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01【チーズバーガーと、帽子の男と、そしてスイッチ】…◯

【前書き】

どうも、NeoNです。

はじめまして&初投稿になります!

第一話はファストフード店から始まる静かな幕開けです。

……いきなりちょっとメタくてイタい主人公ですが、これから少しずつ成長していく予定です。

後半からガッツリ異世界に飛び込みますので、どうか気楽に楽しんでください!

週1ペースのゆる更新を目指してます。応援してもらえると嬉しいです!


 俺がこの物語に巻き込まれたのは──まあ、運が悪かった……


 なんて、そんな一言で済ませられるほど単純な話じゃない。


『運が良かったヤツの尻拭いを、なぜか俺が引き受けさせられた』


 ……そんなタイプの、不条理系ファンタジー。


 そう言えば近いかもしれないけど、それでもまだ足りない。

 後から思えば、複雑で、ぐちゃぐちゃで、言葉にならない……。


 自分の語彙力のなさが情けなくなる。




 要するに──俺は人を助けた。その見返りに、あり得ないほどの“奇跡”を操る力を手に入れた。




 でもそれは、俺の憧れや希望なんかじゃない。


「正義感が暴発するタイプの主人公」なら、それこそテンプレみたいな話になるんだろう。


 誰かを救って、運命を変えて、俺TUEEEな冒険が始まる──みたいな。


 ……だが、俺は違う。


 そんな眩しい生き方ができるタイプじゃない。

 むしろ、面倒ごとには近づきたくない、静かに暮らしていたい。


 余計なことは、したくなかった。




 その日も、俺はただ帰るだけだった。


 会社からまっすぐ帰って、冷凍チャーハンを温めて、お気に入りの動画サイト見ながら食って、

 風呂入って、寝る。


 明日も適当にやり過ごして……


 それでよかった。刺激はないが平穏な毎日。




 ……彼女がいないのはちょっと不満だが。

 もし願いが叶うなら、芯が強くて、でも可愛げもあって、疲れた時にそっと癒やしてくれるような子がいい。

 イマドキの世相的に批判の対象になりかねないのを踏まえた上で言わせてもらうけど、やっぱ見た目も外せない。

 美人というより可愛い系が好み。


 そんな子とイチャイチャできるなら、悪魔にだって魂を売る……くらいのイタいことを、フツーに考えてしまう俺は……

 案の定、年齢イコール彼女いない歴のさみしいヤツである。

 ルックスが壊滅的……というわけでもないハズなんだが、根本的にこじれた性格が、言動や雰囲気ににじみ出ている。

 それが一因という自覚もある。自覚があるのがまたたちが悪い。

 ……分かるって思ったヤツは俺と涙を飲んで俺と酒を交わすべきである。

 未成年にはジュースを奢ってやる。


 ──でも、性質はそう簡単には治らない。そういうもんだ。



 そんな俺が、 どうして、ワッキーバーガーの片隅で、

 ボロボロのムサい男と、向かい合ってハンバーガーを食うなんて……

 嬉しくもない“デートもどき”をしていたのか。


 ──俺自身が一番、知りたい。どうしてこうなった?




 きっかけは、いつもと変わらない平日の夜だった。

 仕事終わりの帰り道、リュックを背負って、てくてく歩いてた。

 今夜はちょっと贅沢に“親子チャーハン”にしよう、と考えている。

 

──親子チャーハンとは何か?

