07.急展開
一晩かけて何とか、
『フェリクス殿下とカトリーナの父親が結託して、アニスを迷宮から助け出さないための工作をしている。ものすごく怪しい!』
とハロルドに伝えたその日から、アニスとハロルドは行動を開始した。
ハロルドはカトリーナの事情を探り、アニスはフェリクス殿下の密着を続ける。
密着する中で、アニスは、例の男との密会が週2回、決められた曜日に行われていることを突きとめた。
主な話題は、フェリクスの権力をどうやって強めるかについてで、どうやら2人はフェリクスを王位につけようと画策しているらしい。
(フェリクス殿下って、こんな野心的な人だったのね……)
2人の話を聞きながら、アニスはため息をついた。
人間に戻って、婚約を継続せよ、みたいな話になったらどうしよう、と心の底からゲンナリする。
ちなみに、オズワルドの解析は粛々と進んでいるようだった。
ときどき手紙で質問が来て、それに答える日々が続く。
――そして、時は流れること、約2週間。
夕方、フェリクスの密着から帰ったアニスが、ハロルドの執務室のソファの上で一休みをしていると、
コンコンコン
ドアがノックされ、騎士の1人が入ってきた。
1通の手紙をハロルドに差し出す。
「ウィンツァー公爵家からのお手紙です」
騎士が出て行ったあと、アニスはソファから飛び降りた。
執務机の上にぴょんと飛び乗ると、ハロルドがアニスに手紙を見せてくれた。
『依頼の件についてご相談があります。急ぎ来られたし』
(依頼の件って、石碑の古代文字の件よね)
そんなことを考えるアニスの前で、ハロルドが立ち上がった。
さっと机の上を片付けると上着を羽織りながらアニスを見た。
「行こう。あのオズワルドが“急ぎ来られたし”と言ってきたということは、おそらく何かあった」
ハロルドはアニスを肩に乗せると執務室を出た。
その足でまっすぐ厩に向かうと、すぐに王宮を出発する。
アニスは眉をひそめた。
只ならぬ雰囲気に、なんだかとても嫌な感じがする。
(もしかして、戻る方法が書いていなかったとか……?)
そんなことを考えるものの、それだったら
「急ぎ来られたし」なんて言ってこないわよね、とも思う。
馬は夕日に照らされた貴族街を通り抜け、公爵家に到着する。
出迎えに出てきた使用人たちの間を通り抜け、執事に案内されて図書室に行く。
そして、地下の階段を降りて行くと、そこには難しい顔で本とにらめっこをしているオズワルドがいた。
ハロルドが入り口を軽くノックすると、はっとして立ち上がる。
「お待ちしておりました、ハロルド様。早かったですね」
「ああ、“急ぎ”と書いてあったのでな。……それで、何かあったのか?」
「……はい」
オズワルドは、ハロルドに椅子を勧めた。
細かい文字の書かれた紙束を作業机の上に並べる。
「先ほど、ようやく解読が終了いたしました。まず、そちらから説明させて頂きます」
オズワルドが紙を指差した。
「こちらが、石碑に彫られていた文言を解読したものです」
――――――――
『我が愛しき者、この地に永遠の眠りを得る』
ロズマン帝国第3王女 ***・***
――――――――
「この石碑の文言から推測するに、この石碑があった小部屋は、亡くなった古代帝国の王女を祀った場所だと思われます」
「つまり、古代の墓か」
「はい、そうなります」
オズワルドによると、石碑には王女との思い出について記されていたらしい。
「恐らく、この石碑を作った者は、王女と親しい間柄だったのでしょう」
そして、この石碑の最後と魔法陣に解呪の方法についての記録があったのだが……
「……問題は、この解呪の方法と制約でして」
オズワルドの深刻な顔を見て、アニスは目を細めた。
ものすごく嫌な予感がする。
そして、オズワルドが指を差した文言を見て、
(……っ!)
アニスは思わず大きく目を見開く。
そこに書いてあったのは、こんな文言だった。
――――――
告ぐ。この呪詛、七十二日の猶予あり。期を過ぐれば、呪縛は永劫のものとならん。
――――――
固まるアニスの横で、ハロルドが冷静に言った。
「つまり、72日以内に呪いを解かなければ、永遠に解けなくなる、ということだな?」
「おっしゃる通りです」
ハロルドが、一瞬黙った後、つぶやいた。
「彼女が猫になってから、すでに60日以上が経過している。つまり、猶予はあと10日ほどということだな」




