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私のことを(たぶん)嫌いな騎士団長様は、"猫"を拾ったつもりらしい  作者: 優木凛々
第4章 魔法士アニス、けじめをつける

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03.大舞踏会③

 

 ハロルドは一歩前に出た。

 国王に向かってお辞儀をすると、ゆっくりと口を開く。



「陛下、この件に関して報告させて頂きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」



 国王が、ハロルドを冷静な目で見つめた。

 群衆たちの知りたそうな様子を見て、静かにうなずく。



「よかろう」



 ハロルドがお辞儀をすると、静かに口を開いた。



「彼女が巻き込まれた崩落事故について、我々騎士団は独自に調査をいたしました。その結果、この事故はアニス・レインを狙って故意に起こされたものだと判明しました」



 ハロルドは軽く息をつくと、冷静に言った。



「そして、この裏には、フェリクス殿下と、そこにいるカトリーヌ嬢、そしてその父親であるラウゼン侯爵がいることが分かっております」


「……っ!!!!」



 会場の誰もが息を呑んだ。

 まさかの名前に、

「一体どういうことだ」

「本当なのかしら」

 など驚きの声が上がる。


 ハロルドが事件のあらましについて淡々と話し始めた。


 子どもの行方不明が捏造であったことや、崩落が仕組まれたもののこと。

 アニスを殺そうとした隠密を3人捕縛してたところ、ラウゼン侯爵の名前が出たことや、崩落を促す魔道具が発見されたこと、フェリクスが犯人しか知りえない情報を持っていたことなど、静かに話す。


 そして、大体の説明が終ると、



「……お待ちください」



 後方から男性の落ち着いた声が聞こえてきた。

 皆が振り返ると、そこにはラウゼン侯爵が立っていた。

 落ち着き払った顔で前に出て来ると、壇上にいる王族たちに「ラウゼンでございます」深々と礼をする。



「恐れながら、発言をお許しいただけないでしょうか」

「……よかろう」



 国王が鋭い顔でうなずくと、ラウゼンが冷静な顔で口を開いた。



「聞いておりましたが、全く身に覚えがございません。完全な濡れ衣です」



 そして、ハロルドを馬鹿にしような顔で見た。



「あなたがおっしゃっている証拠は、どれも状況証拠ではないですか。証人と呼んでいる者たちも、どうやらチンピラ3人だけの様子。とても証拠が揃っているとは言えない状況のように思えますな」


「そ、その通りだ!」



 真っ青になって黙りこくっていたフェリクスが息を吹き返した。



「黙って聞いていればデタラメばかり! 私が関与した証拠がなにもないではないか! 王族の名誉を傷つけるなど許される所業ではない!」



 ラウゼンが、落ち着き払って言った。



「それに、失礼ですが、ウィンツァー騎士団長は、アニス嬢のご学友だったという話ではないですか。何か特別な配慮のようなものをされているのではないでしょうか?」


「そ、そうだ! その通りだ! 王族に何たる無礼を働くのだ!」



 フェリクスがアニスを睨みつける。


 その姿を見て、アニスは冷たい目で彼を見た。

 本当に見苦しい人だわ、と思う。


 ハロルドが、国王に向かってお辞儀をした。



「恐れながら、新たな証拠を持ってきてもよろしいでしょうか」

「……いいだろう」



 国王がうなずくと、ハロルドは入り口の方に顔を向けた。

 手招きして、そこに待機していた文官カミールを呼ぶ。


 カミールは何かを持ってやってくると、王族たちに向かって頭を下げた。


 そして、おもむろに包みから箱型の魔道具を取り出すと、魔力を流した。

 箱から、ピーという不思議な音が流れ始め、突然男性の声が流れ始めた。



――――――――

「アニスが発見されたそうだ」

――――――――



 観客たちが驚いたように顔を見合わせた。

 音はまだ続く。


――――――――

「……それは、事実ですか?」

「ああ、間違いない。ここに来る直前に報告が上がってきた。今日の昼過ぎに迷宮の奥からフラフラになった状態で出て来たらしい」

――――――――



 誰かが「これは殿下の声じゃないか」と言い始め、

「確かに」「間違いない」といった声が上がる。


 箱からは、フェリクスの焦ったような声が聞こえてきた。



――――――――

「どうするんだ、彼女が見つかってしまっては、今までの計画は台無しだ!」

「確かに、彼女が見つかった以上、カトリーナとの話も、王位継承の話もなくなるでしょうな。――しかし、彼女はまだ王都に戻ってきてはおりません。このまま戻ってこないようにすれば良いだけです」

「……そんなことができるのか? 相手は当代一の魔法士だぞ?」

「今晩中であれば可能かと」

「どういう意味だ?」

「魔力切れの昏倒中であれば、丸1日は起きません」

「……なるほど。では任せて良いのだな?」

「ええ。こちらからは精鋭を送ります。今回古代迷宮に細工をした者たちです」

「それは信頼できそうだな」

…… 

――――――――



 音声が終ると、会場がシンと静まり返る。

 ハロルドが落ち着いた声で言った。



「これは、先日、騎士団所属の魔道具師から王家に献上させて頂いた、音声を記録する魔道具と同じものです。大学構内にある図書館のとある部屋に設置しておりました。これについては図書館の者が証言してくれるはずです」



 決定的な証拠に、周囲が静まり返る中、アニスが口を開いた。



「こちら以外にも、フェリクス殿下の大学の研究室からこんなものを見付けております」



 宰相がそれを受け取った。

 さっと顔色を変える。



「こ、これは暗殺計画ではないか!」

「はい。暗殺の対象は、第1王子(エリック殿下)です。どの毒が効きにくいなどの考察などが詳細に書かれています。筆跡は間違いなくラウゼン侯爵で、他にも殿下の筆跡のものなどあります」



 フェリクスは真っ青になって床に崩れ落ちた。

 ラウゼンは逃げようとするものの、すぐに騎士たちに捕らえられる。

 カトリーナも真っ青になって椅子に寄りかかっている。



 国王はため息をつくと、フェリクスの方を見もしないで命令した。



「この者たちを連れて行け、後ほどじっくりと責任をとってもらおう」



 そして、「しばらく休憩にする!」と席を立とうとする。



(今だわ!)



 アニスはグッと拳を握り締めた。


 後でひっそりと処理されてしまうかもしれない可能性を考え、わざわざ貴族たちが集まる今日を選んで、フェリクスの嘘を暴いた。

 公衆の面前で事実を語り、フェリクスとラウゼンの罪を暴いた。

 あとは、全員の前で、国王から言質を取るだけだ。


 アニスは素早く一礼をすると、国王に向かって声を張り上げた。



「陛下! 恐れながら、ご相談とお願いがございます!」





つづく




後ほどもう1話投稿します。

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