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あい  作者: 鏡恭二
9/9

現実と妄想の交差点

23歳の慧。就職活動もうまくいかず、現在はコンビニでアルバイト中。

同僚の結子は少し年上のショートカットの女性で、落ち着いた雰囲気が魅力的だ。


結子「慧くん、映画好き?『夏色の空』って作品、観に行かない?」


バイト帰りにふいに誘われ、慧はすぐにOKした。

その夜、LINEの通知が鳴る。画面には──まどかの名前。


まどか《久しぶりー慧くーん。》


何ヶ月も連絡を取っていなかった彼女。思わず胸が高鳴る。

彼女から続けて送られたのは──


まどか《土曜日暇?会いたいんだけど》


慧(……また急すぎるな。でも、空いてるし)


慧《いいよ。カラオケでも行こうか?》


そして、土曜日。


慧はカラオケ店の前で彼女を待っていた。

遅れて現れた彼女は、プリーツのミニスカートにノースリーブ姿。

肌は光を放ち、まるで幻想かと思うほどの脚線美。


まどか「慧、こんにちは。入ろっか。」


慧「……あ、ああ。」


案内された待合ソファで並んで座る。

まどかが隣にいる。視線が自然と彼女の肩、脚、胸に吸い寄せられていく。


まどか「彼氏できたんだー。今、外国人の人と付き合ってるの。」


慧「そ、そうなんだ……。」


平静を装うが、視線を泳がせる慧。

まどかが腰を触りながら、ふとつぶやく。


まどか「最近、ちょっと太ったの。腰のお肉、気になるって言われちゃって」


慧「…………」


──言ってはいけない一言が、口からこぼれた。


慧「さわって……いい?」


まどか「いいわよ?触ってみる?」


慧(……嘘、だろ……これは、現実?)


そっと彼女の右腰に手を伸ばすと、柔らかい感触が返ってくる。


まどか「きゃっ、くすぐったい……もう」


──はっ。現実に戻る。

慧はあわてて手を引き、まどかは何事もなかったかのようにスカートをひらひらさせる。


まどか「これ、新しく買ったんだ。ねぇ、めくってみる?」


慧「……っ!」


──また現実に戻る。手が太ももに伸びかけていた自分に驚き、震えながら膝へ戻す。


カラオケの部屋が空き、店員に案内される。

刺激的な服装のまどかと、二人きりの薄暗い空間。

理性と本能の境界があいまいになる。


まどか「ちょっと近すぎだよ~。離れるね」


少し距離を取りながらも、彼女の絶妙な距離感に翻弄される慧。

歌も頭に入らない。終始、まどかに翻弄されるまま時間が過ぎた。


店を出たあと──


背中に柔らかい感触。

まどかが、Tシャツの裾を掴んでいる。潤んだ瞳でこちらを見る。


慧(……だめだ。これ以上は)


振り返り、そっとその手を払いのけた。


まどか「きゃあ……」


慧「ご、ごめん。とっさに……」


それでも彼女は、笑って言った。


まどか「ねぇ、これから飲みにいかない?」


慧「……ごめん。今日は帰るよ。楽しかった。ありがとう。」


まどかは、ふっと寂しそうな目をしたあと、微笑む。


まどか「……そう。ありがとう。じゃあね~」


慧は背を向けて歩き出す。

──まどかの誘惑と、自分の理性。

今日の出来事はまるで恋という名の戦争だった。



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