求めすぎる欲望が彼の何かを壊した
慧は21歳の大学生。
まだ女性と身体の関係を持ったことはなかった。
友人たちの会話が、妙に遠く感じる。
智樹「昨日もう2回目だったよ、優子の方から求めてきてさ」
守「そういうときはさ、間で◯◯を挟むと飽きずに盛り上がるよ」
智樹「さすが。テクニシャン。」
慧(……女の人の身体って、どんな感じなんだろう)
歩道を並んで歩く3人。前方に同年代の女の子たちがいた。
そのうちの一人が振り返り、慧に向かって歩いてきた。
「ねぇ、さっきから私の脚、じろじろ見てたでしょ?」
慧「えっ……」
「ふふっ。好きなんでしょ? そういうの。」
そう囁くと、彼女は耳元に顔を寄せた。
「あとで、じっくり……楽しませてあげる」
――気づけば彼女はいなかった。
友人たちが遠ざかる。慧は慌てて駆け戻る。
大学の講義中。慧は集中できなかった。
隣に座る女子の、太ももが露出したキュロットスカート。
消しゴムを落とし、身をかがめた瞬間の動きにさえ、目が離せなかった。
そしてふと、思い出す。
――ひとりの女の子の顔が脳裏に浮かんだ。
慧
スマホを取り出し、LINEを開く。
彼女のアイコンをタップして、震える親指でメッセージを送った。
「今度の土曜日、遊ばない?」
どうせ返事は来ないだろう。そう思っていた。
でも、画面はすぐに震えた。
まどか「いいよ。空いてるよ。映画でも行こうか?」
胸が高鳴る。
まどかの反応に、欲望に任せた言葉が溢れた。
「じゃあ助下町駅の前に10時で。……まどか、スタイルいいよね。ノースリーブ似合いそう。それと、脚もキレイだから……ホットパンツとか、きっと似合うと思うよ。」
送信。少し後悔する。が、またすぐに返事が来た。
まどか「もう、慧くんったら。わかった。慧くんは何色のノースリーブが好き? 私は金色が好き。」
授業どころではない。胸が爆発しそうだった。
「白が好きかな。でも金色でも全然いいよ。」
即送信。
まどか「わかった、それまでに用意しておくね」
目の前の女の子の脚も、スカートも、もうどうでもよかった。
慧の世界には、まどかだけがいた。
彼女のLINEの通知が、慧の中の何かを静かに壊していった。