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私のことを(たぶん)嫌いな騎士団長様は、"猫"を拾ったつもりらしい  作者: 優木凛々
第2章 魔法士アニス、元に戻ろうと奮闘する
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(閑話)「はい」&「いいえ」

 

 古代迷宮から帰ってきた、その日の夜。


 アニスは、ハロルドと共に寮の部屋に戻ってきた。



「さすがに疲れたな」

「にゃあ」



 ハロルドが濡れたタオルを持ってくると、アニスがその上で手足を拭く。


 そして、ハロルドが浴室に向かった後、彼女はソファの上に寝そべった。



(なんだか、ホッと安心するわね)



 ここ住み始めて1カ月ちょっとだが、ずいぶんと慣れたものだと思う。

 クッションやお皿など、自分のものが地味に増えているのも、居心地良く感じる。



(ただ、これからどうなるかしらね……)



 アニスはずっと猫としてここにいたから、一時的に人間に戻ったからといって、そこまで心境に変化はない。


 しかし、アニス猫が人間だと知らなかったハロルドは、もちろんそんなことはなく。

 冷静を装ってはいるものの、かなり困惑しているのが見てとれた。


 前は遠慮なく抱き上げていたのに、今は「触ってもいいか」と尋ねてくるし、

 撫でようと手を伸ばして、ハッと思い出したように手を引っ込めるようになった。


 よく話しかけてくるようにはなったが、アニスが答えられる訳ではないため一方通行で、なんといういか、色々とギクシャクしている感じなのだ。



(これから大丈夫かしら)



 無理もないことだとは思う。

 なにせ、猫がアニスだったのだから。

 でも、このままでは、ハロルドが疲れてしまわないだろうか。


 アニスが若干不安に思っていると、浴室のドアが開いた。

 ガウン姿のハロルドが、髪の毛をタオルで拭きながら出て来る。


 そして、ふとアニスの方を見ると、考えるように彼女を見つめた。

 どうしたのだろうと、アニスもハロルドを見返す。


 不思議な沈黙が部屋に流れる。



 ややあって、ハロルドが動き出した。

 ベッドに座り、ポンポンと隣りを叩く。



(来いってこと?)



 アニスはソファから飛び降りると、トコトコとベッドに歩み寄った。

 ぴょん、とハロルドの隣に飛び乗って、ちょこんと座る。


 ハロルドはアニスの方に体を向けると、真剣な顔で言った。



「考えたんだが、合図を決めないか?」

「にゃん?」



 アニスが首をかしげていると、ハロルドが尋ねた。



「確か、文字を書いたり、指差したりしようとすると、体が固まるんだよな?」

「にゃあ」

「うなずいたり、首を横に振ったり、人間のような意思表示をするのも無理だと言っていたな」



 アニスが、「そうよ」という意思を込めて「にゃあ」と鳴くと、ハロルドが考え込んだ。



「では、前足を上げるのはどうだ? “はい”は右前足、“いいえ”は左前足を上げるんだ」



 アニスは目を見開いた。

 そういうのは全く思いつかなかったが、何となく上手くいきそうな気がする。


 彼女の表情を見て、ハロルドがうなずいた。



「では試してみよう。――君はアニス・レインか?」



 アニスは、ピッと右前足を上げた。

 とりあえず、体が固まる気配はない。


 ハロルドがうなずいた。



「では、次だ。――君は、男か?」



 アニスは、さっと左前足を上げた。

 今度もとてもスムーズだ。


 そして、何回か同じようなやりとりをした後、ハロルドが嬉しそうに言った。



「どうやら大丈夫そうだな」

「にゃん!」


 アニスは、さっと右前足を上げた。

 これは確実に便利になる!


 ハロルドが立ち上がった。



「では、夕食を食べに行くか。今日はデザートにチョコレートケーキなんかどうだ?」



 アニスは、ピコピコと右前足を上げた。

 ものすごく食べたい!


 ハロルドはおかしそうに笑うと、「そうしよう」とうなずいた。

「触ってもいいか?」と確認してから、アニスの頭をそっと撫でる。



 その後、2人は食堂に行くと、「はい」と「いいえ」を使いながら、美味しい食事を楽しんだ。





本日はここまでになります。

お読み頂きありがとうございました!

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明日から第3章入ります。


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