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私のことを(たぶん)嫌いな騎士団長様は、"猫"を拾ったつもりらしい  作者: 優木凛々
第2章 魔法士アニス、元に戻ろうと奮闘する
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01.猫生活2日目


第2章「魔法士アニス、元に戻ろうと奮闘する」

スタートです!

 

 ハロルドに拾われた、翌日の朝。


 アニスは外から聞こえてくる小鳥の声で目を覚ました。

 目を開けると、カーテンの隙間から朝の青白い光が差し込んでいる。


 彼女は起き上がると、ググーッと伸びをした。

 ベッドの方に目をやると、ハロルドはまだ寝ているらしく、毛布が軽く上下している。


 彼女は、ソファの上から飛び降りると、床をトコトコと歩き始めた。

 鏡の前に行き、自分の姿をまじまじと見る。



(……猫ね)



 少し茶色がかった黒色の毛並みに、つぶらな瞳、ゆらゆらと揺れるしっぽ。

 見まごう事なき、小さな猫だ。



(……はあ)



 彼女は深いため息をついた。


 朝起きたら元に戻っているかもしれない、と密かに期待していたのだが、どうやらそんな都合の良いことはないらしい。



(これって、どうやったら戻れるのかしら……)



 魔法で猫になったのなら、解く方法があるはずだ。

 その方法が分かれば、きっと人間に戻れるとは思うのだが……。



(まったく見当がつかないのよね……)



 猫になる魔法なんて聞いたことがない。

 その上、どうやら同時に制限系の魔法もかけられているらしく、昨夜、ハロルドに言葉を伝えようと、文字を書こうとしたり、文字を指差そうとしたのだが、体が動かなくなって失敗に終わった。


 多分古代魔法の類だとは思うのだが、アニスの知識ではさっぱり分からない。

 分かったとしても、解くのには相当な時間がかかりそうな気がする。



(困った……)



 アニスは焦りを覚えた。


 今のアニスの状態は、行方不明だ。

 みんな心配しているに違いないし、このままでは、みんなアニスをずっと探し続けることになってしまう。


 加えて、執務室には、ヘクトールに頼まれた大量の仕事が残っている。

 両親に頼まれた仕送りもしていない。


 ちゃんとやらないと迷惑をかけてしまう。



(早く戻らないと! …………でも、どうやって……)



 アニスが、うんうんと頭を悩ませていると、

 ベッドの方で何かが動く気配がした。


 振り返ると、ハロルドが起き上がっている。

 片手で美しいプラチナブロンドをかきあげ、少しボンヤリとしている。


 彼は端正な顔をアニスに向けた。



「……そうだ、お前、いたんだったな」



 ベッドから立ち上がると、近づいてきて、

 頭を撫でようと手を伸ばしてくる。


 そして、アニスに素早くその手を避けられると、彼は思わずといった風に口角を上げた。



「お前は、本当に飼い主にそっくりだな」



 そう面白そうに言うと、浴室に入って行く。


 アニスはため息をついた。

 助けてもらったことは感謝しているが、一緒に住むのはどうも落ち着かない。




 その後、ハロルドが身支度を済ませると、メイドが朝食を運んできた。

 どうやら、昨日の夜に頼んでいたらしい。


 今日の朝食は、果物やパンケーキ、卵料理、ソーセージなど、かなり豪華だ。

 作りたてなのか、よい香りが漂ってくる。



(おいしそう!)



 ハロルドは椅子に座ると、目を輝かせるアニスを手招きした。

 そして、アニスがテーブルの上にそっと飛び乗ると、2人は一緒に朝食を食べ始めた。


 アニスが、リンゴに手を伸ばすと、ハロルドが「それか」と言いながら、ナイフで食べやすく切って、彼女の皿にのせてくれる。


 アニスは「にゃあ」とお礼を言うと、リンゴを両手で挟んで食べ始めた。


 その様子に口角を上げながら、ハロルドもゆっくりと食事をする。


 その後も、アニスはパンケーキやクッキーなどに手を伸ばし、その度にハロルドが切り分けてくれる。



 そして、食事が終わり、アニスは、ほう、と息をついた。

 美味しかった、ありがとう。という気持ちを込めて「にゃあ」と鳴く。


 そして、ハロルドが食後の紅茶を飲んでいる横で、お皿の水を舐めていた、そのとき。



 コンコンコン



 控えめなノックの音が聞こえてきた。

 ハロルドが返事をすると、ドアがゆっくりと開いた。


 メイドが1人立っており、ハロルドに向かってお辞儀をする。



「ハロルド様、下に文官の方がいらっしゃっています。何でも、今朝予定されていた魔道具の打ち合わせの予定変更について少しお話したいそうです」

「ああ、分かった。今行く」



 ハロルドが、「ちょっと行ってくる」と断って、立ち上がった。

 急ぎ足で部屋の外に出て行く。


 その後姿をながめながら、アニスは意外に思った。

 騎士団長が、魔道具師と打ち合わせをするとは思わなかった。



(武器とかの関係かしら)



 そんなことを考える。


 そして、彼女は、ふと思った。

 もしかして、魔道具師のような魔法職の中に、アニスが実は人間だということに気が付いてくれる人がいるのではないだろうか、と。



(もし気が付いてもらえれば、みんな安心するだろうし、捜索も打ち切ってもらえる)



 魔法職の人間や魔法研究家、勘の良い人間など、

 ハロルドと一緒にいれば、そういう人に会えるのではないだろうか。



(こ、これよ!)



 アニスはぐっと拳ならぬ前足を握り締めた。

 やっと希望が見えてきた気がする。



(つまり、ハロルドの従魔になればいいってことよね!)



 従魔であれば、どこにでも連れて行ってもらえる。

 連れて行ってもらえれば、誰かがアニスが人間だと気が付いてくれるかもしれない。


 かつてのライバルの従魔になると思うと少々癪だが、そんなこと言っていられる状況ではない。



(なるわよ! 従魔!)



 何がなんでもハロルドの従魔になることを決心する。





 そして、しばらくして。



 ガチャリ



 ドアが開いて、打ち合わせに行っていたハロルドが戻って来た。






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― 新着の感想 ―
従魔って、それはもしや人間に例えると結婚とほぼ同義なのでは…?(たぶんアニス本人は気付いていない)
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