされないぞ!俺は帰ってみせるんだ。

 俺ツエーもしないし、スローライフもしないし、世界も救わない!

 ましてや、異世界の少女と恋に落ちるなんて─────



「行きます。案内して」

 やけにキリッとした声色を選んだ俺を全力で殴り飛ばしたい。


【あとがき】

続きを気にして、最後まで読んでくれてありがとうございます!

リゼット、どうでしたか? ツッコミ気質で頼れるうさ耳ヒロイン、気に入ってもらえたらうれしいです。

今回はアキノの“戦えなさ”が目立ちましたが、彼なりのペースで成長していくので、長い目で見てあげてください。


次回は、いったん落ち着いたお話へ。

リゼットの過去や、アキノの内面にも触れていきますので、ぜひお付き合いください!

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