04.大舞踏会④
(今だわ!)
アニスはグッと拳を握り締めた。
後でひっそりと処理されてしまうかもしれない可能性を考え、わざわざ貴族たちが集まる今日を選んで、フェリクスの嘘を暴いた。
公衆の面前で事実を語り、フェリクスとラウゼンの罪を暴いた。
あとは、全員の前で、国王から言質を取るだけだ。
アニスは素早く一礼をすると、国王に向かって声を張り上げた。
「陛下、恐れながら、ご相談とお願いがございます。フェリクス殿下との婚約の件についてです」
「……なんだ」
国王が眉をひそめて、アニスを見下ろす。
アニスはその場にひざまずくと、頭を下げた。
「どうか、わたしとフェリクス殿下の婚約を解消して頂きたく存じます」
国王はため息をつくと、重々しくうなずいた。
「……よかろう。この状況では致し方あるまい」
「ありがとうございます。それと――」
ゆっくりと口を開きながら、アニスはこれまでのことを思い出した。
(猫になる前のわたしは、なぜ自分はいくら頑張ってもうまくいかないのだろうって、いつも嘆いていた)
ずっと運が悪いからだと思っていたが、猫になって自分を客観的に見つめてみて、ようやく分かった。
(わたし、いつの間にか、自分の人生の主導権を手放してしまっていた)
王命だから婚約し、両親が喜ぶから働いて仕送りをし、頼まれたから無理でも仕事を引き受ける――こうやって人の期待に応えるために動いてきた。それが「ちゃんとすること」だと思い込んでいた。
でも、何のしらがみのない猫になり、自分を大切にしてくれるハロルドと一緒に暮らしてみて、よく分かった。
そんな生き方をしている自分はちっとも幸せじゃない。
もう人の都合や期待に縛られる生き方はしたくない。
今日ここで声を上げなければ、きっとまた誰かにいいように決められてしまう。
わたしは、自分の人生の主導権を取り戻したい。
彼女は顔を上げると、国王を真っすぐ見た。
「――これを機に、どうか、わたしに結婚の自由をお与えください」
会場がざわめいた。
国王が眉間にしわをよせる。
「……それは、王族との結婚についてか?」
「はい、一生一緒に過ごす相手は、自分で決めたいと思っております」
アニスの願いを聞いて、国王が渋い顔をした。
厄介なことを言い出した、とばかりにアニスを面倒くさそうに見る。
しかし、会場から聞こえてくる
「まあ、今回こんなことになったんだから、そうなるわよね」
「確かに酷い話だったからな……」
という、アニスへの同情的な言葉を聞いて、軽く顔を歪ませた。
群衆たちをチラリと見て、諦めたように口を開く。
「……あい分かった。今回の功績を踏まえ、前向きに検討しよう」
そして、群衆たちを見回すと、軽く口角を上げた。
「それでは皆の者、30分の休憩の後、大舞踏会を続けるとしよう」
群衆たちが、我に返ったような顔をした。
止まっていた会場の空気が、再び動き始める。
アニスは、ほう、と息を吐くと横のハロルドを見た。
ハロルドもアニスを見る。
そして、2人はほぼ同時に安堵の息を吐くと、終わったね、という風に微笑み合った。
今日はここまでです。
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明日は、捕まった人々がどうなったかから始まり、エピローグとなります。