 冷凍チャーハンを温め、ダシを溶かして加熱したふわとろ卵を、乗せた創作料理である。

 ……味はまあ、冷凍食品の限界値。うまいかと聞かれたら、絶品だ!…と主張はできない。

 卵とチャーハンじゃ、親でも子でもないというのは野暮なツッコミだ。

 しかし言わせてもらおう。名前のイメージは大事だ。

 “卵かけご飯の派生”と、“親子丼の亜種”ではテンションの質がちがう。


 実態より印象。……そういうもんなんである。



 で――事件は交差点で起きた。

 道路の向こう、妙なスピードで歩き出す男がいた。

 道路にそのままの勢いで突っ切っていくつもりなのは明白。横からは、突っ込んでくるトラック。

 しかもまあまあのスピード。

「おい、あぶなっ……!」


 アニメならスローモーションになって、心の声がナレーションになって、カッコよく飛び出すシーン。

 このときはそんなドラマチックな演出はついてくれなかった。


 ……頭が動く前に、脚が動いた。


 ダッシュ。男にむかって猛然と走って、腕を引っ張り、半ば投げ飛ばすような形で自分も地面に倒れ込む。


 半身をひるがえしたせいで、背中がガツンとアスファルトに叩きつけられて、肺から空気が抜ける。

 ──知らない人は幸いだ。人は背中を強打すると、本当に呼吸ができなくなる。


「……かっっっは…!」


 アドレナリンは偉大だ。痛くても動ける。まさに奇跡の科学。

 男も、膝を抱えてうずくまってる。同じようにぶつけたらしい。

 まるで“助けられたこと”に困惑してるような、怪訝な顔をしていた。



「……生きてる?」


 俺がそう聞くと、


「なんで助けた……」


 棒読みみたいな声が返ってきた。

 ……いや、普通そこは「ありがとう」とかせめて「ごめん」だろ?

 俺の背中は激痛だし、スーツの肘もすり切れてしまった。

 せめて「何やってんすかこのやろう」とか、ツッコミで場を和ませてほしいところだが──


 何も言えなかった。


 この男、本気で死ぬつもりだった。

 そう、わかってしまったから。

 アニメに出てくる放浪者みたいなボロボロのコート。 大きな金具付きのリュック。

  裸足が見えるサンダル。 帽子で顔を半分以上隠して。

 まるで、“この世界から自分を切り離している”ようだった。

 見た目だけで言えば、深夜テンションの動画配信者か、バンドクビになったギタリストみたいな雰囲気。

 でも、そのどちらでもないのは、目を見ればわかる。

 この人、ほんとうに、帰る場所がどこにもなかったんだなって。

 何にも拠り所がない、そんな光がないさみしい目をしてた。


 でも俺は、感傷に浸るタイプじゃない。

 とりあえず、周囲の通行人の視線から逃げるように。 彼の肩をパンパンと叩いて、こう言った。

「……あのさ。とりあえず、メシ行かね? おごるから」


 口をついて出た言葉。自分でも意味がわからなかった。

 でも、なんか──ほっとけない。

 イイ言葉が出なかったから、絞り出したボケみたいなものだった。


「……それは、ありがたい」


 腹の虫がグゥ~~……と鳴るおまけつき。

 ……やっぱ腹は減ってたんじゃねーか。

 ──こうして、俺はこの“ありえない物語”の入口に、片足を突っ込んだ。

 それが、どこに繋がっているのかも知らずに。


 ---------------------------------


 ピロリ♪ピロリ♪ピロリ♪


 ワッキーバーガーの店内は、夕飯時には少しだけ早いせいか、思ったより静かだった。

 注文カウンターのあたりでは、バイトのクルーが淡々と作業してて、

 奥のモニターにはたのしげなコラボ商品の広告映像が流れていた。


 俺たちは隅のほうの二人席。

 テーブルの真ん中には、チーズバーガーとポテトのトレイが二つ。

 紙コップには氷が音もなく沈んで、紙ストローがふやけて命がけで突っ立っている。


 馴染みの店なのに、どこかうすら寒い。

 背中が椅子の背もたれに沈んでいく感覚だけがやけにリアルに感じて、

 俺はさっきからずっと、何度も脚を組み直してる。


 ──これは……さては気まずいんだな?


