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私のことを(たぶん)嫌いな騎士団長様は、"猫"を拾ったつもりらしい  作者: 優木凛々
第3章 魔法士アニス、見えなかったものが見えてくる
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03.解読依頼

 

 アニスが戸惑っていると、オズワルドが好奇心の目を向けてきた。



「……もしかして、そのケットシーについてのお話ですか?」

「ああ、まあそんなところだ」

「そうですか……。どうぞこちらへ」



 オズワルドが、ハロルドに椅子をすすめた。

 見たことのないポット型の何かからお湯を注ぎ、お茶を淹れ始める。


 その後姿を、アニスは注意深くながめた。

 猫になってから今まで、数えきれないくらいの人に会ってきたが、誰もアニスを従魔以上だとは思わなかった。

 でも、この人はすぐに何かあると見抜いた。



(この人、多分すごい魔道具師だわ)



 オズワルトが、湯気の立つカップを2つ持って来た。

 お皿を1つ持ってくると、アニスの前に置いて水を入れてくれる。



「ど、どうぞ」

「ありがとう、いただこう」

「にゃーん」



 オズワルドが、やや恥ずかしそうに目を伏せる。

 どうやらあまり人とのコミュニケーションが得意ではないらしい。


 ハロルドは軽くお茶に口をつけると、話を切り出した。



「まずは、これを見てくれ」



 ハロルドが、石碑に書かれていた文字と、魔法陣の写しを差し出した。

 オズワルドはそれを受け取ると、目を輝かせた。



「……これは、かなり古いですね」



 彼によると、古代の更に古代に使われていたと言われているものらしい。



「解読できるか?」



 ハロルドの問いに、オズワルドは一拍置いてから、こくりとうなずいた。



「おそらくできます。ですが――」



 ちらり、とアニスを見る。



「事情を教えていただけないと、解読そのものが見当違いになる可能性があります。どんな目的でこれを解析するのか、それ次第で解釈も違ってきますから」



 ハロルドがアニスを見た。



「オズワルドは信用できる。話してもいいか?」



 アニスはビシッと右手を上げた。

 ぜひ話してくれ、という意味を込めて「にゃーん」と鳴く。


 ハロルドがうなずくと、オズワルドに話し始めた。



「以前、古代迷宮の地図を借りたことを覚えているか?」

「はい、1カ月半くらい前ですね」

「そうだ。この文字は、この古代迷宮の隠し部屋にあった石碑に彫られていたものだ」



 その後、ハロルドは


 ・アニスが崩落に巻き込まれて、偶然隠し部屋を見つけたこと

 ・なぜか猫になってしまったこと

 ・満月の光を浴びると一時的に姿が元に戻ること



 などを順番に話していく。


 オズワルドが食い入るように話を聞いた。

 時々「なるほど」「それはそれは」など、感心したようにつぶやく。


 そして話が終ると、オズワルドが口を開いた。



「実に興味深いです。それは古代に使われていた防衛機能の一種ですね。恐らくですが、あの古代迷宮は何かを祀るために作られたものだったのではないかと」



 彼によると、恐らく、その隠し部屋には聖遺物のような大切なものが祀ってあり、それを持ち出そうとする者に呪いをかける仕組みなのではないか、ということだった。


 アニスは遠い目をした。

 きっとその聖遺物とは、あの池に沈んでいた金色の女性の像ね、と思う。



(確かに、あれに触った瞬間、部屋の中の空気が変わった気がしたわ)



 オズワルドが考えながら言った。



「まずは、そのケットシーの状態を調べさせていただいてもよろしいでしょうか。かかっている魔法の種類を特定して、そこから解析したいと思います」



 ハロルドに、「だそうだが、いいか?」と尋ねられ、アニスはためらうことなく右足をサッと上げる。



 その後、ハロルドとオズワルドは話し合いを始めた。

 嫌がることは絶対にしないことを約束し、明日の朝、アニスをここに連れてくることに決まる。


 その後、ハロルドはアニスを肩に乗せると、オズワルドに見送られながら研究室を出た。

 階段を上がって1階の図書館に戻ると、窓の外は夕方の光に包まれている。


 アニスは、密かにため息をついた。



(……良かったとは思うんだけど、なんだか複雑な気分だわ)



 今日は、一気に事態が進んだ。

 いずれ元の姿に戻れるのだろうと思う。


 本来であれば、ものすごく嬉しいことなのだが、アニスはどこか素直に喜べなかった。



(最近、戻った後のことを色々考えているせいかしらね)



 元に戻った後の、婚約や仕事、両親のこと、待っているだろう激務の日々を想像すると、どうも気が重くなってしまうのだ。



 アニスの複雑な表情を見て、ハロルドが思案するように黙り込んだ。

 しばらく考え込むと、ゆっくりと口を開いた。



「ちょっと上に行ってみないか」



 アニスが、いいわよ、という風に「にゃーん」と鳴く。


 ハロルドは、アニスを肩に乗せたまま最上階まで階段を上がった。

 一番奥の部屋を開けると、そこにあった梯子を上り、扉を開ける。


 そして、上に出ると、そこは屋上だった。

 見事な夕焼け空で、遠くにはオレンジ色に染まった山々が見える。



(すごい! こんなに遠くまで見えるんだ!)



 彼女の驚いた顔を見て、ハロルドがふっと笑った。

 下の方を指差す。



「あそこに庭園の中に小屋があって、兄上たちと秘密基地を作ったんだ。今日はもう遅いから、今度来た時に行ってみないか?」



 アニスは右前足を上げた。

 ハロルドが小さい頃に遊んだ庭園を見てみたい気がする。


 ハロルドが、そんなアニスの頭をそっと撫でる。



 その後、2人は用意してもらった美味しい夕食を堪能して、静かに王宮へと戻っていった。






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