現実と妄想の交差点
23歳の慧。就職活動もうまくいかず、現在はコンビニでアルバイト中。
同僚の結子は少し年上のショートカットの女性で、落ち着いた雰囲気が魅力的だ。
結子「慧くん、映画好き?『夏色の空』って作品、観に行かない?」
バイト帰りにふいに誘われ、慧はすぐにOKした。
その夜、LINEの通知が鳴る。画面には──まどかの名前。
まどか《久しぶりー慧くーん。》
何ヶ月も連絡を取っていなかった彼女。思わず胸が高鳴る。
彼女から続けて送られたのは──
まどか《土曜日暇?会いたいんだけど》
慧(……また急すぎるな。でも、空いてるし)
慧《いいよ。カラオケでも行こうか?》
そして、土曜日。
慧はカラオケ店の前で彼女を待っていた。
遅れて現れた彼女は、プリーツのミニスカートにノースリーブ姿。
肌は光を放ち、まるで幻想かと思うほどの脚線美。
まどか「慧、こんにちは。入ろっか。」
慧「……あ、ああ。」
案内された待合ソファで並んで座る。
まどかが隣にいる。視線が自然と彼女の肩、脚、胸に吸い寄せられていく。
まどか「彼氏できたんだー。今、外国人の人と付き合ってるの。」
慧「そ、そうなんだ……。」
平静を装うが、視線を泳がせる慧。
まどかが腰を触りながら、ふとつぶやく。
まどか「最近、ちょっと太ったの。腰のお肉、気になるって言われちゃって」
慧「…………」
──言ってはいけない一言が、口からこぼれた。
慧「さわって……いい?」
まどか「いいわよ?触ってみる?」
慧(……嘘、だろ……これは、現実?)
そっと彼女の右腰に手を伸ばすと、柔らかい感触が返ってくる。
まどか「きゃっ、くすぐったい……もう」
──はっ。現実に戻る。
慧はあわてて手を引き、まどかは何事もなかったかのようにスカートをひらひらさせる。
まどか「これ、新しく買ったんだ。ねぇ、めくってみる?」
慧「……っ!」
──また現実に戻る。手が太ももに伸びかけていた自分に驚き、震えながら膝へ戻す。
カラオケの部屋が空き、店員に案内される。
刺激的な服装のまどかと、二人きりの薄暗い空間。
理性と本能の境界があいまいになる。
まどか「ちょっと近すぎだよ~。離れるね」
少し距離を取りながらも、彼女の絶妙な距離感に翻弄される慧。
歌も頭に入らない。終始、まどかに翻弄されるまま時間が過ぎた。
店を出たあと──
背中に柔らかい感触。
まどかが、Tシャツの裾を掴んでいる。潤んだ瞳でこちらを見る。
慧(……だめだ。これ以上は)
振り返り、そっとその手を払いのけた。
まどか「きゃあ……」
慧「ご、ごめん。とっさに……」
それでも彼女は、笑って言った。
まどか「ねぇ、これから飲みにいかない?」
慧「……ごめん。今日は帰るよ。楽しかった。ありがとう。」
まどかは、ふっと寂しそうな目をしたあと、微笑む。
まどか「……そう。ありがとう。じゃあね~」
慧は背を向けて歩き出す。
──まどかの誘惑と、自分の理性。
今日の出来事はまるで恋という名の戦争だった。