 男はさっきから一言も喋らずに、チーズバーガーとポテトにがっついていた。

 俺の方はというと、ジンジャーエールを三口ほど飲み、手持ち無沙汰にポテトを一本つまみ、

 もう一本を口に運ぶ。

 だが、なんとなく味がわからなくて、チーズバーガーにはまだ手をつけられなかった。

 たぶん、5分か10分くらい、そんなふうに時間が過ぎていったと思う。


 俺の方も、何を切り出せばいいのかわからなかった。

「大丈夫ですか?」とか、「さっきは危なかったですね」とか、言えなくはなかったけど、

 この状況でそういった言葉は空々しい気がして、俺は何も言えずにいる。


 ──なんで俺、ここにいるんだっけ。

 そんなことをぼんやりと思いながら、

 気がつけば、俺はトレイの上の紙ナプキンを無意識に三角に折っていた。


「俺、遠田 秋埜(トオタ アキノ)…会社員。まー、ただの事務職だけどさ」

 俺は気がつけばぽつりぽつりと自己紹介をしていた。

 なんだか、コイツには……話し相手が必要な気がして。

 とはいえ、相手のことをなんにも知らないのに会話を始めるには自分のことを教えるくらいしか俺には思いつかなかった。


 男はチーズバーガーの最後のひと口を、咀嚼しながらこちらを見た。


「……そうか」


 たったそれだけ。

 でも、今までの沈黙に比べたら、返事があるだけマシだった。


 男は、俺の名前はセドー。と答えた。

『瀬戸』って名字か?と思ったがイントネーションが平坦で、日本語っぽく聞こえなかったのが少し気になった。

 店の照明の下でも、セドーは帽子を取らない。

 顔の陰が濃くて、目の表情が読み取れないのが逆に不気味で、気を抜くと見入ってしまいそうになる。


「セドー、さっきは、その……危なかったな。アレ…あんた、わざとだったろ」

 ()()に踏み込んだ緊張のせいか、やたら舌が回らなかった。

 ジンジャーエールを口に含み直す。


「うん。死ぬ予定だったからな」

 男は、そう言った。淡々と、むしろ少し楽しげな気配すらあった。

 俺は思わず、飲みかけのジンジャーエールを強めに置く。


「……死ぬって、おま……。事故って意外とそう簡単に死なねぇからな。

 トラックの方にも迷惑がかかるし、下手したら死ぬより悲惨な目に遭ってたかもだし……」


「知ってる。だから飛び出した場所は“ちょっと計算ミスだった”。今ならもっと上手くやれるかもしれん」


「おいやめろ。テロリストの反省会じゃないんだぞ」


 なんかもう、冷静にツッコミ入れてる自分が信じられなかった。

 周囲に聞かれてたら通報されかねない。俺は思わずキョロキョロと見回したが、前述の通り、

 客はまばらでその心配は無用だった。

 こいつは死ぬことを恐れてない。それよりその先があるかのような、楽しみすら感じている雰囲気で、

 俺はそれに少し苛立ちを感じる。


「……なんだって死にたいんだよ?なんか辛いことでもあったのか」


 そう訊いた時、男の声のトーンがまた一段階暗く戻る。


「──ああ。大事な人を失った。どうにか救おうとしたが、俺には無理だった」


 遠い目をしてセドーの喉から漏れる言葉。

 その温度に、空気が硬くなった。

 フライヤーのピロリ♪ピロリ♪が、やけに白々しく響いてきて恨めしい。


 セドーは、ポテトに手を伸ばしていたが、そのまま手を止めた。

 そして小さく息をつくと、ぽつりと続けた。


「だから、やり直そうと思ったんだよ。……違う世界へ生まれ直すためにな」


「……は?」


「生まれ変わって、違う場所で、違う自分として、また──」


「いやちょっと待て待て待て」

 さすがに飲んでたジンジャーエールを吹き出しかけた。


「何、スピリチュアルとか信じるタイプ?ていうか死んだら異世界行けるってまじで思ったの?

