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あい  作者: 鏡恭二
2/9

エコー写真

 ここは、東浜南記念病院・産婦人科。

待合室のソファに、一人の23歳の女性が静かに座っていた。


まどか「…………」


ここは本来、誰もが“おめでとう”を言ってもらえる場所。

新しい命の誕生に、医療スタッフも微笑みながら祝福の言葉を贈る。

けれど、その中で――まどかだけは、うつむいていた。


「須山まどかさーん。」


看護師の呼ぶ声に、まどかは無言のまま立ち上がる。

診察室に入り、ベッドに横になると、エコーの検査が始まった。


「妊娠10週目ですね。心拍もしっかり確認できます。順調ですよ。」


主治医の声は穏やかだった。

それに合わせるように、看護師も笑顔を向ける。


「よかったですね。もうすぐ“ママ”になれますよ。」


まどかは、何も言わなかった。

ただ、エコーのモニターを無表情で見つめていた。

その目は、ビー玉のように透明で――悲しみに満ちていた。


診察が終わり、エコー写真が手渡される。

まどかは、それを片手でひったくるように受け取り、言葉もなく立ち去った。


そのまま帰宅。

部屋の明かりを点けず、鞄も下ろさず、まどかは静かにソファへ座る。

そして、ゆっくりとお腹に手を添えた。


まどか「……君のお父さん……誰なの……?」


か細く、震える声。

そのひとことを残して――

まどかはエコー写真をくしゃりと握り、ゴミ箱に放り込んだ。


祝福の場所で、誰にも祝福されなかった命。

その証拠が、今、静かに捨てられた。



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