11.とりあえず、これから
夕方の屋上庭園で、元の姿に戻った後、
ハロルドの上着に包まれたアニスは、彼に抱きかかえられて下に降りた。
猫の姿が長かったせいか、上手く歩けなかったからだ。
本来であれば、ものすごく恥ずかしい状況だと思うのだが、
驚きすぎて、何が何だかもう分からない。
その後、昔ハロルドが使っていたという部屋に通された。
お湯を浴びて、メイドに持ってきてもらった衣服に着替えると、少し落ち着いてくる。
洗面所で、前よりも少し伸びた髪をとかしながら、アニスは思案に暮れた。
(今日は満月じゃないわよね……、というか、月もまだ出ていないし)
一体なぜ元に戻ったのだろうかと、ボンヤリ考える。
身支度が終って浴室を出ると、控えめなノックの音がして、ハロルドが現われた。
彼はアニスを見ると、ホッとした顔をした。
あまりにも部屋が静かなので、また猫に戻っているかもしれないと思ったらしい。
「とりあえず、食事にしないか。朝から何も食べていないだろう?」
アニスはお腹を押さえた。
そういえば、かなりお腹が空いている。
部屋に食事を運んでもらい、2人はテーブルに向かい合った。
「まずは食べよう」
「ありがとう、いただきます」
前菜を一口食べて、アニスは感動に打ち震えた。
人間として久々に味わう料理に、舌鼓を打つ。
そんなアニスを見て、ハロルドが嬉しそうな表情を浮かべる。
そして、食事が一段落すると、2人は「なぜアニスが人間に戻ったか」について話し合った。
「あの時、手に魔力を込めたように見えたけど、ハロルドは何をしたの?」
「いわゆる騎士の誓約だな。遠い昔に君主に対して忠誠を誓う時に使った古い儀式だ」
ハロルドによると、今は嘘偽りないことを示すために使われるらしい。
「使うと制約が出るから、あまり使われることはないがな」
アニスは、ふうん、と言いながら、顔を背けた。
(……つまり、猫でも一緒に居て欲しいっていうのは、本気だったってことよね)
そう思うと、何だかものすごく恥ずかしくなってくる。
耳まで赤くなってうつむくアニスに、ハロルドが愛おしそうに目を細める。
その視線を感じ、アニスが更に赤くなる。
その後、何とか顔を立て直したアニスは、ハロルドと再び「なぜ戻ったか」について考察した。
色々と考えて見るものの、どうもよく分からない。
「オズワルドが帰ってきたら聞いてみた方が良さそうだな」
「そうね、そうしましょう」
アニスがうなずく。
そして、彼女は切り替えるように、大きく息を吐いた。
改まったように座り直すと、ハロルドを見る。
「――それで、これからについてなんだけど」
ハロルドが、「ああ、そうだな」とうなずく。
「……わたし、猫になってみて、色々気が付いたことがあるの」
本当に人間に戻れるかもしれないと思い始めてから、
アニスは戻ることを考える度に、憂鬱になった。
戻ったらまた大変な日々を送ることになると思ったからだ。
つい先ほど、猫として暮らしていくことを真剣に考えたとき、
猫でいた方が快適な生活が送れるんじゃないかと思ってしまった。
つまり、人間としての自分は幸せではないということなのだろう。
(これはどう考えても、おかしなことだわ)
きっと今の自分には、正さなければならないことがたくさんある。
アニスは真剣な目でハロルドを見た。
「少し考えていることがあるのだけど、聞いてくれる?」
ハロルドは彼女を真っすぐ見ると、力強くうなずいた。
「ああ、もちろんだ」
今日はここまでです。
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これにて第3章は終わりで、別視点の話を1話挟んで最終章である第4章に突入します。