 あれか?異世界転生ってやつをマジでやろうとしたってのか!?」


 セドはむっとした顔もせず、むしろ苦笑して俺を見返してきた。


「……まあ、コッチで小耳に挟んだからな。試したってことだよ」


「軽っ!!お前それ、動画配信者の“やってみた”ノリで死のうとするなよ!」


「ドーガー背信というのはよくわからんが…でも、失敗したな」


 彼は淡々と、まるで「明日の天気は曇りだ」くらいの温度で言った。


 なんなんだコイツ。冷や汗が出てきた。

 本気で死のうとしたくせに、今は普通にバーガー食ってたんじゃん。

 でも――どこかで、分かってしまう。

 この男は本気だったんだ。バカみたいに、本気で絶望して、バカみたいに信じてたんだ。


 本気で絶望して、本気で信じていた。 ……その信じ方が、あまりにも“甘かった”。



「アキノ。助けてくれたことには感謝してる。……してるけどな」


 セドーが、ポテトの袋を整えるように軽く押さえたあと、

 まるで“順番通りに台詞を出していく”ような調子でそう言った。


「……なにその“でも”が来るテンプレ」


「死ねなかったのは、君のせいだ。だから、ちょっとだけ恨んでもいる」


 うわ、来た。ほんとに“でも”が来た。

 期待を裏切らないやつだな。逆に珍しくて面食らう。


「え、なんか理不尽な流れにされてない?俺、命の恩人って立場のはずでは……?」


 俺のツッコミを完全にスルーして、

 セドーは静かに、ポケットに手を入れた。

 そして、そこから取り出したのは――


 掌に収まるサイズの、小さな装置。


 暗い銀色で、すこしくすんだ金属光沢。

 正面にはボタンがいくつか並んでいて、テレビのリモコンとゲーム機の中間みたいな形をしていた。

 ただ、そのどのボタンにも文字もマークも刻まれていない。

 文字もマークも一切なく、無機質で不気味だった。

 5つの四角いスイッチが、不均等に配置されている。


 ──ごとん。

 セドーは、その装置をトレイの端に置いた。


「これは俺が使っていたものだ。……いや、“使わされていた”という方が正しいのかもしれない」


「なにコレ?武器?リモコン?爆弾だったら店出てからにしようぜ?」

 店を出てからでもダメである。


「これは“世界を切り替える”装置だ」

 セドーの声に、吐息ひとつ分だけ熱が戻る。


「生きている今の現実を、別の世界へ連れて行く機能がある。

 ……ただし、それを使ってしまえば、お前は運命から逃れられなくなるかもしれない」


「……いや、何その厨二感すごい説明。あと“かもしれない”っていう不確実さがいちばん怖いんだけど」


 俺は笑いながら言っていた。

 でも、引き上げた頬が引きつり、どこか背筋が寒かった。


 本当に怖いのは、セドーがウソを言ってる気配が全くないことだ。

 妄想を信じ切っているあたおかってわけでもない。

 そう思えるほどに、セドーという存在には説得力があった。汚れた衣服。微かな血の汚れ。

 衣装の金属の摩耗。

 よく見なければわからない、セドーの皮膚に刻まれた細かい傷跡。

 それらの細かい情報の集合が俺にその到底信じられない話を、ただの妄想だと笑い飛ばせなくしていた。


 なにより、セドーが持っていた“生への絶望”が、全部この装置に繋がってる気がして。


「お前にこれをやる。命を助けてくれた礼として。

 そして……俺の死を、なかったことにした報いとして」


 そう言って、セドーは俺の前に装置をスッと押し出した。


 それは毒入りのチョコレートのように──

 優しさと悪意が一緒くたになった贈り物だった。


「あのー……世界を切り替えるだか、急にそんなこと言われてもだな」


「……なるほど。信じられないか?」


 セドーが、俺の顔をじっと見ながら言う。

 それは怒ってるでも、呆れてるでもなくて、ただ、何かを確認するような目だった。


「いやそりゃ……そんな話、信じろって方が無理あるっていうかアニメの見すぎっていうか…」


 俺が言い終える前に、セドーの手がスイッチの上を滑った。


「なら、見せてやろう」


 セドーは俺の右手を取り、無理やりスイッチに触れさせた。


 ──カチッ。


 金属ともプラスチックともつかない、指先に跳ね返る、“生きているような”手応えだった。




 その瞬間。


 耳が、ねじれるような感覚に襲われた。

 地面が沈む。視界が裂ける。

 肺の中の空気が一度全部抜けて、

 音も、匂いも、重力すら、全部……リセットされた。



 ──ゴォオオ………ッ……


 目を開けると、そこには、知らない空があった。




 紫がかった雲。黒曜石のような地面。

 遠くに浮かぶ、巨大な月のようなもの。

 青く霞んで巨大な城が遠くに見える。

 風が吹いた。肌に触れる空気が、現実よりも少し重い。

 匂いが違う。温度も違う。重力も――違う。




 ……俺は今、確実に、“現実じゃない場所”に立っていた。

 風に外套をなびかせて、セドーが言った。


「ようこそ、俺の生まれ故郷……ネファレム-幻想世界-へ」


 セドーが目深に被っていた帽子が一陣の風に吹き飛ばされ、下から表れた蒼い長髪が風に踊る。

 そしてその隠れていた額の右には…宝石のように煌めくツノが一本、生えていた。



 俺の手には、あのスイッチだけが、鈍い硬さと冷たさで、伝える。


 ──これが、現実だと。

【あとがき】

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

次回からは早くもアキノが大ピンチ。そしてヒロインが登場します。

シリアスもギャグも混ぜながら、テンポよく展開していくつもりです。

感想・評価していただけると、めちゃくちゃ励みになります!

今後ともどうぞよろしくお願いします~!

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