02.地下の魔道具師
古代迷宮から戻ってきて、5日後の夕方。
アニスを肩に乗せたハロルドが、馬で王城の門をくぐり抜けた。
そのまま貴族街へと進んでいく。
アニスは周囲を見回した。
貴族街はとても静かで、手入れの行き届いた庭に囲まれた豪邸が整然と並んでいる。
馬を進めながら、ハロルドがアニスに尋ねた。
「このあたりに来たことがあるか?」
アニスは、「いいえ」の合図に左前足をぴんと上げる。
ちなみに、今向かっているのは、ウィンツァー公爵家。
目的は、とある人物に石碑の文字の解読を依頼するためだ。
帰って来てから丸4日、アニスは石碑の中に入っていた魔法陣を解読しようとがんばった。
深夜に禁書庫に忍び込んで調べたり、文字の順番を変えてみたりと、一生懸命考える。
しかし、
(これはわたしの手に負えないわ……)
調べても分からない記号や、知っている文字も違う形で使われている、など、まるで意味がつかめない。
悩むアニスを見て、ハロルドが1つの提案をした。
詳しそうな専門家に相談してみないか、と。
「ウィンツァー公爵家に、古代迷宮好きの魔道具師がいるんだ。前に古代迷宮の地図を貸したことを覚えているか?」
アニスは「にゃあ」と鳴きながら右前足を上げた。
よく覚えている。
「その貸主がその魔道具師で、今騎士団の仕事をしてもらっている。魔法陣や暗号に非常に詳しいらしい。変わってはいるが、知識は確かだし、信用もできる」
アニスは右前足を上げた。
色々やってみたが、多分これは自分には手に負えない。
そんな訳で、2人はその人物を訪ねることにした、という次第だ。
*
貴族街を通り抜け、2人はひときわ広大な敷地を持つウィルザー公爵家に到着した。
鉄製の門が開くと、整えられた庭園と噴水と、その向こうに堂々たる石造りの屋敷が現れる。
正面玄関に差しかかると、使用人たちが一斉に出迎えに現れた。
「お帰りなさいませ、ハロルド様」
執事らしき初老の男性がお辞儀をする。
普段住んでいるハロルドの両親と兄は領地に戻っているらしく、今は彼が留守を預かっているらしい。
「オズワルドに会いに来た。図書館にいるか?」
「はい、いらっしゃいます。ご案内いたします」
2人は話しながら屋敷の中に入った。
煌めくシャンデリアが飾られており、絨毯も家具も見るからに高そうだ。
(……ザ・貴族って感じね)
アニスはキョロキョロと周囲を見回した。
今まで見た貴族の家の中で、断トツに豪華だわ、と思う。
そんなアニスを肩に乗せたまま、ハロルドは執事と共に1階の奥の部屋に入った。
そこは大きな図書館で、本の詰まった本棚がたくさん並んでおり、古い本の匂いが漂っている。
ハロルドは執事に
「ここまででいい」
と言うと、書架の脇にある木の扉を開けた。
壁に掛けてあるランプに魔法で明かりを灯すと、それを片手に石造りの階段を降り始める。
アニスは身を乗り出した。
階段がかなり下まで続いているのが見える。
(ずいぶんと下に行くのね)
さっきまでの本の匂いは薄れ、代わりに薬品と金属が混ざったような、実験室のような匂いがしてくる。
そして、階段の降りた先にある古びた扉の前に到着し、ハロルドがノックした。
「ハロルドだ。開けるぞ」
ハロルドが扉を開けると、そこには実験室のような部屋が広がっていた。
中央の広い机の上には実験器具や魔道具がならんでおり、本棚には本がたくさん並んでいる。
そして、その机に向かって何か熱心に作業している人物がいた。
白く輝く長い髪に、緑色の瞳、銀縁の眼鏡。
恐らく30歳前後くらいの男性だ。
(おじいさんかと思ってたけど、意外と若いわね)
アニスがそんなことを考えていると、彼は顔を上げた。
ハロルドを見止めると、慌てたように背筋を伸ばした。
「ハ、ハロルド様、お、お久し振りです」
そして、ハロルドの肩に乗っているアニスを見て、微かに目を見開いた。
知性と好奇心の目で探るようにアニスを見る。
(あれ? もしかして、わたしがただの従魔じゃないって分かってる?)
アニスが戸惑っていると、彼は興味深そうな顔で言った。
「……もしかして、今日はそのケットシーについてのお話ですか?」
次話以降に凡ミスが見つかりまして;; 本日はここまでになります。
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ちなみに、アニスが閉じ込められたのは陰謀ですが、呪いで猫になったのは偶然です。
陰謀側は、まさか猫になって逃げ出したとは思っていない感じです。
詳しくは、「EP11:【Another Side】報告会」 を参照ください (*'▽')