10.金色の光
ずっと黙っていたハロルドが口を開いた。
「……もう連絡はなさそうだな」
アニスは、「そうね」という風に左足を上げると、息をついた。
顔を上げると、感謝の目でハロルドを見る。
元の姿には戻れなかったが、彼は本当に尽力してくれた。
感謝してもしきれない。
ちょこんと座って頭を下げるアニスを見て、ハロルドが目を細めた。
そっと手を伸ばしてアニスの頭をなでながら、ゆっくりと口を開いた。
「アニス、君に話がある」
そして、覚悟を決めたように息を吐くと、彼女の目をまっすぐ見た。
「君さえよければ、このまま私と一緒に暮らさないか?」
(……え?)
予想外の言葉に、アニスはきょとんとハロルドを見上げた。
そんな彼女に、彼は優しげに口角を上げた。
「私は将来的に侯爵家を継ぐことになっていて、ちょっとした領地と、貴族街にある館をもらうことになっている。君が来てくれるなら、そこを君の居心地の良いように変えようと思う。君の好きなふかふかのクッションで部屋をいっぱいにしたっていいし、チョコレート菓子を作るのが得意な料理人を雇ってもいい」
ハロルドがアニスのつぶらな瞳を見ながら微笑んだ。
「だから、これからも私と一緒にいてくれないか?」
アニスの目が大きく見開かれた。
ハロルドのまさかの言葉に動けなくなる。
そんな彼女を、ハロルドは優しく見た。
アニスの前にひざまずくと、戸惑う彼女を愛おしそうに見つめる。
「君は気が付いていないようだったが、私はずっと君のことを愛しているんだ。この気持ちは、たとえ君が猫であっても、絶対に変わらない」
だから、とハロルドは微笑んだ。
「どうか、これからも一緒に居てくれないか。私は、君がどんな姿だろうと、一生愛すことを誓う」
彼は、決意を込めるように、自らの手に魔力を込めた。
その手でそっとアニスの前足をとると、優しく口づける。
そして、真摯な瞳でアニスの目を見つめた――、その瞬間。
(……っ!)
突然、ぶわっと金色の光がアニスの体から湧き上がった。
周囲をまばゆいばかりの金色の光で覆われ、金色の魔力の渦がアニスを包み込む。
(え!? な、何が起きたの!?)
ハロルドが「アニス!」と叫んだ。
彼女に手を伸ばそうとするが、発せられる金色の風に阻まれる。
(ハロルド!)
アニスは、とっさに2人の周囲に防御結界を張ろうとするものの、金色の魔力の渦に阻まれる。
体はどんどん熱くなり、たまらなくなってその場にしゃがみ込んで目をつぶる。
――そして、ふっと光が消え。
恐る恐る目を開けると、金色の光が消え去っており、周囲は夕方の光に包まれていた。
(収まった……?)
とりあえずホッとしながら正面に視線を移すと、そこには驚愕の表情をうかべたハロルドがいた。
信じられない、といった表情でアニスを見ている。
(え? なに?)
アニスが動揺していると、彼はくるりと後ろを向いて、上着を脱いで後ろ手で差し出した。
「とりあえず、着てくれ」
(……え?)
アニスはゆっくり自分の手を見た。
それが人間の手であることを認め、目を見開く。
そして、視線を落として、自分が裸だということに気が付き、彼女は思わず叫んだ。
「きゃああああ!!」
近くを飛んでいた鳥たちが、驚いたように鳴いた。




