砂のおやま
「ここにおやま作ったよー!」
まどかが、嬉しそうに声をあげる。
小さな手で丁寧に積まれた砂の山。その横に、同じく小さな男の子が座っていた。
「ほんとだ。すごいね、まどかちゃん。」
白峰 慧、7歳。
代々続く土地に建てた新居に、家族とともに越してきたばかりだった。
すぐ近くの公園に初めて足を運んだその日、
彼は一人の女の子と出会った。
「ここに今引っ越してきたばかりでして、よろしくお願いします。」
慧の母がそう頭を下げれば、
「こちらこそ。うちの娘、遊びたがりで……」と、まどかの母が笑った。
「つぎはブランコで遊ぼう!」
「うん!」
まどかはよく笑い、よく動く。
ショートカットの似合う、元気で明るい――
“らしい”女の子だった。
慧は、それだけで十分だと思っていた。
「帰るわよー」
呼ぶ声に、まどかが「はーい」と返す。
慧の母も、彼の手を取って言った。
「うちらも帰るわよ。ほら、行こう。」
二人は、それぞれの家に帰っていく。
その時――
慧は、ちらりとまどか横顔を見た。
無邪気な笑顔のあとに現れた、
ぽっかりと空いたような表情。
まるで、何かが欠けていることに気づいてしまった子どもの顔だった。
「…………」
何かが、足りない。
ずっと、何かが足りない。
そんな気配をまとったまどかの横顔が、
慧の心に、しずかに深く刺さった。
これは、幼馴染だったふたりの、
優しさと罪が交差する物語。
そして――
まどかが“壊れてしまう”前の、最後の記憶。