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私のことを(たぶん)嫌いな騎士団長様は、"猫"を拾ったつもりらしい  作者: 優木凛々
第2章 魔法士アニス、元に戻ろうと奮闘する
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08.夜の冒険


 ハロルドと旅行にいくことになった、その翌日の昼前。


 アニスは、彼の部屋のソファの上で昼寝をしていた。

 朝方まで禁書庫で調べ物をしていたので、眠くて仕方ない。


 目の前では、メイド2人が旅行のための荷物の準備をしている。


 ハロルドの服をたたみながら、若い方のメイドが口を開いた。



「ハロルド様、どこへ行かれるのかしら」

「何でも食事の美味しい街に行くらしいよ。前々から行きたいと思っていらしたって話だ」



 役職が上らしい中年のメイドが答える。



「もしかして、恋人と行くのかしら」

「従魔とのんびり行くって話だ」



 若いメイドが、ソファで寝ているアニスを羨ましそうに見た。



「いいなあ、私もハロルド様と一緒に食べ歩きしたい」



 アニスは苦笑した。

 どうやら彼はメイドたちにもモテモテらしい。



(確かにカッコいいものね。意外と優しいし)



 そして、準備を終えたメイドたちが部屋を出て行ったあと、アニスはソファから飛び降りると、窓から外をながめた。



(まさか、こんなにあっさり古代迷宮に行けるとは思わなかったわ)



 ハロルドがなぜ古代迷宮に寄ろうと言い出したかは分からない。

 でも、あの石碑を調べるチャンスだ。



(問題は、どうやって奥まで行くかよね……)



 猫の体は小さい。隙間が空いていれば潜り抜けられるとは思うのだが、こればかりは実際に行ってみないと分からない。



(それに、ハロルドはどのくらい滞在するつもりかしら)



 彼は「古代迷宮に寄る」と言っていた。

 帰りにちょっと寄るくらいだとすると、1時間もないかもしれない。



(そうなるとちょっと厳しいわね……)



 そんなことを考えながら、ぼんやりと外をながめる。




 ――そして、昼寝をしながら待つこと、数時間。



 ガチャガチャガチャ



 鍵を開ける音が聞こえてきた。

 寝ぼけ眼で起き上がると、そこにはハロルドがいた。

 大きな紙袋を持っている。


 彼は、その紙袋からサンドイッチや果物などを取り出すと、テーブルの上に並べ始めた。



「急いで食べて出掛けよう」



 アニスは、「にゃあ」と鳴くと、ややぼんやりしながらテーブルの上に飛び乗った。

 サクサクとクッキーを食べながら時計を見ると、時刻はもう3時を回っていた。



(もうこんな時間なの? これから出発って、遅くない?)



 この時間に出たら、南の街に到着するのは夜だ。

 そこから宿を探して、果たして見つかるのだろうか。


 心配の目でハロルドを見ると、彼は上品にサンドイッチを食べていた。

 特に慌てた様子もなく、極めて普通だ。



(お貴族様だから大丈夫とかあるのかしら)



 そんなことを考えていると、ハロルドが着替え始めた。

 動きやすい格好に着替え、腰にやけに重そうな剣をさすと、アニスを手招きした。



「行こう」



 アニスは大人しく彼の肩に乗った。


 ハロルドは荷物を持って馬小屋に行くと、馬に乗って王城を出た。

 王都の街を通り抜け、城門を潜って外に出る。


 アニスは風魔法で揺れを軽減しながら、空を見上げた。

 空は茜色に染まってきており、もう数時間すれば真っ暗になりそうな気配だ。



(本当に大丈夫かしら)




 ――そして、時々休みながら馬で走ること数時間。



「着いたぞ」



 宵闇の中、ハロルドが馬を停めた。

 馬から降りると、たずなを木に掛けて、水をやったり、近くに魔物除けの魔道具を仕掛けたりする。


 アリスはぴょんと地面に飛び降りた。

 周囲を見回すと、一面暗い森が広がっている。



(こんな森の中で何をするのかしら……?)



