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【エッセイ】忘れられないお弁当

作者: 篝火



 SNSで自分の食べた物やお弁当などを紹介したものが相変わらず人気のよう。愛情や感謝、豊かさが感じられるからだろうか。子どもの頃、食事は空腹を満たすものでしかなかった私には、記憶に残る味に親の手料理はない。それでも、忘れられないお弁当がある。


 中学生になって最初の授業の日は、お弁当持参だった。お母さんのお弁当は憧れだったけれど、父と暮らしはじめて間もない義母が、お弁当を作ってくれるか不安だった。だから、朝、下駄箱の上にお弁当が置かれているのを見つけた時は、嬉しくてたまらなかった。

 新しい友達、新しい中学生活、誰もが不安や期待でいっぱいで、どこか浮き足だったような教室の中、近くの席に座った四人くらいで机を囲んで、お弁当を開けた。その途端に、ざわめいていた周りが一瞬でしんとなった。今更閉めることもできず、私は両手で蓋を持ったまま固まっていた。私のお弁当には、白いご飯と白いもやしが、無造作に詰め込まれていた。友達の沈黙が気まずくて、私は言わなくてもいいことをぽつりと呟いた。

「本当のお母さんじゃないから……」

 出会ったばかり、これからまだ友人になれるかどうかも未知数の人たちに何でこんな言い訳しなきゃいけないのか、情けないやら恥ずかしいやらで頭の中が赤く染まっていくようだった。

 そのうち一人の子が、いろいろあるよね、とかそんな事を言ってくれた。それを合図のように他の子たちも何も見なかったように、先生の話や授業の話をしながらお弁当を食べ始めた。頭の上を過ぎていく友人たちの声を聞きながら、味のないご飯ともやしを食べたような気もするし、誰かが卵焼きをくれたような気もするけれど、よく覚えていない。友達のお弁当の黄色い卵焼きが妙にきれいに見えて印象に残っているだけかも。


 家に帰って義母に、恥ずかしかったと抗議すると、義母は、お弁当を作ってもらおうなんて、なんて厚かましい子だろうと言って笑った。


 今もお弁当を作れば、ご飯ともやしが詰まった真っ白いお弁当を思い出す。楽しい食事、愛情のこもったお弁当、そんなSNSが人気なのは、幸せな人が多いからならいいと思う。

 私の住む市には施設で暮らす子どもたちが1000人以上いるらしい。

 一人でも多くの子どもたちの中に愛情と優しい食の記憶が残って欲しいと思う。

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