04.アニス、閉じ込められる
魔法士団本部を出てから半日後。
「嘘でしょ……」
アニスは、信じられない気持ちで地下迷宮の壁を見つめていた。
そこにあるのは、崩落でできた岩石の山で、出口をガッツリと塞いでいる。
「な、なんでこんなことに……」
思い起こすのは、ここに自分が閉じ込められる羽目になった経緯だ。
*
お昼前に古代迷宮跡に到着したアニスたちは、すぐに地下の探索を開始した。
メンバーは、現地の騎士とアニスたち魔法士の、計8名。
地下に潜って地図を確認しながら探すものの、子どもはなかなか見つからない。
彼らはどんどん奥に進み、ついに迷宮の最奥部分にある3方向に枝分かれしている道に辿り着いた。
「残るはこの先だけですね」
「手分けして探しましょう」
という訳で、8人は手分けして3方向の道を進むことになった。
アニスは、最近加入した新人の魔法士と一緒に、元宝物庫につながっているという道を進む。
そして、歩くこと、しばし。
視界の先に入口のようなものが見えてきた。
「あれが宝物庫だった場所ね」
「子どもがいるかもしれません、入ってみましょう」
そう新人魔法士に促され、アニスが元宝物庫中に入った、次の瞬間。
ガゴッ
という鈍い音がした。
ガラガラガラッ
入口近くの壁が崩れ、天井から大きな石が落ちてくる。
「……っ!」
とっさに結界魔法を展開して、何とか崩落から逃れるアニス。
そして気が付くと、周囲は岩だらけで、彼女は元宝物庫に閉じ込められてしまっていた、という次第だ。
*
「あ、危なかった……」
岩石の山を見つめながら、アニスは額の冷や汗をぬぐった。
結界魔法が少しでも遅かったら、ぺしゃんこになっていたところだった。
深呼吸して気持ちを落ち着けていると、遠くから新人魔法士の声が聞こえてきた。
「副団長! 無事ですか!?」
彼が無事なことにホッとしながら、彼女は叫び返した。
「何とか無事よ! そっちは!?」
「こっちは大丈夫です!」
「よかった! 何があったの?」
「わかりません! 目の前で突然岩が崩れました!」
新人魔法士が叫んだ。
「そっちから出られますか?」
「ちょっと待って! やってみる!」
アニスは入り口をふさいでいる岩石の山にそっと手を添えた。
岩石にそっと魔力を流す。
そして、魔力を十分に流した後、静かに詠唱した。
「<粉砕>」
岩石の下に魔法陣が浮かび、金色の光が周囲を覆う。
しかし。
「あれ……?」
岩石が砕けて砂となるはずなのに、ビクともしない。
おかしいと思って今度はもう少し魔力を込めてみるものの、何の変化もない。
アニスは新人魔法士に向かって叫んだ。
「ダメだわ! この岩、魔法が効かないみたい。宝物庫だから何か特殊な加工がしてあるのかもしれない」
「……そうですか。では、助けを呼びに行くので、そのまま待っていてください」
彼の気配が遠ざかるのを感じながら、アニスは改めて周囲を見回した。
広さは食堂くらいで、つるつるとした石壁に囲まれている。
(……あまり居心地の良い場所じゃないわね)
そして、少し冷えるからと、体の周囲の空気を暖める魔法を使おうとして――
「……ん?」
彼女は眉をひそめた。
体を覆った魔力がどこかに吸収されるような感覚がする。
「何かしら」
魔力の流れを辿ると、奥の壁の先に流れていることが分かった。
アニスは壁に手を当てた。
ペタペタと触っていると、触ってかろうじて分かる切れ目のようなものを見つける。
その場所を押すと、扉のようなものが現われた。
(なにこれ?)
アニスは、持っていた鞄から、地下迷宮の地図の写しを取り出した。
元宝物庫の周囲をながめる。
「……描いてないわね。これって、隠し扉ってやつよね」
改めて扉の向こうを覗くと、奥がぼんやりと明るいのが見えた。
心なしか空気も澄んでいる気がする。
(もしかして、外に繋がってる?)
アニスは、そっと中に入った。
足元に気を付けながらゆっくりと進む。
そして、通路の先に出て、思わず目を見開いた。
そこは、ぼんやりと光る苔に覆われた不思議な場所だった。
学園の教室くらいの広さだが、天井がやたら高く、澄んだ水をたたえた池がある。
池のほとりには、苔に覆われた古びた石碑が立っており、見ただけでとんでもない魔力を内包しているのが分かる。
「なるほど、この石碑が魔力を吸収していたのね」
石碑をながめながら、アニスは思案に暮れた。
おそらくここは未発見の隠し部屋だろう。
「大発見だけど、この状況じゃあね……」
閉じ込められた状況での大発見に苦笑する。
そして、彼女は小部屋を探索し始めた。
どこかに隠し出口があるかもしれないと、壁をペタペタ触ったり、地面の上をぴょんぴょん飛んでみる。
そして、池の中をのぞくと、何か金色のものが沈んでいるのが見えた。
(なにかしら?)
アニスは、池に手を入れた。
金色のものに、そっと触れると、それは黄金の像のようだった。
女性の像だろうか。
そして、池から手を引っ込めようとした、その瞬間。
「……っ!」
小部屋の中に満ちている魔力が一瞬震えた気がして、アニスは、ビクッとして手を引っ込めた。
周囲を見回すが、特に何か変わった形跡はない。
「……今の何だったんだろう?」
つづく
アニス、隠し部屋を発見して、何かヤバそうな像を触る……