表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のことを(たぶん)嫌いな騎士団長様は、"猫"を拾ったつもりらしい  作者: 優木凛々
第2章 魔法士アニス、元に戻ろうと奮闘する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/47

09.迷宮探索

 

 ハロルドは、不気味なほど静かな夜の古代迷宮を、迷わず歩き始めた。

 宝物庫方面に向かってまっすぐ進んでいく。


 入口近くで作業途中のような掘り返した跡を見つけるが、それには構わず進んでいく。


 そして、二股に別れた場所に来ると、片側の壁を撫でた。



「……やはりなくなっている」



 彼の話では、アニスの持ち物を見つけた帰り、後から行くものが迷わないように印をつけたらしい。



「かなり強く印をつけたんだが、この通りなくなっている」



 アニスは壁をマジマジと見た。

 確かに一部がえぐられたようになくなっている。



(つまり、ハロルドが付けた目印をわざと消したってことよね)



 まるで、奥に行かせたくないかのようだ。



 ハロルドは、迷わずえぐられた側の道を進んだ。

 分かれ道のたびに壁をさぐり、えぐられた跡がある方向へと歩く。


 道は次第に岩石が多くなっていき、歩くのも大変な状態になっていく。



(これはかなり酷い崩落があったみたいね)



 もしかすると上から岩石が降ってくるかもしれない、アニスは魔法を発動した。



「にゃーん!」(物理結界!)



 頭上に青白い結界が現われる。


 ハロルドは、アニスの頭を撫でながら「ありがとう」と言うと、更に前に進んでいく。


 しばらくすると、巨大な岩石で道がふさがっている場所に来た。

 ハロルドの背丈よりも大きく、押しても動く様子がない。



「やるか」



 ハロルドはアニスをそっと地面に置くと、剣を構えた。

 軽く息を吐くと、剣に魔法を込めていく。


 剣が不思議な光を帯びていく。


 そして、その剣を目にも止まらぬ速さで振ると、巨大な岩石がバラバラになって崩れ落ちた。



(すごい!)



 アニスは感心した。

 剣でこんなことが出来るとは思わなかった。



(魔力を相当使うみたいだから何度も出来なさそうだけど、これは強力だわ)



 しばらくして、ハロルドとアニスは休憩をとった。

 迷宮の壁際に座り、持ってきた飲み物を飲み、クッキーを食べる。



 ハロルドが地図を取り出した。



「うちに迷宮好きの魔道具師がいるんだが、彼の話ではこの地下迷宮はかなり地中深くにあるらしい。特に元宝物庫のあたりはかなり深いと言っていた」



 アニスは、元宝物庫にあった小部屋を思い浮かべた。

 確かに、天井が高くて、地下深くにある感じだった、と考える。



 その後も、ハロルドは休みながら同じように道を切り開き続けた。

 アニスも、結界魔法を張ったり、土ぼこりを風魔法で飛ばすなどの援護をしながら、彼と共に進んでいく。


 岩を砕く彼を見つめながら、アニスは考え込んだ。

 彼は、なぜここまでして自分を探してくれるのだろうか。


 助けたいと思ってくれているのは分かるし、ありがたいと思う。

 でも、ここまでしてもらう理由が思い浮かばないのだ。



 そんなことを考えるアニスの前で、ハロルドが、ふと時計を取り出した。

 確認して、軽く眉をひそめる。



「もう5時か。あまり進めなかったな」



 そして、アニスをひょいと持ち上げると、肩に乗せた。



「捜索隊が来る前に一旦戻ろう」



 アニスは同意するように「にゃあ」と鳴いた。

 ハロルドが魔力を使い過ぎではないかと心配していたので、ちょうど良かったと胸を撫でおろす。


 2人は来た道を戻り始めた。

 ハロルドが岩を切った場所を通り抜けると、アニスがくるりと後ろを向いた。



「にゃーん!」(岩生成!)



 土魔法を使い、先ほどとそっくりの岩っぽいものを作り上げる。

 ハロルドが来たことがバレないようにという小細工だ。


 アニスの作ったそれを見て、ハロルドが目を見開いた。

「お前、本当にすごいな」と感心したように、アニスの頭を撫でる。


 そして、迷宮内を歩くこと、しばし。

 2人は久し振りの外に出た。

 外は朝靄に包まれており、空気がひんやりとしている。


 森の香りを吸い込みながら、アニスは息をついた。

 外に出られたことを実感する。


 その後、2人は馬に乗ると、近くの街へとゆっくりと走っていった。




 *




 この日から、ハロルドとアニスは不思議な生活を送り始めた。


 早朝に近くの街にある宿にこっそり戻り、昼まで睡眠。

 昼過ぎに起きてから街を観光し、美味しい料理屋で早目の夕食を食べて部屋に戻り、夜に宿をこっそり抜け出して迷宮探索をする。

 そして、朝方宿屋にこっそり戻り、昼まで眠りにつく。


 アニスは心配になった。

 ハロルドは明らかに睡眠不足だし、ちゃんと休めていない。

 魔力も使い過ぎている気がする。


 しかし、ハロルドの方は、気にならないのか、気にしないのか、黙々と探索を続ける。

 そのお陰もあり、2人はどんどん宝物庫に近づいていく。


 心配しつつも、アニスは思った。

 このペースだったら、5日目にはあの石碑のあった小部屋に到着しそうね、と。



(もしかすると、この猫生活も、あと少しかもしれないわね)



 そう考えると、寂しいものの、ホッとした気持ちになる。






 ――しかし、物事はそうは上手くはいかないもの。



(っ! なにこれ!)



 探索5日目。

 2人が元宝物庫に到着すると、おびただしい量の岩石が、入口を完全にふさいでいた。

 どの岩石も大きく、ちょっとやそっとで動かせそうにない。


 ハロルドが苦笑した。



「これは時間がかかりそうだな」



 アニスは岩石の1つに触れた。

 魔法で何とかできないかとも思うが、どうやら宝物庫と同じく、魔法を吸収する類の岩石らしく、上手くいきそうにない。



(これは大変だわ……)



 彼の顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。

「残り3日か……」とつぶやきながら、岩石を砕き続けるも、大きな前進もない状態で時間がきてしまう。



「仕方ない。戻ろう」



 ハロルドは、アニスを肩に乗せると、来た道を戻り始めた。

 彼女は心配そうに彼を見た。

 未だかつてないほど疲弊しているのが見てとれる。


 外に出ると、夜明けとは思えないほど空は真っ暗だった。

 風が強く、冷たい霧雨が降っている。



「……帰るか」



 ハロルドは疲れたようにつぶやくと、濡れないようにとアニスをマントの中に入れながら、馬に乗って近くの街へと戻っていった。






続きは後ほど投稿します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