エコー写真
ここは、東浜南記念病院・産婦人科。
待合室のソファに、一人の23歳の女性が静かに座っていた。
まどか「…………」
ここは本来、誰もが“おめでとう”を言ってもらえる場所。
新しい命の誕生に、医療スタッフも微笑みながら祝福の言葉を贈る。
けれど、その中で――まどかだけは、うつむいていた。
「須山まどかさーん。」
看護師の呼ぶ声に、まどかは無言のまま立ち上がる。
診察室に入り、ベッドに横になると、エコーの検査が始まった。
「妊娠10週目ですね。心拍もしっかり確認できます。順調ですよ。」
主治医の声は穏やかだった。
それに合わせるように、看護師も笑顔を向ける。
「よかったですね。もうすぐ“ママ”になれますよ。」
まどかは、何も言わなかった。
ただ、エコーのモニターを無表情で見つめていた。
その目は、ビー玉のように透明で――悲しみに満ちていた。
診察が終わり、エコー写真が手渡される。
まどかは、それを片手でひったくるように受け取り、言葉もなく立ち去った。
そのまま帰宅。
部屋の明かりを点けず、鞄も下ろさず、まどかは静かにソファへ座る。
そして、ゆっくりとお腹に手を添えた。
まどか「……君のお父さん……誰なの……?」
か細く、震える声。
そのひとことを残して――
まどかはエコー写真をくしゃりと握り、ゴミ箱に放り込んだ。
祝福の場所で、誰にも祝福されなかった命。
その証拠が、今、静かに捨てられた。