 キョロキョロしていると、ハロルドがアニスを抱き上げた。

 肩に乗せると、森の中を静かに歩き始める。


 そして、開けた場所に出て、アニスは思わず大きく目を見開いた。



(こ、ここって……!)



 そこにあったのは、大きな口をぽっかり空けた古代迷宮の入口だった。

 間違いなくアニスが崩落に巻き込まれた、あの古代迷宮だ。


 近くには捜索隊の拠点らしき複数のテントが張られており、下にテーブルなどが置かれている。



 アニスは呆気にとられた。

 まさか、いきなり来るとは思わなかった。



(しかも、なんでこんな夜に……?)



 アニスが首をかしげていると、ハロルドがテーブルの上に置いてあったランタンに魔法で火を灯した。

 何かを広げ、熱心にながめ始める。



(なにかしら)



 テーブルの上に飛び乗ってそれを見て、アニスは目を丸くした。



(これって、地下迷宮の地図じゃない!)



 驚くアニスの顔を見て、ハロルドが、ふっと笑う。

 そして、独り言ちるように話し始めた。



「実は、何度か捜索に参加したいと申し出たんだが、ことごとく却下されていたんだ」



 彼によると、捜索の指揮をとる魔法士団から、色々な理由を付けて断られていたらしい。



「仕方ないと黙って見ていたんだが、どうも様子がおかしいように感じて、こうやって来たんだ」



 どうやら、彼はこれから単独でアニスを捜索するつもりらしい。


 アニスはポカンとした。

 まさかそんなことを考えているなんて夢にも思わなかった。


 彼曰く、昼間来て捜索すると魔法士団の面子を潰すことになるため、こうして夜にこっそり捜索することにしたらしい。



「幸い、捜索は朝から夕方までだ。今から明け方までであれば自由に捜索できる」



(だからこの時間なのね)



 なるほど、と納得しながらも、アニスは疑問になった。

 なぜ、ハロルドはここまでアニスを探してくれているのだろうか。



(良いライバルだったとは思うけど……)



 この前、カトリーナに対して怒った件といい、今回の件といい、

 ハロルドが何を考えているのか分からない。



 考え込むアニスの目の前で、ハロルドが地図の入り口付近あたりを指差した。



「捜索隊は、ここの奥に彼女が閉じ込められたと言っているらしい。だが、私の意見は違う」



 アニスは、はっと我に返ると、「そうよ!」と言いたげに「にゃーん」と鳴いた。

 地図の上に座り込むと、尻尾でくるりと元宝物庫のあたりを囲む。



(わたしが閉じ込められたのは、ここよ! ここ!)



 アニスの尻尾の先を見て、ハロルドがうなずいた。



「私もそこだと思っている。そこを目指そう」



 アニスは、複雑な気持ちになった。

 石碑があるこの場所を目指してくれるのはありがたい。

 でも、自分がここにいないことは分かっている。


 下手したら、いない自分を探して、逆にハロルドが崩落に巻き込まれてしまう可能性もある。



(何とか、わたしはそこにいないって伝えないと)



 頼むから伝わって! と思いながら、アニスはつぶらな瞳でハロルドを見上げた。

 そこにアニスはいませんよ、と念じながら「にゃーん」と鳴く。


 ハロルドが不思議そうな顔をした。



「どうした? お腹が空いたか?」

「にゃん!」(違う!)



 その後も、地図を尻尾で叩いてみたり、ぶんぶん振って「いない」とアピールしてみたりするものの、案の定通じない。


 そして、アニスの奮闘の甲斐もなく、



「そろそろ行こう」



 ハロルドが手早く地図を片付け始めた。

 立ち上がって、アニスを肩に乗せる。



(ダメだった……)



 アニスは心の中でため息をついた。


 これはもう、腹をくくって石碑のところまで一緒に行こう。

 その場で人間に戻ることができれば、問題は全て解決する。



(よし、がんばるわよ!)



 そんなアニスの頭を、ハロルドがそっと撫でた。

「入るぞ」とつぶやく。


 そして、剣の柄に手をかけると、慎重に迷宮内へと入って行った。





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