05.事の顛末
フェリクス王子の件があったものの、大舞踏会は何事もなかったように続けられた。
といっても、話の中心は王子たちのことで、あちこちで貴族たちが囁きあっていた。
「フェリクス殿下って、お腹の中は真っ黒だったのね」
「陛下も体よく除籍できたから、却って良かったんじゃないか」
「そうだな、王太子の暗殺も未然に防げた訳だしな」
一部貴族たちによると、国王はフェリクスのことをあまり良く思っていなかったらしい。
それらを聞きながら、アニスは思った。
なるほど、だから陛下はフェリクス殿下をかばわなかったのね、と。
(一番腹黒いのは、もしかすると陛下かもしれないわね)
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この翌日から、事件の捜査が始まった。
アニスも呼ばれて事情を聞かれた。
まさか猫になっていましたとも言えないので、
「何とか迷宮内で生き延びて地下を掘って出た」
という、ハロルドと事前に相談していた内容を答えた。
調査官に「食べ物はどうしたのですか?」と尋ねられ、「洞窟にあるものを食べました」と答えたところ、あらぬ想像をしたようで、ものすごく同情した顔をされた。
アニスへの事情聴取と並行して、容疑者たちへの尋問も行われた。
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カトリーヌは、正直に言えば罪が軽くなると言われ、喜んで自分の知ることを全て話した。
「父は、私をフェリクス殿下の婚約者にして、ラウゼン家を盛り立てるつもりでした」
彼女は、父親に従ってフェリクスを誘惑し、アニスを邪険にするように誘導したらしい。
そして、王子を父親と引き合わせ、アニスを亡き者にするように仕向けたらしい。
「父からは、ゆくゆくは王妃になれと言われていて、私自身もそのつもりでした」
フェリクスは、従順に振る舞って持ち上げてさえいれば機嫌が良いため、大変扱いやすかったという。
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ラウゼンの取り調べは、困難を極めた。
彼自身が手練れの魔法士で、隙を突いて逃げ出そうと大暴れしたからだ。
お陰でアニスが出動することになり、ねじ伏せる形で取り押さえた。
そこから彼はしばらく黙秘を貫いていたが、カトリーナが全てを話したと聞いて、諦めたように重い口を開いた。
「全てはラウゼン家のためだった」
彼はカトリーナを王族の一員にすることによりラウゼン家を盤石のものとし、フェリクスを王位につけることにより、王妃の父という地位を得ようと企んでいたらしい。
そのためにはどうしてもアニスが邪魔で、どうにかしてこの世から消し去りたいと考えたが、当代一の魔法士であるアニスをどうにかできる算段が立たない。
そんなある日、「地下迷宮の宝物庫の壁には魔法を通さない古代の仕組みが使われている」という情報を目にして、今回の作戦を思いついたらしい。
その後は、カトリーナを使ってフェリクスを抱き込み、計画を実行した。
計画は予想以上に上手くいき、彼はアニス・レインを閉じ込めることに成功した。
自力で抜け出してきたと聞いた時は肝が冷えたが、魔力切れを狙って刺客3人を送り込んだ。
そして、3人からの成功の連絡を受け、すっかり安心してしまったという。
最後に彼は悔しそうにこう言った。
「私は運がなかった」
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フェリクスは、取り調べに対し、ずっと傲慢だった。
王族の自分に取り調べなど不敬だと、何度も調査官を追い返し、挙句の果てにカトリーナを呼べと命令した。
「彼女も私に会いたがっているに違いない」
しかし、カトリーナはフェリクスになど会いたくないとこれを断り、フェリクスは深く落ち込むことになった。
どうでも良くなったのか、彼は「王位を狙うために、ラウゼンと手を組んだ」と供述し始めた。
「後ろ盾のない、魔力だけの女と婚姻など結んだところで、王位を狙えないと思った」
ラウゼン侯爵に、後ろ盾になるから王位を狙わないかと言われ、彼はすぐに話に乗ったという。
上手くいけば、王位もカトリーナも、両方手に入ると思っていたらしい。
「全て上手くいくはずだったんだ」
そう彼はぶつぶつ呟いていたという。
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その後、関係者に対する裁判が始まった。
裁判では、アニスへの殺害未遂よりも、第1王子暗殺計画の方が問題視された。
その結果、カトリーナは、規律の厳しい修道院に送られることになった。
態度が良ければ20年ほどで出られるが、その頃には自慢の美しさは損なわれているだろう。
ラウゼン侯爵は、暗殺計画の首謀者として極刑が決まった。
家は、領地を没収の上に男爵家へ降格させられ、一族は平民同然の暮らしをすることになった。
フェリクスの方は、王家の駒として、大国の女王の元に送られることとなった。
今後は、女王の持つ後宮で生きることになるという。
そして、すべての刑が執行された後、アニスは王宮へと呼ばれた。
事件解決の功績を称えられ、労いの言葉とともに褒美を与えられることとなる。
彼女が願ったのは、ただ1つ『婚姻の自由』。
その願いは、渋々ながらも受理され、一連の事件は幕を閉じた。
両親とヘクトールについては次話に記載があります。




