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私のことを(たぶん)嫌いな騎士団長様は、"猫"を拾ったつもりらしい  作者: 優木凛々
第2章 魔法士アニス、元に戻ろうと奮闘する
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02.お試し従魔

 

(なるわよ! 従魔!)



 何がなんでもハロルドの従魔になることを決心する。


 そして、しばらくして。

 ガチャリ、とドアが開いて、打ち合わせに行っていたハロルドが戻って来た。

 ジャケットを羽織るなど、仕事に行く準備を始める。


 そして、部屋を出て行こうと、ドアに向かって歩き出そうとした、そのとき。



「にゃーん」



 アニスがハロルドの前に立ちふさがった。

 ハロルドが右に動けば右に動き、左に動けば左に動き、完全に道を塞ぐ。


 そして、ちょこんと座ると、つぶらな瞳でハロルドを見上げた。



「にゃーん」



 ハロルドが、口角を上げつつも、困ったなという風な顔をした。

 しゃがみ込むと、アニスの目をのぞきこむ。



「どうした? 何かあるのか?」

「にゃあ!」



 アニスは「そうだ」とばかりにしっぽを揺らした。

 そして、ハロルドの手をするすると登って肩に乗った。

 肩の上にちょこんと座る。



(さあ、わたしを連れて行きなさい!)



 一緒に行く気満々のアニスを見て、ハロルドが思わずといった風に吹き出した。

 少し考えるような顔をした後、軽くうなずく。



「……わかった。今日は執務室に行くか。大人しくするんだぞ」



 アニスは賢そうな顔で「にゃあ」と返事をしながら、心の中でガッツポーズを決めた。

 一緒に連れて行け作戦、大成功だ。



(よーし、がんばるわよ!)



 ちなみに、今日の彼女の目標は、「お役立ちアピール」をすることだ。

 一緒にいてハロルドの役に立つことで、「こいつは役に立つから、従魔として毎日連れ歩こう」と思わせるのだ。



(毎日一緒に行動できれば、色々な人に会えるわ)



 会う人の中に、自分が猫ではなく人間だと気が付いてくれる者がいれば、一歩前進だ。





 ――その後、ハロルドはアニスを肩に乗せて部屋を出た。

 階段に差し掛かり、ハロルドが気遣うように尋ねる。



「大丈夫か? 降りるか?」



 アニスは、大丈夫という風に「にゃあ」と答えた。


 実を言うと、揺れるし高いしで少々怖いが、

 この場所が一番人目につきやすいので、今日は終日この位置を陣取るつもりだ。


 ハロルドは、アニスを肩に乗せたまま騎士団本部へと向かった。


 いつも貴族然とした騎士団長の肩に小さな猫がのっているせいか、すれ違う騎士たちが驚いた顔をする。




 そして、執務室に到着すると、そこは整然とした部屋だった。

 余計な装飾がなく、実にシンプルだ。



(あれ? 女の子からのプレゼントは……?)



 噂によると、ハロルドの部屋は女の子からのプレゼントでいっぱいという話だったのだが、そういったものは1つも見当たらない。



(単なる噂だった? でも、最近片付けたって線もあるわよね)



 アニスがそんなことを考えていると、上着を脱いだハロルドが、「大人しくするなら自由にしていいぞ」と言って、執務机に向かった。


 机の上に置いてあった書類に次々と目を通し始めた。

 書類を仕分けし、人を呼んで仕事をどんどん振っていく。



(ハロルドって、人に仕事を割り振るタイプなのね)



 自分だったら、全て自分でやっていただろうな、と思う反面、こういうやり方もあるのね、と思う。



 しばらくすると、ノックの音がして、紙束を抱えた文官服の若い男性が入ってきた。

 机の端に座るアニスを見て、驚いたように目を見張る。



「この猫、どうしたんですか?」

「ああ、友人の従魔だ」



 アニスが「誰?」と首をかしげていると、ハロルドが説明してくれた。



「彼は、カミールだ。色々と仕事を手伝ってもらっている」

「よろしくね、猫ちゃん」



 穏やかで頭の良さそうな人ね、と思いながらアニスが、「にゃーん」と鳴くと、カミールが目を見張った。



「この猫、賢いですね」

「ああ、私も驚いている」

「うちで飼っている猫も賢いですけど、ここまで人間っぽくはありません」



 そう言いながら、カミールは持っていた紙を執務机の上に広げた。

 見ると、アニスが崩落にあった例の地下迷宮跡の地図で、どうやら状況報告に来たらしい。



(今どうなっているのかしら)



 興味深く地図をながめていると、カミールが迷宮入り口付近の通路や空間を指差した。



「現在、ここを捜索しているとのことですが、部屋全体が岩で埋まっているため、非常に難航しているそうです」



 アニスが首をかしげた。



(なんでこんな場所探しているのかしら?)



 アニスが最後にいた元宝物庫のかなり手前だし、そもそもこんな場所には行ってすらいない。

 同じことを思ったのか、ハロルドが尋ねた。



「私がアニス・レインの持ち物を見つけたのは、ここよりずっと奥の元宝物庫のあたりだった。なぜこんな場所を捜索しているんだ?」

「アニス様と一緒にいたという魔法士の方が、アニス様が行方不明になったのは、確かにこの付近だったと言っていたそうです」



 アニスは思わず目を見張った。

 彼とは、確かに元宝物庫のところで別れたはずだ。


 そもそもアニスは迷宮にいない訳だから、危険な奥に入って探されるよりは、安全に入り口付近を探してもらっていた方がまだマシだとは思う。

 だが、なぜそんな勘違いをされているのかが分からない。



(どうして……)



 考え込むアニスを他所に、カミールが状況の報告を続ける。


 そして、ハロルドに「他に何かないか」と問われ、そういえば、と声を潜めた。



「……実は、行方不明のアニス様について、おかしな噂が王宮に流れております」

「おかしな噂?」

「はい、行方不明になる直前、アニス様がフェリクス殿下に婚約解消を申し出た、というものです」



(……は!?)



 アニスは呆気にとられた。

 あまりに予想外な話に、思考が固まる。


 ハロルドが眉をひそめた。



「それは確かなのか?」

「事実は分かりませんが、噂ではそうなっております」



 カミールの話では、貴族たちの間では、

「王族であるフェリクス殿下に婚約解消を申し出るなど、アニスは実にけしからん人物だ」

 と言われているらしい。



(な、なによそれ!)



 アニスは憤慨した。

 事実と真逆ではないか!



(さては、殿下が自分に都合の良い噂を流したわね!)



 にゃあにゃあと怒りの声を上げる。


 ハロルドとカミールが不思議そうにアニスを見た。



「どうしたんだろうな」

「多分、お腹が空いたんだと思います。うちの猫もお腹が空くとこんな感じになりますし」


「にゃー!!」(そうじゃない!)



 尻尾をパシパシして抗議するが、2人は「わかったわかった」という風な優しい目をする。



 その後、アニスの抗議は全く通じないまま話は進み、

 カミールは「また来ます」と言うと、忙しそうに執務室を出て行った。





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